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第24話 混乱の収束

陽太の明日香全力説得作戦が始まった。


「そりゃそうだろう。作者がゾンビになったら続きなんて書きたくたって書けないだろ? 例えアスカの力で作者だけ生かしておいても、編集は? 印刷は? 紙を作る人、インクを作る人、たくさん人がいなきゃマンガだって出来ないんだよ?」


陽太の見事な演説に、前野も腕組みをしながらうなずいた。


「うんうん。そうだよね。ヒナタの言う通り」


前野にも言われて、明日香は平然と応えた。


「そうかぁ。じゃぁ、元に戻す?」


あっけらかんと。そしてニコリと微笑んだ。

そんなに簡単に出来ることなのか。しかし、明日香の力ならやはり戻せる。希望が出来た陽太は明日香に向かって手を合わせて何度も頭を下げ続けた。


「お願いします。お願いします。お願いします」


明日香は陽太のその仕草を見て、ものすごく楽しそうに笑う。


「そうかぁ。ヒナタがそこまでお願いするならしょうがないね」


そう言って、手を高らかに上げて指をパチーン! と鳴らし、陽太のベッドにドカリと倒れ込んだ。


「あー。疲れた。けっこう魔力使った」


前野はその側に座って、彼女の手を握った。


「お疲れさま」

「はぁはぁ。タマちゃん。ありがと」


陽太は窓に近づいて外を見てみた。


外にいる人達は、みんなキョトンとした顔をしていた。

家々の灯りがポツリ、ポツリと点き始め、仕舞いにはいつもの光を取り戻していった。


陽太はホッと胸を撫で下ろした。

途端に学校が心配になった。同士達はどうしているのだろう。昴や貴根の生死も気になった。


「オレ、学校が無事か見て来る!」


と、二人に向かって言うと明日香は気だる気に応えた。


「あ~。無事無事。いかなくても大丈夫。油揚げの料理作って~」

「そーゆーわけにはいかないよ!」


「あっそ。私は行かないから」


陽太からプイっと顔を背ける明日香に前野は手を握りながら


「アッちゃん。じゃぁ、ウチが料理作ってあげる」

「タマちゃん、ありがと~」


と言いながら二人は拳をコツンと合わせた。


なんなんだ? この空間。自分までおかしくなってくる。

外に飛び出した陽太は、学校までの道をジタバタと走った。


途中、道を行き交うゾンビだった人達は自分に何が起きてるかさっぱり分かっていない感じだった。


陽太が学校につくと、校舎にはこうこうと電気が明るく点いていて、大きな歓声が上がっていた。

陽太も、その場に急いだ。


学校中が生徒でひしめき合っている。

その中央には昴が立っていた。


陽太の顔が穏やかになって行く。

彼が無事だったことで心に余裕ができたのだった。


昴は生徒たちに声を張り上げた。


「ニュースを見てみると、完全に落ち着いたようだ! オレたち人類の勝ちだ! って、何と戦ってたか分からないけど。はは! やったな! みんな! 家に帰れる!」


わーわーわーという歓声。

みんなが昴を見つめている。

先生までも。


みんなでスバルコールだ。

ものすごい熱気。


陽太も自然と拍手していた。

彼の英雄的行動は確かにすごかった。


陽太は思い出したように貴根の姿も探した。


彼女もまた、昴の隣に立っていたのだ。

陽太は思わず一粒涙をこぼした。


明日香がいなかったらどうなってたことか。それよりも、あの漫画家がいなかったら人類は滅亡していたことだろう。そう考えると、英雄はあの漫画家かもしれない。

ゾンビ化したものは、ゾンビ化している間の記憶は無いようだった。無意識に。しかし、あんな催眠術使えるものがいるのだろうか。


その時。その大歓声の中、陽太を見つめるような視線を感じた。一瞬だ。一瞬だった。だが自分たちの計画を邪魔された。そんな邪悪な視線だった。


陽太に戦慄が走る。明日香が前に言っていた止まった時間を動けるもの。2体。そいつらに違いない。きっと。この学校のどこかにそいつらはいるのだ。


陽太は溢れる熱気の中、一人、先ほどの視線を探して生徒や先生の顔をぐるりと見渡した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  



ゾンビ騒動から一夜が明けた。

驚いたことに死者は一人もいなかった。


走って転んでの軽傷者だけ。


ゲームのように銃で頭を撃って殺したりとか車でひき殺したりとかそういうのはなかったようだ。

当たり前だ。日本は銃社会ではない。そして、やっぱり人間、いざとなっても同胞には武器は向けられないらしい。


陽太は政治の話はよく分からないが、株価が急落とかそんな話がテレビで放映されていた。

だが、一週間もすると落ち着いてきたようで、そんな話よりも当日のいい話を取材し再現放送していた。


昴の美談も再現されていた。

消防にも表彰されていた。


テレビやラジオなどの露出が多くなり、ちょっとした有名人になっていた。


陽太は部屋のベッドに寝転んで腐っていた。

嫉妬していたのだ。

昴にはたくさんの才能がある。カリスマ性もある。

貴根の心まで持って行ってしまっている。


当たり前だ。それだけのことをしている。


だが、陽太は知っていた。

今回の騒動を収めたのは明日香。

自分もそれを担った一人だと言う自負があった。


「あーあ! やっぱ、すげーやつはすげぇなぁー!」

「ずいぶん大きい独り言だな。余に聞かせたいのか?」


「だって。この騒動を終結させたのはアスカなのに、誰にも感謝されない」

「ふむ」


「オレだって、一役かったようなもんなのにサ」

「まぁそうだな。足下の渾身の懇願がなければ、余の心も動かされんだったろうに。はっはっはっは。愉快痛快だ」


なにが愉快痛快なのか。明日香にとってはどうでもいいらしい。不満に思っているのは陽太だけだ。


「アスカは? あれは誰の仕業だと思う?」


「さてのう。人の力ではできまい。まぁ、昔、タマちゃんの正体を見破った人間がいるらしいから、修行次第では出来るのやもしれんがのう。現代にそんな優れた魔術師がいるとは考えられん」

「ふぅん」


「考えられるのは神か天使。人獣を絶滅させたがってるからな。しかし、あんなに趣味は悪くない。だとすると、やはり魔界のものかもしれんな」

「え? アスカ系の?」


「系とは無礼であろう」

「スイマセン」


「まぁ、余と同じくらいの魔力を持つものにあんな趣味の悪いのはいない。まぁ、陛下や殿下ならああいうことを趣味でやるかもしれんが、余と同じく地上に興味はないだろう」


陛下とか殿下とは何者なのか?


陽太には地獄の制度が分からない。訳の分からないまま、いつものようにベッドに入り、目を閉じて眠った。

ゾンビ騒動は明日香の活躍によって収束した。

しかし、それを操る者はなんなのか分からなかった。


そんな陽太に朗報が訪れる。

二人分のバイト代が入ったのだ。

初給料で明日香と前野は買い物に出かけることになった。


次回「誘拐篇」。

ご期待下さい。

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