第20話 エスケイプ
その様子を見て昴はみんなに指示をした。
「すぐに、他の扉も封鎖する。でないとオレたちは全滅だ。貴根くんやここにいる女子は二階に上がって教室にいる生徒を導いてくれ。オレたち男は数班に別れ、窓や扉を閉じに行く。もしも、このゾンビらしきものがすでに侵入していたらありったけの大声で報告してすぐに逃げてくれ。そちらの方向の階段は防火扉で封鎖する。いいな。遊びじゃない。みんな。頼むぞ」
「じゃ、あたしたち女子は二階に。昴くん。きっと戻ってきてね」
「ああ。心配するな」
貴根と結は急いで二階に上がっていった。
そして男子の運動部部長はすぐさま、昴に指示を受けた別の扉の方に向かって行った。
陽太と遼太郎は昴について、一番遠い昇降口へ。
遼太郎が陽太に小声でささやく。
「なあ。なんで宮川先生が」
「うん。オレも気になってたところ。完全に消滅したのをオレは見たんだよ。でも、人間じゃないものだから、あんな風に復活して、あんなものになってしまったのかも」
「なるほど」
昴は、二人を先導しながら立ち止まらず陽太たちに声をかけてきた。
「ごめんね。こっち方面に付き合わせちゃって」
「いや。大丈夫。すごいね。昴くんは。こんな時でも落ち着いてる」
「いや」
昴は首を横に振り進みながら答えた。
「そんなわけないよ。ホントは怖くて仕方ない。こんな非日常的なことが起こるなんてパニックだよ。走って家に帰りたいんだよ。でも、何が起こってるか、どうなってるのか。さっきから頭がショートしっぱなし。足だって震えてる。歩き難くてしょうがないよ」
やはり昴も陽太たちと同じ。普通の高校生だった。冷静さを保とうとしているが唇は震えていた。
自分たちはどうなってしまうのだろう。不安が三人を襲っていた。
目的の昇降口についた。外にはゾンビらしきものがウロウロしている。
その昇降口は普段は使用していないので、ちゃんとカギがかかっていた。
三人に気づくと、ゾンビらしきものたちへ『あー、あー』と声を上げてガラス戸に体当たりしてきたが分厚いガラスだ。体当たりの反動で後ろに転げていた。
「しかし、知性はそれほどないようだ。自分でドアノブをひねるとかできなそうだ。走ることも。急に襲い掛かって、噛みつく。やっぱり映画と同じようなゾンビなのかなぁ? しかし、急になんでまた。うーん」
と、昴はうろつくゾンビらしきものを見ながら考え込んでいた。
その時!
「わー! 校舎の中にいるぞーー!」
との大声だ! 別の男子の班からだった。昴は驚いて体を震わせたが、そちらの方に向かって声を返した。
「なに? 逃げろー! 階段を上って、防火用扉を閉めろーー!」
「分ったァ!」
とたんに慌ただしくなる校舎の中。
陽太たちも近くの階段から登った。
すでに防火用扉が閉められ、二階は暗い感じになっていた。閉められていてもこちらは知性のある人間だ。中央にある非常用の扉を開けて中に入った。
「貴根くんは? どこだ?」
しきりに貴根を気にしている昴に陽太はひどく人間らしさを感じた。
いつもはクールな人なのに、実際に引っ張られると情熱を感じさせる。
みんなを守るために必死だ。最善の策を考えている。わずかな時間に。
だけど貴根のことを忘れない。
そんな昴の姿はやはり賞賛に値するし、尊敬されるべき人間。
貴根にピッタリな男だ。
陽太はそう思わずにはいられなかった。
だから思い切って聞いてみた。
「スバルくんは貴根さんと付き合ってるの?」
昴は、顔を真っ赤にして固まってしまった。
「そんな! そんな。今はそんなこと考えたことないよ。大学受験もあるし」
「へー。青春したくないんだ」
遼太郎も肩を叩いてからかった。
「や、やめてくれよ。こんな時に」
すごく狼狽してる。
明日香が陽太の狼狽の姿を見て笑う理由もわかる。
こんな完璧な人もこんなに慌てるもんなんだなぁ。と陽太はこんな時に楽しくなった。
「言ってみたら? 貴根さんもきっと気があるよ」
「まさか」
「ニブイなぁ。生徒会長!」
と、遼太郎は昴の肩を抱く。
「ちょ!」
「そうだよ。いつも一緒にいるのに」
陽太は恋敵に告白を勧めている自分が不思議でならなかった。だがこの“イイ奴の塊”に何でもしてやりたくなってくる。
カリスマ性があり、自己犠牲な精神を持っている彼に。
昴の顔からは湯気が出そうなくらい赤くなっていた。
「う、うん。そ、そうだね。この騒動が終結したら。って、どうなるか全然わかんないけど」
「そうだよね。まずは、どうしよう」
昴の呼びかけで校舎にいた者は二階に集結した。
100人ほどだ。
先生たちもいる。
昴は中央に立って声を張り上げた。
「今現在起きていることは全然分からない! でも俺たちは見たんだ! 宮川先生が体育の先生にかみつくのを! そして同じような人がどんどん増えていった! おそらく、宮川先生は失踪中になんらかの科学的実験をされたのかもしれない!」
その演説を聞きながら陽太だけは宮川が科学的実験を受けていないことを知っていたので心の中で、それは違う。と思ったが、あの日のことを言うわけにもいかない。昴は続けた。
「どうしていいか分からない! でも、生きていればきっと解決方法があるはずだ! まずは警察に電話しよう! そして、助けを求めるんだ! 先生方も協力お願いします」
昴は演説の後に、先生や他の生徒に指示をして自分は警察に電話した。
貴根は消防署に。
そこから得られた情報では、どうやら何体かがすでに町に行っているらしく、町も騒然としているらしい。
何と言うことだろう。この不思議な状況を解決できるのは明日香しかいない。先日前野に誘惑の術をかけられたとき、陽太は心の中で明日香に強く助けを求めたら来てくれたことを思い出した。
陽太は心の中で明日香に助けを強く、強く念じた。




