第28話 買いたいもの
アパートに着くと、辺り中が大騒ぎになっていた。
陽太も野次馬根性丸出しで外に出ていた。
そんな陽太に明日香と前野は近づく。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないよ。買い物に夢中で気付かなかったの? 銀行強盗がでて、二人の女の子を連れ去って行ったんだってさぁ。そしたら、途中で車が消えて、犯人も女の子も失踪! 大事件だよ! でもさ、お金だがさっき、飛んで帰って来たらしい」
熱っぽく話す陽太に二人は吹き出した。
「あは! あっはっはっはっは!」
「ちょ。なにが面白いんだよ。そんで何も買ってねーじゃん」
前野が陽太の肩を叩き
「不思議な事件だと思わない?」
「思うよ。ミステリー過ぎるでしょ。女の子たちはどこへ行ってしまったのか!?」
と言っても微笑んでるだけの二人。
「まさか」
そこでまたプッと吹き出す。
「だって、お金が空飛んで帰ってきたら、普通は気付くでしょ」
「いや、気付かない。気付かない」
陽太は手を大きく振って全力で否定した。
「なんで誘拐なんて! 二人の力なら誘拐なんてされないでしょ?」
「されないよ。アッちゃんが面白そうだって言うから」
「うん。面白かった。爆笑」
腹を抱えて大笑いの明日香。
陽太は気になっていた。
「は、犯人は?」
「ん?」
「殺しちゃったの?」
顔を見合わせる明日香と前野。
また手を叩いて笑い出した。
「殺してない。殺してない」
「そうそう。山の中に置いて来ただけ」
「そ、そうなんだ。でも、それにしては優しくない? 二人とも」
「そう? だって興味ないもん」
そうなのだ。二人には人間の犯罪など興味がない。
だがそれからしばらくして事件は解決はした。
犯人だという男たちが自首して来たのだ。
金は戻って来た。だが、誘拐した女はどうしたのか?
と聞いても、「神」だとか「悪魔」だとか「キツネ」だとか分けの分からない供述をしていたようだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それからしばらく経って。
陽太はバイト。
明日香と前野は前にできなかった買い物に行くと出て行った。
今度こそは楽しいお買い物をしようと、二人でショッピングモールに向かって行った。
「ヒナタのジーパン見た? あれで出かけるんだからねぇ。そのくらい気を付けろよって思った」
「ん? そうだったの?」
「そうだよ。ボロボロじゃん。せっかくカワイイ子と暮らしてるんだから身だしなみくらい気にしろって感じ」
「そーなんだァ」
「さて。何を見る? まぁ、アッちゃんは黒い服が似合うもんね。そういうところから見て行こうか?」
「ウン。いろいろ教えて!」
明日香は初めての自分のお金での買い物が楽しかったようだ。
何時間もウィンドウショッピングをし、ちょっとフードコートでお茶をした後で自分の“これだ!”というのを買うのがコツだと教えられた。
しばらく一緒にお茶を飲んだ後で、前野に聞かれた。
「決まった?」
「うん。決まったよん」
目的のものを買って家に帰ると、陽太は三人分の食事を用意していた。
「今日は前野さんもウチで食事をするということなので、尾頭付きにしました」
というと、明日香は手を叩いて喜んだ。
「わぁ! すごい! おっさかな! おっさかな!」
それはシシャモだった。一人三尾。
前野はわずかに笑った。
「ふふ。じゃ、頂きましょうかね?」
三人で仲良く食事をした。
その間に陽太は何度も前野にダメ出しを食らっていたのだが。
食事が終わり、前野は稲荷神社に向けて帰って行った。
明日香は買い物袋を開けて、陽太に買ったものを見せていた。
上着を胸辺りに当てて
「どうだ? 余が着て似合うか? なかなかファッショナブルであろう。4900円のものが980円になっていたのだ」
「うん。いいんじゃない?」
「この靴も6980円が2980円になっていたのだ。どうだ。買い物上手であろうが」
「誠に以って」
「そしてこれは足下につかわす」
そう言って渡してきたのは新しいジーパンだった。
「え?」
「うむ」
「オレに?」
「ああそうだ。余の買いたいものに入ったのでな。思い切って買ったのだ。それが一番余のこずかいを疲弊させた。はっはっは。だが良い買い物をしたであろう!」
そう言って大きく笑った。
「あ、ありがとう」
「ん? 感謝か」
「うん。ありがとう。欲しかったんだ」
「さもありなん」
ギュ……
陽太は、明日香を引き寄せて抱きしめた。
しばらくの時間。
思わず。というやつだった。
だが、途中でとんでもないことをしたと思って離れた。
「ご、ごめん。なさい……」
「ん? なにがだ?」
「アスカを、抱きしめてしまって」
「ああ、今の行為か。いや。なかなか良いものだったぞ」
「そ、そっか。なら良かった」
二人とも恥ずかしげに笑った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから、またしばらくして。
テストの結果が返って来た。
陽太は恐る恐るその結果を見たが。
片手を上げて喜んだ!
「うぇーい! 上がってる!」
明日香もそれを覗き込んだ。
「ふむ。上がっているのかそれで」
「上がったんだよ。失礼だなぁ。アスカは? どうだった?」
「さぁ、知らぬ。これだ」
といって渡された結果を見た。
「1……」
「ふむ。すごいのか?」
「すごいもなにも、全教科満点で学年で一番なんですけど」
「さもありなん。余の叡智は神並みだからな」
神並みはいいけど、少しは手を抜いて欲しい。
普通の人間では一生勝てないじゃないか。と陽太は思った。
「それよりも、順位があがったのならアレだな。願というのも利くものなのだなぁ」
そう。あれ以来、陽太の家では肉を食べていなかった。
と言っても偶然が重なったり、魚の方が安かっただけなのだが。
「そーですね。そーですね」
「では、願も終わったことだし分厚い肉を食いに行くとしよう。いざ参らん!」
「チィ!!!」
陽太は大きく舌打ちをした。
だが、久々のステーキは陽太も満足した。
そして、徐々に楽しくなっていく明日香との生活を思いながら陽太は、いつものようにベッドに入り、目を閉じて眠った。
陽太と明日香の楽しい生活。
そこに新しい妖しい仲間が登場する。
しかし、新しい仲間を迎えたのはいいが、恐ろしい敵の姿も現れだした…。
次回「鬼篇」。
ご期待ください。