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第29話 サポーター

陽太は、居候の美少女明日香との生活を楽しんでいた。

ついつい大悪魔アスタロトだということを忘れてしまう。偉そうな口調にも慣れた。そんな日常だった。

二人で並んで夕食の買い物をしたり、ベッドに横に並んでテレビを見る。

まるで恋人の同棲生活のようだった。


その日も二人でバイトがない休みの午後をまったりとしていた。

その時、ドアがコンコンとノックされた。


「はーい。誰?」


陽太が来客を迎えに行くと


「コンコンと来たらウチだよん」

「なんだ、前野さんか」


そう言ってドアを開けて迎え入れた。


「部屋の前にいた人だーれだ?」


そう。そこには前野以外にもう一人いた。


「わたくしです」

「どなたです?」


その男は部屋の中にいる明日香に手を振った。


「なんだ。天狗か。なんのよう?」


そう。仙台市で二人が出会った天狗の男だった。前と同じようにスーツをビシッと決めて涼やかなる面持ちのイケメンだ。

陽太は驚いた。もちろん、また妖怪か。という方の驚きだった。


しかし、天狗といっても顔が赤いわけでもない、鼻も長くない。


その天狗は靴を脱いで、陽太の前に来て手を握った。


「ほうほう。この方が魔神様を召喚したお方ですか。ほ~。ワタクシ、三峰竹丸みつみねたけまると申します。天から落ちたるいぬより生じた天狗の一族の一員です」


それを聞いて前野はからかうように言った。


「ハン。仰々しい名前」


「いいじゃないですか。いやだなぁ。ねえさん」

「アンタに嫂さんって言われたくないんだけどォ」


天狗の竹丸は嬉しそうに今度は陽太に質問してきた。


「あなた様のお名前は? ハイハイ。浅川ヒナタさま! おーおー!」


大変にテンションが高い。まるでスターにあったような。そんな感じなのだ。彼は続けた。


「あなた様は世界をお救いになる方でございます。ワタクシ、そのサポートに参りました」


「は? オレが世界を救うって? どうやって?」

「存じません」


分からないのだった。世界を救う。一体どういうことなのか?


天狗の竹丸は、スーツの胸元に手を突っ込むと小さい錦の袋を出してきた。口が紐で閉じられていたが、それを開けて


「天狗は、いろんな道具を持ってまして。葉団扇はうちわでしょ。遠眼鏡とおめがねでしょ。隠れかくれみのでしょ」


と、いろんな道具を出してきた。

こんな小さい袋に物理的にあり得ない量や長さのもの。

明日香や前野は目をキラキラとさせていた。


「へぇ。面白い。これ貸して?」


明日香がそう言って葉団扇を持つと竹丸は慌てて


「あ、あ、あ! ダメですよぉ。嫂さん。この部屋吹っ飛んじゃいますよ?」


と、丁重に葉団扇を取り返し、ゆっくりとテーブルの上に置いた。


「じゃ、これは?」


と言って、今度は遠眼鏡という細長い筒を持つ。


「まぁ、それぐらいなら」


女子二人はニコリと笑いながらはしゃいで窓の方へ。

キャーキャー言いながら代わり番子に遠眼鏡を覗いている。


「壊さないでくださいよ! もう!」


遠眼鏡が気になるのか女子の方ばかり見ている竹丸に陽太は


「ところで、その道具がなに?」

「ああ、いえいえ、こっちこっち」


と言って、小さいツボを出した。


「これは? 何の道具?」


「先見壺です。これを覗くと未来が見えるんです」

「へぇ」


陽太は受け取って、それを覗いてみた。


しかし、何も見えない。


「ただのツボだけど?」

「そうですよ」


またもや、返答が分けが分からない。


「壺が教えてくれた時だけなんですよ。予言の時がくるとうっすらと光りだすんです。その時に水をたたえると、水が落ち着いたときにぼんやりと見えるんです」

「なんだぁ。そうなんだ」


「そこには、あなたが世界を救う姿が映ってました。ですから、そのお手伝いをさせていただきますよ?」


「へぇ~。でも、オレ普通の高校生だし。いつ救うの? どんな事件? アスカとか、前野さんとか、どうなっちゃうの?」

「そこまではワタクシも分かりませんが。ま、救うまで、お近くにおりますから」


よく分からない漠然とした話だった。世界を救う。映画のエンディングだけ聞かされて中身を聞かされないのでは何が起こるかわからない。陽太は話半分に聞くことにした。

そこに遠眼鏡で遊び終わった二人が戻って来た。


「ハイ。返す。けっこう面白かった」


陽太も遠眼鏡の効果に興味があった。


「何が見えるの?」

「何って。遠くだよ?」


説明が雑だった。だいたいにしてそんなのは名前でわかる。


前野は偉そうに腕組みをしながら竹丸に聞いた。


「ふーん。やっぱり犬だね。ご主人様が見つかってよかったね」

「はい! ヒナタさんには忠誠を尽くしますよ~!」


「ところでさ。犬って、順列をつけるって言うじゃない?ウチ達四人の順列は?」


「あ、ハイ。ワタクシが四番で」

「ふん。分ってんじゃん」


「キツネの嫂さんが三番で、魔神の嫂さんとヒナタさんが同列一番です」

「ちょっと!」


前野がムッとして竹丸を睨んだ。

そりゃそうだ。人間の陽太よりも格下だと言われたくない。

だが、明日香が


「ふーん。分ってんじゃん」


とニヤリと笑った。


「ま、ヒナタは私が守ってるからだろーけど。でもなきゃただの人間だから」

「分かっております」


前野は納得がいかなかったが仕方なしに


「ま。アっちゃんがそういうなら、それでいいや。でもさ、アンタはコン中で一番ビリなんだからウチたちの言うことも聞きなよ?」


「ええ。ええ。それはもう」

「フン。やっぱコイツ嫌いだわ」


前野さんは、腕を前に組んでプイっと横を向いた。

従順すぎる態度が嫌なのかもしれない。男はもっと先頭に立って女を引っ張るものだと思っているからだ。

竹丸の態度がいけ好かない様子だった。


しかし陽太は、そんな竹丸がとても頼もしく力強く思えた。

親戚にお兄さんのような好感が湧いて来た。


「竹丸さんは、ビシっとしてるね?なんの仕事してるの?」

「ああ、教師ですよ。明日からヒナタさんの学校に赴任します。失踪した先生がいるとかで」


教師宮川のことだ。それの後任なのだと分かった。

竹丸は陽太と明日香の方を向いて


「明日から、よろしくお願いします!」


と言いながら、ぺこりと頭を下げた。


前野はまた上から目線で


「アンタ、ネグラは?」


と聞くと、竹丸は平然と


「嫂さんのところに泊めてください」


と答えると、前野は真っ赤な顔をした。


「やだよ! いやらしい! なんでアンタなんか! あっち行ってよ! シッシ!」

「冗談ですよ。近くにアパート借りてます」


と言うと、よっぽどムカついたのかなんなのか? 大変に取り乱した様子で


「は! やっぱ、アンタ嫌いだわ」


と、背中を向けてしまった。

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