第18話 二人でお出かけ
漫画の後は彼女はテレビをつけた。
明日香はテレビが好きだ。
いろんな情報や、難しい話も覚えてしまう。
陽太は、これだけ知能が高い明日香を正直うらやましい。と思った。
やはり元神だけあってものすごい。全てを吸収してしまう。
今は映画の時間。今日はゾンビ物が放映されていた。
地獄では珍しいものではないのでは? と陽太は思っていた。
しかし、明日香の目は興味を持った時の目に変わっていた。
「ほう」
「やっぱり、悪魔はこういうのを使役したりするの?」
「ん? これか? 人獣の死骸が動くやつをか?」
「うん。ゾンビっていうんだけど」
「まさか。こんな魂魄が肉体からでてしまったものが動くはずがなかろう」
「え? ゾンビって地獄にはいないの?」
「ふむ。人獣の残留思念をもった魂はちょうどこんな感じかも知れんが。こんなものはいない。ゾンビとは、どこぞの宗教の思想であろう。呪術によって人獣を仮死状態にし、葬儀のあとで掘り起こし、薬を飲ませて人事不省にし、その後で肉体労働を課す。と、たしかそんなものであったはずだ。げに恐ろしきは悪魔より隣の人獣であろうな」
「なにそれ。ぜんぜん意味わかんないんだけど。ゾンビに噛まれたらその人もゾンビになるっていう」
「それはヴァンパイアではないのか?」
陽太は訳がわからなかった。
しかし、向こうは知識が半端ない。
自分の方が間違ってるのかな? と思った。
「一度死んだ者が魂もないのに起き上がって、なにが恐ろしいかとんとわからん。だいたい、この映画のゾンビとやらは腐敗する一方ではないか。視力でもって獲物を追いかけているのか? 嗅覚によって追いかけておるのか? 腐っていればそれは無理であろう。ましてや歩行しておるが、筋肉はどうなっている? 腐っていては組織は動かんであろう」
まことにもってごもっともだった。
「バカバカしい。荒唐無稽だ」
そう言って明日香がいつもの高笑いをしようとしたその瞬間。
画面に突然、ドンとアップのゾンビ顔。
「キャー!!」
陽太は明日香の叫び声の方にビックリした。
「え? どうしたの?」
「突然出てくるからぁ。突然出てくるからぁ! もう! ヤダ!」
「え? ちょっとカワイイんだけど」
明日香はいそいそと立ち上がって窓の方に向かって行った。
「もう。タマちゃんと遊んでこよう」
「え? 行くの?」
「行くよ。もう、この番組嫌い」
明日香は番組にスネて、窓もあけずに出て行ってしまった。
見るとコウモリが一羽、稲荷神社に向けて飛んでいく。
テレビからは、ゾンビの声。
実は陽太も苦手。
一人では急に怖くなってきた。
陽太はすぐさまテレビを消して、毛布を頭までかけそのまま寝てしまった。
朝起きると、壁によりかかって明日香と前野がキャッキャキャッキャと女子トークしていた。
陽太はベッドから起き上がって二人に挨拶した。
「おあよー」
「あ、起きた。おはよ。ヒナタ」
前野がいると可愛いい話し方の明日香にドキリとしながら、陽太は朝の準備を始めた。
「ごめんね~。お邪魔してるよ~」
「あ~。別にいっすよ~」
前野がいるからといっても別にいいことにした。
この二人は悪魔と妖怪。
気にしない。気にしない。
「ヒナタ、私達、今日仙台に油揚げ食べに行くから」
「あ、そう。今日? 学校は?」
「ああん。休むぅ~」
「なんだそりゃ。まぁ、別にいいけどね」
最近、明日香は地上のものを平気で食べる。
「しょう油は? 大丈夫なの?」
「全然大丈夫だよ」
これだ。どんどん順応してしまう。少量の調味料ほどの塩分なら大丈夫になってしまった。これがもしも暴走したら人類はどうなるんだ? 陽太は少しばかり苦悩した。
そこに前野も偉そうに話に参加してきた。
「帰ってきたら、二人でそのままバイト行くね。テーブルにお土産の油揚げ置いておくから、なんか料理しておいてよ。今日、シフトないでしょ?」
と言われ、なんでオレがアンタたちの飯を作らなきゃならんの。と反抗した。心の中で。
陽太がそう思っていると、二人ともクルリとその場で回転した。するとカワイイ服に早変わり。
どういうメカニズムなのか不思議なことだ。
「うん。タマちゃん、カワイイよ。その服~」
「アッちゃんも似合ってる似合ってる。今度その帽子貸して」
「いいよ~。じゃ、いこっか」
仙台。どうやっていくのだろう?
陽太の家計は火の車だ。この二人の遊びのためにお金を出したくない。
「念のために聞くけど何で行くの?」
「何でって」
「消えて飛んで行くけど」
ホッとした。やはり魔力の強い二人だ。心配には及ばなかった。
「やっぱり。じゃ、お気をつけて~」
と言って手を振った。だがその言葉に二人は気に障ったのか
「なんなんだろね?」
「知らなーい」
そう言いながら玄関の扉を閉めた。
気が合う友達同士なのだろうが。
「ムカつく言い方! アイツら」