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第32話 同棲生活

陽太が明日香にしがみついて瞬間移動する少し前。

前野と竹丸の帰宅時。


前野は腕を組みながらが部屋のドアの前で竹丸を睨みつけていた。


「あは。ごめんなさい。タマモさん。お待たせしちゃって」


「遅いんだよ! グズ犬! さっさと開けろよ!」

「はい。ごめんなさい」


竹丸がドアのカギを開ける。


「さっさと入れよ!」

「あ、はい」


竹丸が部屋の中に入り、その後ろの前野も半ば竹丸を押すような形で入り込んでドアを閉めた。


すると。


険しい前野の顔がグニャリをゆがんで泣きそうな顔に変わって行く。


「ああん。タケちゃぁ〜ん。ゴメン。ゴメンねぇ〜! 素直になれないタマモを許してぇ〜! ぶって! 悪い子のタマモをぶって!」


そう言いながら竹丸の手をとって自分の頬に押し当てる。


「大丈夫ですよ。もう許してますから」


竹丸はそんな前野を抱きしめた。


「ああん! タケちゃんカワイイ!」


前野はピョイと飛び上がって、竹丸の首元に足をからめた。

逆肩車といった形。


「ちょっ! あぶな!」

「いーじゃん。ウチを運んでぇ〜!」


「前が全然見えないんですけど」

「いいのォ! 犬は視覚より嗅覚と聴覚! さぁ! 進め!」


柔らかな前野の足に挟まれて……ヨタヨタと進む竹丸。

顔の前には前野の局部。それを乗せたままリビングに運ぶ。

普通の男であれば幸せな光景だが、竹丸は黙って前野をソファーにトサっと下ろした。


「あァん! もう! ベッドがいい!」

「まだ日が高いですよぉ。まず食事にしましょう」


「やーだ! やーだ! やーだ! ねぇ、カーマスートラをちゃんと1からしようよ!」

「やっぱりインドでも悪さしてたってウワサホントだったんだぁ」


と、竹丸は苦笑しながらネクタイをほどきはじめた。


「もう! 前彼の話しはいいっこなし!」


竹丸は黙ってスーツを脱いでクローゼットの中にかける。

その間、前野はキッチンに走り出して皿を出し、冷蔵庫から油揚げと骨、ドッグフードを皿に投入。ドッグフードが皿に当たってカラカラと音がする。

その音を聞いて、竹丸はキッチンにやってきた。


「わ! すっごいご馳走!」

「でしょ! 肉屋さんから骨もらってきた!」


「わー。ありがとうございます!」


キッチンに迎え合わせで座って、お互いに手を合わせ


「いただきます」


カリコリと音を立てて竹丸は骨にかぶりつく。

前野はお箸で油揚げを口に運ぶ。


前野は竹丸の皿に乗ってるドックフードを端でつかんで


「いただき! パク」

「あ! ウゥウーー!」


と、前野を睨んで犬歯をむき出しにして唸る竹丸。


「んふふ。地が出てる」

「止めて下さいよ。人の食事にまで」


楽しい二人の団らん。

主に前野がしゃべっているのだが。


「ごちそうさま!」


前野は一足先に食事を終了して、竹丸の隣にいそいそと座り込む。


「まだ食べてます」

「いいじゃん。足を触るだけ」


ピタ。前野は自分の手を竹丸の太ももに添えた。

それを優しくなでるように触る。


「ちょっ!」

「んふんふんふ」


「正直、発情期じゃありませんし」

「いーの! 女が誘ってんだから!」


動物界では女性の権威が高い。

男側は女性からの申し出に断ることはほぼ不可能だ。


「でも、さすがに今は理性ありますから」

「フン。つまんない!」


前野は竹丸の足から手を放し、腕組みをしてそっぽを向いた。


「あは。ゴメンナサイ。タマモさん」


しかし、竹丸の体にグッ!と桃色の空気が伸し掛かって来る!


「あ! 誘惑の術! ぐぅぅぅ!」

「んふふ。もう、ダメでしょ? 耐えらんないでしょ?」


竹丸は必死に術を跳ね返そうと冷静に体を起こしていんを結んで目を閉じた。

だが、それ以上の桃色の空気が伸し掛かる。


「ああん! ワタクシだって、ワタクシだって、修行したんです! 苦行したんです! なんのこれしき。なんのこれしき」

「ほーら。素直になっちゃいなって!」


竹丸に抱きついて、優しく手を動かす。

その度に竹丸は過敏にビクっと大きく体をのけ反る。

圧倒的な誘惑の術だ。普段冷静な竹丸もたまらず目の焦点があわなくなるほどだった。


とうとう耐えきれなくなった竹丸は本来の白い犬の姿に変わった。


前野も細い体の九尾の狐に変化し、部屋の中を仲良く追いかけっこ。

前野の背中を捉え、その首にカプリと噛み付いた。


「タマモ。おとなしくしろ」

「呼び捨て! ステキ! 早く早く!」


「あぐぅ」


だが、術が酒のように完全に体を回ってしまって一声あげてそのままベッドに倒れ込んだ。

これは好機と前野が上に乗る。攻め立てようとした瞬間。


二人の部屋に、明日香と陽太が姿を現した。


「キャァ! アッちゃん!」


目のやり場に困る陽太。部屋の天井の四隅を見ることにした。

明日香は動揺する前野の姿が面白くて仕方がない。


「あれ? あれ? キライだって言ってたのに? ただ利用するだけとか言ってなかったっけ?」


前野は首を大きく振った。その度に露出されている胸も大きく揺れる。


「違うの! 違うの! 襲われたの!」


恥ずかしさのあまり顔を抑えたままの前野。

姿は半分キツネ。

襲われたと言っても乗ってる格好だ。

どう考えても前野が竹丸を襲っているようにしか見えない。


「もう! いくらアッちゃんでも、玄関から来てよね!」

「え? だって襲われたんでしょ? 助かったんじゃないの?」


「うー! もう! アッちゃんのバカ!」

「あっはっはっは! あっはっはっは!」


竹丸は、白い犬の姿で恍惚な表情をしていた。体をヒクヒクと動かして舌を長く出しよだれを垂らしている。

そして陽太たちがいるのが分からないのか、体を起こして前野のお尻辺りをクンクンと匂いを嗅いでいた。


「バカ! おあずけだよ!」


前野にそう言われて竹丸(犬)は寂しそうな顔をして、ベッドの下に入り込んで悲しそうに


「クゥゥーン」


と鳴いていた。それを見た前野、


「かわいすぎ……」


らしくないセリフに陽太も


「え?」


と訊ねると、前野は手をバタつかせながら取り繕った。


「あ、いや、なんでもない。あのさァ二人とも。ちょっとウチたち、着替えるからリビングのソファーに座ってて? ね?」


という言葉に明日香は


「うん。いいよ」


と応え、陽太たちは寝室から出た。

リビングのソファーでテレビを見ていると、突然の横揺れの地震だった。だが陽太は顔を赤くしながら知らん顔をして部屋の四隅を見ていた。しばらくすると寝室のドアが開いて


「ゴメンゴメン。ちょっといい服見つからなくて」


前野は普段は一回転すりゃ着替えられるはずなのだが。


「……です」


前野の言い訳に、ただ一言だけ合わせた竹丸。その顔はずいぶんスッキリしていた。

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