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第186話 幻術

 ラファエルはベリアルから間合いを取りながら防御の構えをし、首を絞められた苦しさから数度咳き込んでいた。


 ベリアルは陽太を睨み付ける。陽太の心臓は早鐘のように打ち鳴らされ、生きた心地がしなかった。


 その時であった。僅か一瞬でベリアルはラファエルへと近づき、またもや身動きできないように押さえつけていたことに気付いた。

 そして陽太のほうを見て不敵に笑う。


「ほうほう。ラファエルよりも先に余の止めた時間の中に入ってきたな。なかなか大したヤツだ」


 そのベリアルの言葉に押さえつけられているラファエルも驚いて陽太を見た。

 どうやらベリアルは明日香のように世界中の時間を止めたようだ。そのためのラファエルへの急接近。陽太はすぐさまその止められた時間に入り込み、ラファエルは数秒遅れて入り込んだ。

 どちらにせよベリアルの圧倒的な力。逃げ場などなかった。


 ベリアルの大笑。恐怖の大笑。ラファエルも陽太もかなわない。しかもラファエルと陽太は協力体制にないのだ。


「まあアスタロトの偽者なぞどうでもいいが、処刑する順番は先にラファエルだな。その後、偽者のほうはゆっくりとなぶってやろう。ふっふっふ」


 そう言ってベリアルはラファエルの背後に回り込み、ラファエルの首を締め上げる。たちまちラファエルの顔は真っ赤になった。

 窒息だ。ラファエルは声もでない。


 陽太はまたもや恐怖で動けなかった。茨木童子との戦闘の時もそうだったが、圧倒的な力の前では、体が動かない。

 そうこうしているとラファエルはぐったりとなってしまったが、ベリアルは締め上げる腕をほどいて気付けを行い、ラファエルの目を覚まさせた。

 陽太にはなにが起きたか分からなかったが、ベリアルは目を覚ましたラファエルに微笑みながら言った。


「おいおい。簡単に堕ちるなよ。これは遊びなんだから。もっと必死に抵抗しろ」


 そしてまた締め上げる。軋む音。絞る音。潰す音──。どうにもならない恐怖が陽太を襲う。

 自分がやられているわけではない。だが目の前で行われる残虐な行為に陽太の精神は削られて細くなる。

 大人が赤ん坊に本気で殴ったら誰しもが目を伏せるだろう。それと同じだ。ベリアルとラファエルの力の差はそれほどあるのだ。


 ラファエルからは、声も、息も、血も絞られるようだ。生命が途絶える一歩手前。ベリアルはそこで一方的な攻撃を止めては目を覚まさせ、また攻撃の繰り返し。

 笑いながらそれを楽しむ。陽太は、その恐ろしさを何時間も繰り返されているようだった。


 ベリアルは動けない陽太に笑いかける。


「おーい。お前。逃げるなよ。後で殺してやるから。逃げたらすぐに殺す」


 陽太は空中に留まりながら完全に固まる。心の中で明日香、前野、竹丸に助けを呼ぶ。返信はないが、三人ならば受け取ってくれるかもしれない。


 この救助信号を──。


 しかしそんな都合良く三人が来てくれるはずもない。陽太は考えた。そうする他ない。


 打撃も魔法も敵わない相手なのだ。明日香や前野や竹丸ならどうするだろう。


 明日香の戦いかたは正直掴めない。ベリアルと同じで未知過ぎる。


 竹丸は正攻法の打撃。それはベリアルには通じない。




 前野──。

 戦いかたを何度も見てる。打撃は最高。見えない戦闘。


 それは今、別にいい。


 彼女の得意な技はなにか?

 それは幻術だ。精神を侵す術だ。


 見たことがある。

 和風な風景、中華な風景を見せながら自分の技を飾る。


 今はそれじゃない。

 彼女はまやかしを見せる。


 今それを使えないだろうか?

 ラファエルを拘束から解き逃げる術を──。




 陽太は、すぐに思い付いた。




 ベリアルは面白そうにラファエルを締め付けていたが、はるか上空に眩い光。


 それはラファエルだった。ラファエルが天空に逃げる姿。

 ベリアルは驚いて、自分が締め付けるラファエルを見る。するとそれは目玉がボタンの人形だ。

 ベリアルは悔しんでラファエル人形を放すと、はるか上空に飛ぶ。その間に陽太はラファエル人形を抱えて、空中を滑るように逃げる。


「げほ、げほ、げほ。き、貴様は──」

「気付いたかい、ラファエル? 今のベリアルは俺が作った幻の君を追いかけている。だがすぐに気付くだろう。その前に逃げるんだ」


 そう。陽太の幻術だった。それは前野と比べれば稚拙だ。しかしベリアルには十分効果があった。


「ば、バカな。逃げればいいのに」

「バカだとは思う。自分を地獄最下層(コキュートス)に落としたキミを救うなんて。だけど見捨てるわけにはいかないだろ?」


 ラファエルは美しく笑った。そして辺りを鰯雲で覆って、自分たちをその一つに隠したのだ。


「まさかひ弱な人間に助けられるとは。なんとか二人でベリアルから逃れる術を考えよう」

「ああ。そうだね」


 二人は雲の中で固く握手を交わす。

 その時だった。はるか上空から、怒声が聞こえた。どうやらベリアルが気付いたようだった。


「くそう! あのアスタロトの偽者だな!? あやつ余を騙した! 生かしてはおけん! どこだ!」


 そう言って空中で踏ん張ると、回りは赤黒い異界に変わってしまった。


 これはベリアルのステージだ。陽太とラファエルを逃がさないために、ここら辺一帯を全て自分の世界に引き込んだのだった。

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