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第25話 富をむさぼる

明日香のいない部屋で陽太は一人ニヤついていた。


「いやぁーッほぅーッ!」


手には預金通帳が握られている。

それを何度も何度も繰り返し、上から見ている。


今日は給料日だ。

陽太の店は、看板娘“前野”がいるので通常の同系列店よりも客が多い。

それがために店員の給料も他よりも高かった。


陽太の時給は深夜でもないのに1000円。

平日4時間の勤務時間。それを週4日入る。

土日は片方。もしくは両方入る。休日は8時間。つまり8000円だ。


ひと月に十万円以上稼いでいた。

これはほとんど、生活費や学費に消える。

陽太の母の仕送りもあるのだが、家賃、光熱費、水道代。

自分のこずかいなど微々たるものだ。


それに母と暮らすために少しずつ貯蓄をしていた。


だが、今回の給料は違う。


26万円だ。


なぜ倍以上なのか?


それは、明日香が働いた分が入っているからなのだ。


「う~ん。アッちゃん、よく働いてくれたねぇ。まぁ、これはあれだね。居候なわけだし、迷惑料もあるわけだし。そーか。そーか。アスカが入ってから忙しさが倍になったって仲間も言ってたもんな。なるほど! アスカも前野さんみたいに美人さんだもんな〜。ウチの店の二枚看板になったか! つか、前野さんもこれくらいもらってんのかな? いや、それ以上か」


などと独り言を言っていた。

完全に独り占めしようとしていたのだ。


その時、玄関から明日香が帰って来た。


「ふー。やれやれ。今日のバイトも面白かったわい」


そう言って、豪華なドクロ付きのイスに腰を下ろした。今日は休日の半ドンシフトだ。4時間で終わりだったようだ。


「陽太。店長から変な紙をもらったぞ。給与明細と書いておる」

「さようでございますか。では、こちらへお渡しください」


と、召し使いのようにうやうやしく手を伸ばした。


「ふむ。それはなんだ?」

「いいえ、気にするほどのことではございません。ただの紙切れで」


「ん? なんか様子が変だな」

「いえいえ。滅相もございません」


と言って、給与明細を戸棚にしまおうとすると、手をかけたすぐ脇が焼き焦げた。

明日香の目から怪光線が出ていたのだ。


「うわ! あっちぃ!」

「それはなんだ! 正直に申せ!」


「チッ!」

「???」


大きく舌打ちをした。

それほどまでに明日香に教えたくないのか? 陽太よ。


「バイトをするってことはお金を稼ぐってことなんだよ。今日は給料日だったの。明日香のお給料がここに書いてあるだけだよ」

「ふむ。さようか」


「お、おう。知りたくないの?」

「特段。余はよくわからん。足下が管理をいたせ」


「は! ははー!!」


大変恐れ入っております。


「少しは、おこずかいあげるからね」

「ん? こずかい。ああ、金か。ふむ。ああ、そう言えば、タマちゃんと買い物に行く約束をしていたな。それに、足下は給料が入ったら分厚い肉を食わすとか言っておらんかったか?」


「チッ!!」

「???」


陽太は、明日香がバイトを始めたころ普段は貧しい食事だが、給料が入ったら分厚い肉を食べに行こうと言っていたのだ。

明日香なんてすぐに飽きてしまうだろう。

せいぜい、五千円も稼げればいいぐらいだ。

そしたら安ステーキ店で1500円ほどの肉を食わそうと思っていたのだ。


だが、今、明日香の給料15万8千円がとても惜しくなっていた。

10万円は貯蓄できる。

そして、あれを買いたい、これを買いたいという物欲まででていたのだ。


まさか肉のことを覚えているとは。


「あー。残念だなぁ。今度、テストがあるじゃん?オレ、がんかけてんだよ。しばらく肉を食べないのでテストでいい点とらせてくださいって」


ウソだった。

とっさのウソだ。

だが明日香は食らいついた。


「願? 願とは?」

「ああ、自分の好きなものをってお願い事をするんだよ。そうすると神様が叶えてくれるって言うシステム」


明日香は鼻で笑った。


「フン。くだらん。自力で努力せい!」


ごもっとも。

そんなことをやっていると、玄関の呼び鈴がなった。


「はーい」


明日香が元気に答えてドアを開けると、前野が立っていた。


「タマちゃん、いらっしゃーい!」

「うん。アッちゃん買い物行こうよ。服買いに行こう」


「ウン! 行こう行こう!」

「お金は? 今日給料出たでしょ?」


「あ! そーか。ついうっかり」


明日香は陽太の前に立ってそっと手を出した。


「おこずかいちょーだい!」

「はいはい。じゃー、千円」


「やった! やった!」


そう言って、前野の前に走って行ったが、前野の冷たい視線が陽太に突き刺さる。


「ヒナタ。あんた、どういうこと?」

「と、おっしゃいますと?」


「アッちゃんがお金に疎いからってそれはないんじゃない?」


陽太は仕方なく、財布に手を突っ込んだ。


「はい。アスカ。千円……」

「やった! やった! 二千円!」


喜ぶ明日香を尻目に、前野は部屋に上がり込んで陽太の向こうずねを素早く蹴りつけた!


「あたぁー!!」

「アンタ、アッちゃんの稼ぎを自分のものにしようとしてるね? 二千円で服が買えるかよ!」


「じゃ、じゃぁ、いくら?」

「別に、そんなに毎日買い物するわけじゃないんだからさぁ。頑張った給料日くらい二人でゆっくり買い物させろよ。服も帽子も靴も財布もアッちゃん持ってないんだろ? 一万は渡せよ!」


「でも、でも、アスカは空間からいろいろと取り出せるわけで」

「ハァー!?」


あまりの剣幕に陽太もついに観念した。

明日香に追加で8000円渡してため息をついた。


「はいはい。男前。素直にそうしてろよ。じゃ、行ってくるから。試験勉強ちゃんとしろよ!?」

「じゃーね。ヒナタ。晩のご飯はいらないよ~」


「へいへい」


二人は、玄関の扉をしめて出て行った。

陽太は一万円失った苦しみを思い出してベッドにうずくまって泣いた。

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