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第188話 三人の助っ人

 陽太は自分の胸から飛び出す心臓を見て絶叫した。それを聞いてベリアルはニヤリと笑う。


「ふっ。小気味いい。もっと叫べ。もっと泣け」


 心臓はふよふよと漂いながらベリアルの掌にたどり着く寸前で止まった。


「む?」


 ベリアルの疑問の声の洩れ。

 瞬間、陽太の心臓は伸ばしたゴムが急速に戻るように胸の中に帰ってゆく。

 格納された心臓を覆うように胸は閉じられた。


「な、なんだと!?」


 ベリアルは驚いて声を上げる。だがすでに陽太の姿はない。ベリアルは辺りを見回すものの、やはり気配を感じないのだ。


「ええい! 小賢しい雲めらめ!」


 ベリアルが気合いをいれると、辺りの雲はきれいさっぱりなくなった。ラファエルが作り出した鰯雲さえも。

 しかしそこには陽太もラファエルもいない。


 だが根気よく目を凝らして探すと、はるか遠くに鳥のような影が見える。ベリアルはそれにあたりをつけて飛ぶ。


 それはまさに陽太たちであった。陽太はラファエルを抱えたまま飛んで離れていたのだ。

 ラファエルは先ほどの陽太よりも強い飛行能力に驚いていた。


「こ、これは一体?」

「はっ。余がまさかラファエルを助けているとはな。こんなことになるとは不思議な話だ。胸糞は悪いが奇怪な体験。愉快痛快だ」


 それは陽太の話し方と違う。顔つきも。見れば、貴族の服を纏っている。それは大公爵を示すものだった。


「ま、まさかアスタロトか!?」

「いかにも。不本意であるが陽太は足下を助けたいらしい。仕方ないのでもう少しベリアル大王から離れたら解放してやる。そこから勝手に逃げろ」


「バカな。貴様の助けなど……」

「黙っていよ。もう少しでお前の能力ならば逃げれる場所にたどり着く。暴れれば死ぬぞ?」


 アスタロトと化した陽太はベリアルの追撃よりも早い。ベリアルは時間を止めるがアスタロトである陽太には全く効き目がない。それどころか、アスタロトの陽太も時を止めているらしく、ベリアルが気付くとさらに離れるのだ。

 陽太はラファエルへと話しかける。


「ラファエルよ」

「なんだ?」


「陽太が意識を取り戻すらしい。余は陽太にこの身を還さねばならん。お前ならここから逃げられる。さっさと逃げろ」

「しかし──!」


「陽太なら心配いらん。三人の助っ人を呼んだからな」

「助っ人?」


「左様。さっさと行け!」


 陽太はラファエルの体を放すと、ちょうどアスタロトから意識を交代したようで、貴族の服が消える。

 陽太が目を覚ますとラファエルと目があった。ラファエルは目を伏せて陽太に今のことを話す。


「──今まで、そなたはアスタロトだった」

「え? 俺の中のアスタロト大公が出てきたの?」


「そうだ。私を逃がしてくれた。そしてこれから三人の助っ人が来るらしい」

「三人? 明日香たちが?」


「分からん。私は甘えさせてもらう。キミも生きよ」


 そう言ってラファエルは天を指して飛び去ってしまった。


「ラファエル……」


 陽太の力ない言葉。しかしラファエルのスピードは目で追えなかった。しばらく呆然と眺めると、後ろから怒声が聞こえた。


「おい!! 小僧!!」


 それはベリアルの声。振り返るとベリアルは急接近して、陽太の鼻を摘まむ。そしてそのまま海へと振り投げる。

 陽太は回転しながら海へと落ちるがすでに下にはベリアルが待ち構えており、陽太の背中を蹴り上げると再び上空へ。

 ベリアルの怒りの攻撃に陽太はなす術なし。ベリアルは先ほどラファエルを掴んでいたように陽太を掴んだ。


「コイツ、せっかくの余のおもちゃを逃がしおった。生かしてはおけん!」


 またもやベリアルに八本の腕が生える。陽太は戦慄した。ベリアルは怯える陽太を笑う。

 しかしそのベリアルの首がゆっくりと大陸のほうへと向く。陽太もそれに気付いてベリアルの視線のほうを見た。


「なんだ? あの光は──」


 ベリアルの言葉。たしかに輝く三つの光。陽太はそれが何か分からないがラファエルが最後に言った言葉を思い出した。


 三人の助っ人──。


 きっと明日香と前野と竹丸だと思ったが雰囲気が違う。遠目から分かる。あれは知っている三人ではないと。


 ベリアルは笑って三っつの掌に光の弾を出現させた。


「都市を破壊するほどの光弾を喰らえ!」


 それを三つの光の方向へと振り投げた。それは三つの光に着弾する。だが光の弾は消滅し、ますます三つの光はこちらに迫ってくるのだ。


「はあ? 余の光弾を消し去っただと!?」


 やがて三つの光が近くに迫り、正体が明らかになってくる。陽太は笑顔で叫んだ。


「明日香!」


 そう。それは明日香の顔をしていた。しかし陽太の声に反応しない。そのまま近付いて来て、空中に止まった。

 その三つの光は三人の明日香だった。しかし装いが違う。髪型も違う。

 陽太は反応のない明日香たちにもう一度聞く。


「あのう……。明日香?」


 だが三人は首を横に振って、まるでテレビ番組の美少女戦士のように一人一人が名乗りを上げてポーズを取り始めた。


「地上に実りの恵みを与える、天上の女王! 長女イナンナ!!」


「あなたが戦いたいなら力を貸しましょう! 戦いの女神、次女アナト!!」


「戦を花で美しく飾りましょう! 美の女神、三女ヴィーナス!!」


 三人がポーズと顔を決める。陽太とベリアルは何事かと固まった。


「な、なんじゃあお前らはぁ……」


 ベリアルは脱力感のある言葉で三人に問うたのだった。

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