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第21話 使者来たる

陽太が危機に瀕している時。仙台市は定義山じょうぎさんに明日香と前野はいた。


ここには大日如来を祀っている寺がある。

寺の前にはたくさんの店が立ち並び、その一角に油揚げの店があった。

外にはベンチが用意されており、アツアツの揚げたてをそこで食べられるという名物なのだ。


狐の前野にはたまらない。手をすり合わせて舌なめずりをし、二人して油揚げにかぶりついた。


その時! スッと明日香が顔を上げる。


「どうかした? アっちゃん」

「おいしー! こんななんだ。油揚げって。パリパリしてて。香ばしくて!」


油揚げの感想だった。


「でしょー! でもね。もうダメだよ? アッちゃん。お勘定の時に手から宝石出して、“これで払えます?”とかって聞いて」

「ごめん。ごめん。つい」


「ちゃんと自分で働いたお金で払わないと」

「以後気をつけます」


「んふ。よろしい」


「あはは。でも、真面目だね? ちゃんとしてる。とけ込んでるよ。人間の生活に」

「当たり前だよ~。バレたくないもん」


「そうなんだ」


「ウチ、しょうって国に前はいたんだけどね。今から4500年前に王様のお妃さまだったの。そん時、ちょーっと贅沢しすぎて、国を滅ぼしちゃったんだ」


明日香は前野の頭をポフと叩いて


「ちょっとで国を滅ぼしたか。この悪女!」


「んふ。で、あ~。これっていけないことなんだ。って勉強した。それからいろんな国を点々としたけど。まぁ、悪いことしすぎて、仙人に捕まっちゃったんだ」

「へー。ふんふん」


「で、こりゃさすがにウチもヤキが回ったって観念したんだけど、そのお師匠様が弟子にしてくれて。まぁ、修行は大変だったけど仙人の籍に入れることができたの」


明日香は大きくうなずいた。


「アンタはホントに対したもんだ」


「で、神仙ってさらに上のランクを目指したんだけど。やっぱり女だから人恋しくなっちゃってねぇ。逃げ出した」

「あっはっはっは。あっはっはっは」


「そしてこの国に来て、みかどのお妃に」

「タマちゃん、ホントにエライ人に取り入るの上手だね」


「あ、第一夫人じゃないから、お妃っておかしいか。お妾? 側室」

「その辺はどうでもいいけど」


「そん時はバレないようにしてたんだけど、陰陽師おんみょうじってのに見つかっちゃってさぁ。大変だった」

「へー。大したヤツがいたんだね」


「うん。でもさ~。やっぱりエライ人の奥さんは目立つよ。そこからひっそりと金持ちの奥さんになって多少贅沢するぐらいにしてる」

「ふーん。面白いなぁ。タマちゃんの話しは」


そこに油揚げ屋のおばさんがでてきて、前野の前にどっさりと袋を置いた。


「おねーちゃん。また来てくれたんだっちゃね~。はい、いつものお土産用の50個。あと、これいつものお稲荷さんへのお供え用。これはサービス」

「あん。おばちゃんありがと~」


「ホントに好きなんだっちゃね~。まだ来てけさいん~」


そう言って店の中に戻るおばさんに前野は手を振った。

そこに、一人の若い男が声をかけてきた。


「は~。やっと追い付きました。キツネの嫂さんと魔神の嫂さんこんにちわ」


見ると、薄茶色のパリッとしたスーツに眼鏡をかけ、髪型もキリッと決まっている。清潔そうな男だった。


「なに? 新手のナンパ?」

「シカトしよ」


「まぁまぁ、そう嫌いなさんな」


といって、その男は二人の横に腰をおろした。

前野はその男を品定めするように見て、ピンと気づいた。


「ああ。犬だよ。こいつ。天狗だ」

「ああ、そーゆーやつかぁ」


天狗はそう言われてもにこやかに微笑むだけ。

天狗と言えば、赤な顔をして鼻が高くて山伏の格好をしているのが一般的だが、こちらの天狗は普通の人間の姿をしていた。


「危害は加えませんよ?」

「はい。どうぞ? 食べる?」


前野は半笑いで油揚げを一枚渡した。


「おお! ありがたい。モグモグ。ちょうどお腹が減っていたんです。犬は、一飯の恩義を忘れませんよ? ムグムグ」


その様子を見て明日香と前野は顔を見合わせて微笑みあった。前野が質問する。


「で? 天狗さまは何かを知らせにきたわけ?」

「まぁ、そんなとこです」


「私達もそれなりに自信があるんだよ?」


明日香がそういうと、天狗は片手を上げて制した。


「でしょうね? ですが、お二人とも徹底的な利己主義。自分勝手。人のために何かしようとしないでしょ?」


二人はムッとしながら手を取り合って立ち上がった。


「ホントに失礼な奴。ウチ、ホントに犬って嫌い」

「だよね。行こう?」


「まぁ待って下さい。待って下さい」


天狗は油揚げをみながら二人の前に回り込んで両手を広げて止めた。


「なんなの? 言いたいことあるならさっさと言いな」


「すいません。魔神の嫂さんのお身内がただいま大変なことに。すぐにお戻りになられた方がよろしいです」

「私の身内?」


「は! 何? それ」

「陽太のこと? 大変って何??」


「何やら妖しい気配がうごめいております。詳しくはこちら」


といって、スマホで最新ニュースを見せた。


「なにこれ」

「ゾンビ騒ぎ?」


「そうです。そうです」


「くっだらない」

「そうでしょうか?」


「まぁ、でもそろそろバイトのにも行かないとね。タマちゃん帰ろ」


「うん。じゃーね。天狗」

「ハイハイ。また」


二人は消えて飛び上がった。

天狗の情報に未だに半信半疑だ。


「ホントにゾンビっているのかなぁ?」


と前野が聞くと、明日香は笑って


「んなわけないでしょ~」


「だよね? 道教にもキョンシーってのがいるけど、李耳りじ(老子)が函谷関かんこくかんを出る時に書いた道徳の本にはそんなこと書いてないしね~」


「ホントに人間はこじつけがうまいっつーか、なんつーか」


と、人間をバカにしながら陽太の部屋に戻って行った。

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