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第185話 ラファエル

 一方的なベリアルの攻撃。陽太は避けるだけの防戦一方。ましてや明日香の友人であろうと攻撃するのは躊躇された。

 しかし向こうには遠慮がない。近距離にして打撃。遠距離になって光線や炎を飛ばしてくる。


「わあ! わあ! わあ!」

「はっはっは! 面白い。面白い。もっと逃げろ。簡単に殺してしまってはもったいないな。少しギリギリで攻めてやるか」


 わざとだ。外すのはわざと。自分が楽しむためで、陽太を疲弊させ、疲れたところを笑いながら殺すのかもしれない。陽太は冷や汗をかいた。




 その時だった。陽太とベリアルは金色の空の海の中にいる。

 陽太はハッとした。これは天使だ。天使が自分たちの戦いのステージである、金色の異界に引きずり込んだことがわかった。


 空からは金色の粉が降り注ぎ、それに触れたら燃えてなくなってしまうかもしれないほど熱い。

 熾天使ラファエルと同じクラスだと感じた。

 目の前にこんな厄介なベリアルがいるのに、新たに天使となんか戦えない。

 明日香に会えないのに死ぬわけにいかない。陽太はどうにか逃げる方法を模索しようとしたが、ベリアルのほうでも異界に気付いたようだった。


「なんだこれは?」


 そして空中で踏ん張ると、異界が消え去り元の青空に戻っていた。陽太は驚いてしまった。おそらく大天使であろうものが作った、不思議な空間を消し飛ばしてしまうとは相当の力だと悟ったのだ。

 そしてベリアルは笑いながら陽太に叫ぶ。


「さあさあ続きをしよう。逃げろ、逃げろ」


 そう言って炎の玉を投げ付けてくる。陽太は身をよじって避けようと思うと、目の前に光輝く天使が舞い降りてきた。


「我こそは熾天使ラファエル! 貴様はいつぞやの! どうやって地の獄から逃れた!」


 ラファエルだった。またもや陽太の自動排出されるアスタロトの気配に気付いてやってきたのだろう。


「ぐわ! ぐわ! ぐっ!」


 なんとベリアルが陽太へと投げた火球がラファエルと全て命中した。それもそのはず。陽太の前に現れたのだから、ちょうど盾のようになってしまったのだ。


 ラファエルは火球が来たほうへと振り返ると、ベリアルと目が合い、互いに驚いていた。


「なんとラファエルか!」

「ベ、ベリアル!?」


「さっきの金の異界はお前が作ったのかあ。まあいいや。ここであったが百年目だ」

「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」


 ベリアルは言うが早いか、光の速度でラファエルに掴みかかって殴り付けた。


「があ!!」

「ふーん、痛いか。そらそら、もっと痛がれよ」


 ベリアルは片手でラファエルの胸を掴んでいると思ったらいつの間にか両手で掴んでおり、肩からもう二本の腕が生えて、ラファエルを殴り倒している。

 陽太はこの状況から逃げるのは今しかないと思った。


 しかし──。


「や、やめろ!」


 一方的に殴られているラファエルを見ていられなかった陽太は二人の元へと飛ぶ。しかしベリアルはさらに腕の本数を増やした。都合八本だ。


「いいだろう。アスタロトの偽者よ。お前も一緒に相手してやろう」


 ベリアルのその言葉に、ラファエルは傷付いた顔を陽太へと向ける。


「な、なに? アスタロトの偽者だと?」


 ラファエルは暫く見据えてため息をもらす。


「たしかに悪魔の波動は漏れているものの、ただの人間ではないか! それにグリエルがやられただと?」

「ええ話し合いをしようとしたのですが聞いて貰えず逃れるためにやむ無く……。て言うかラファエルさんも間違ってたでしょ?」


「こ、こんなわけのわからないところに来てしまい、準備も整わないのにベリアルと戦う羽目になるとは──」


 そう言うラファエルをベリアルは殴り付ける。そして破顔した。


「まあどうでもいいじゃないか。どちらも大した話じゃない。つまらないよ。お前たちの話は」

「う。は、放せ!」


「放すもんかよ」


 ベリアルは二本の腕でラファエルを掴み、六本の腕で攻撃しようとするさまはまさに蜘蛛だ。

 しかしラファエルの体から燃え盛る火焔が発生し、ベリアルを燃やし始めた。


「うぐ! な、なにを!?」

「これぞ神の炎である。お前のような悪魔に慈悲はない!」


 たちまち炎は高く燃え上がり、ベリアルは真っ黒い消し炭となる。ラファエルは細く細くため息をついた。

 陽太も一つの脅威が去ったことで安堵した。

 天使のラファエルは先ほど自分を「普通の人間」と評した。これならなんとかなるかもしれないと思った時だった。


「なーんちゃって」

「は!?」


 ベリアルが体を揺すると、黒い皮膚が剥がれ落ちて、その下には今までのベリアル。それはラファエルをさらに締め上げた。


「なんだなんだ、ラファエル。この余をあんな炎で焼けると本当に思ったのか? バカなやつ」

「うぐ! ば、バカな……!」


「そーら、そらそら。綺麗な顔が潰れちまうぞ。頑張れ、頑張れ。もがいて逃げろ」

「く、くそ!」


「これまでかあ、ラファエル? じゃ醜く命乞いをしろよ。『ハンサムなベリアル様、一生奴隷となります』と言って尻でも舐めて貰おうか」

「だ、誰がお前なんかを……」


 ベリアルは強がるラファエルの六枚ある羽の一枚を無惨にちぎって海のほうに放り投げた。


「うあ……うあ……うあ……」

「なんだなんだ、絶望か? だったら生きるために奴隷になればいいのに」


 陽太は二人より一段下を飛んでいたが、ベリアルはラファエルに集中していてこちらに興味を失っている。

 魔法でラファエルのちぎられた羽を取り寄せ、ベリアルにそっと近づいて死角から体当たりを仕掛けた。


 バランスを崩したベリアルは、ラファエルの縛めを放し、ラファエルはベリアルより間合いを取ることが出来た。

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