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第4話 懲罰を与える

部活終了後、陽太のアパートに向けて三人で歩いた。


すると、アパートの上にまがまがしいコウモリが飛び回り、そこら中に蜘蛛の巣が張り巡らされている。

周りの木々は枯れ、葉っぱはすべて落ちて、黄昏時の黒いシルエットがやけに不気味だった。


「これは」


遼太郎が見上げる月が真っ赤だ。

思わずみんなでゾッとする。


「低級じゃない感じ」


結の言葉に陽太は自信を取り戻し


「だろ?」


と返答した。だが、陽太自身も恐ろしさを感じていた。

三人でアパートの階段を踏みしめる。

普段、鳴りもしないのにギィ、ギィと音がする。


「こんなところだっけ? 不気味」


遼太郎のそんな言葉が尚一層不気味に感じさせた。

陽太の部屋へ向かう通路に出ると、一番奥の誰も住んでいない部屋の扉が風もないのにキィキィと半開きのまま音を立てている。


「帰りたくなってきた」


二人がたじろいでそう言うが、陽太にとっては自分の部屋だ。

意を決してドアに手をかけて


「開けるぞ?」

「う、うん」


二人の言葉を聞いて、扉に手をかけるとギ、ギ、ギ、ギと音を立てて陽太の部屋のドアが開く。


すると、その隙間から大量のネズミがチュウチュウと鳴きながら踊り出てきた。

三人は完全に固まった。


だが中から


「お。待ちかねたぞ。ヒナタ。中に入れ」


との明日香の声。

三人は中に入ったが瞬間!


「くっさい!」


結は鼻を押さえてしゃがみ込んだ。

部屋には硫黄のような激臭が充満していたからだ。


「何? なんでまたこんなにおいなの? なんで部屋からネズミが出てきてるの?」


遼太郎が床を軽くポンポンと足で叩いて


「この床腐ってる。力入れると踏み抜けちゃうぞ??」

「なんで? なんで?」


陽太の狼狽に明日香はフフと笑った。


「余が暮らしやすいようにさせてもらったぞ? おかげでこのように魔力も戻って来た。ところで、この人獣のものたちはなんだ。オマエの食糧か?」

「んなわけあるかよ」


「とすると、お前の朋輩はらからか。はっはっは。余がアスタロト公爵だ。見知ったか。下賤の者たちよ。」


遼太郎と結は顔を見合わせた。


「本物」

「だね」


二人とも手を繋ぎ合って大喜びだった!


「すげぇ! すげぇ!」

「本物! 本物!」


「はっはっはっは! ヒナタとは大きな違いだ。大変よい反応だ!」


はしゃぐ三人をよそに、陽太はゲンナリとしていた。

変わり果てた部屋の姿。虫だらけで腐敗している。硫黄臭もある。これでは敷金が返ってこない。


「この部屋、なんとかなんねーんすか?」

「ん? 不満か?」


「不満だよ」


あからさまに不満を顔に出したが、明日香は意に介さずと言った様子。

遼太郎が空気を読んで


「まぁ、人には暮らしにくいだろうなぁ。オレん家くるか?」


と言ったが、陽太は明日香を睨みつけながら


「ダメだよ」

「なんで?」


「アスカは人間の世界で暮らしたいんだろ? だったら、普通に戻してよ」


「なぜだ? なぜ高貴な余が、足下のような山野の獣に合わせなくてはならんのだ?」


明日香はそう言いながら、何もない空中から本を取り出して読みだした。

陽太はこの話の合わない相手に対し思い切りため息をついた。


「しょうがないよ。ヒナタ。今日はウチで寝ろよ」


と遼太郎は陽太の肩を一つだけ叩いたが、そのセリフに明日香は反応した。


「ん? それはならん」

「なぜです?」


「余はヒナタに興味を持ったのだ。今までだって、大変待ちかねたのだぞ? さぁ、さっさと生活してみせよ」


生活してみせよ。遼太郎「うーん」と一言うなった。

しかし、本を読みだす明日香。ホントに興味あるのかどうなのか。

顔は本に向けながら、キッチンを指さして


「ホラ。あれだ。粗餐そさんを作れ。作ったら見せてみよ」


「そさん?」

「料理のことじゃない? いい意味じゃないだろうけど」


さすがにカチンと来た陽太。

なぜ、そんなことまで命令されなきゃならないのか。居候の分際で。陽太は遼太郎に近づいて小声で相談を始めた。


「なぁ、遼太郎?」

「ん?」

「なんか、懲らしめる方法とかないの?」

「ああソロモンの鍵あるか?」


「あ、ああ」


陽太はこっそりとクリアファイルに閉じていた、ソロモンの鍵を取った。


遼太郎は日本語訳された紙をチラリと見て、指でトントンと叩いた。

陽太は小声でそのカタカナの文字を読み上げた。


カタカナだけど効くのか? 半信半疑ながらの抵抗だった。


「アグロン テタグラム ホニャララ ペロペロ」


長いので後半は略すが、それを詠唱しだすと明日香の様子が少しずつ変わってきた。


「ん? なんだ? 痛! イテテ! 頭が痛い。頭痛がする」


そのうちに椅子から離れ、膝を折って床にひたいをつけてしまったと思ったらゴロゴロと転げ回りだした。


「あ! ぐぁ! ぬぬぬ。誰かが余を攻撃しておる」


頭を抱えて三人の方を見る!


「あ! ヒナタ! 貴様。動物に等しい分際でッ!」


明日香は指をこちらに向けた。

おそらく魔法を使うつもりなんだろう。

陽太は声を強めた。


明日香は頭を押さえて


「痛! いたぁ~ん! やーん! だめぇー!!」


なまめかしい声だが悪魔だ。

こういうところで力を示さないとおそらく三人は八つ裂きにされちまう。


「アン! だめぇ! ごめんなさぁい! 許して! 勘弁してぇ~!!」

「じゃぁ、言うことを聞いてアパートを直すか?」


陽太の言葉に明日香は無理して笑った。


「くふふふふふ。ぬぬぬぬ。誰が、貴様の言うことなぞッ! 下賎な人獣め。効かぬ。効かぬぞ。今八つ裂きにしてくれる」


「アグロン テタグラム ホニャララ ペロペロ」


「きゃーあ! きゃーあ!」


ゴロゴロと転げ回る明日香に、遼太郎と結はオロオロしていたが、陽太は毅然と明日香を攻めた。


「ちゃんと言うこと聞くか? 聞かないのか?」


アスカは全身、汗ビッショリ。

髪の毛も顔に貼付いていた。


「なんのこれしき。なんのこれしき」


「アグロン テタグラム ホニャララ ペロペロ」

「~~~ーーー!」


「オマエ。大人しい顔してドSだったんだな」


遼太郎は鬼気迫る様子の陽太にそんなことをつぶやいたが、陽太はお構い無しだった。


さらに攻勢を続けると、明日香はぐったりとしてしまった。

しかし、なおも呪文を唱え続けた。


「言うことを聞くのか? 聞かないのか?」

「分かった。分かったからもうやめて」


「聞くんだな?」

「聞くよぉ~」


陽太は、遼太郎の胸にソロモンの鍵を押し付けた。


「遼太郎。オレに変わって呪文を唱え続けろ」

「え? なんで?」


「いいから!」


「う、うん。アグロン テタグラム ホニャララララ」


「きゃー! なんで!? なんでぇ~!? 割れる! 頭、割れちゃうぅー!」

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