第174話 謝礼
そして週末。フランス人に化けた三人は楽しそうにウキウキ。
陽太のみ沈んだ顔でソファーベッドに座っていた。
そんな陽太に竹丸は心配そうに近づいてくる。
「ではヒナタさん。この封筒に向こうの通貨が入っております。無くなったら連絡で」
「はーい……」
心配そうだがついて来てはくれない。優しくはあるのだが。
「帰りはヒナタの魔力はかなり多くなってるだろうから迎えに来てね~」
明日香はテンション高めに手を振る。
「知るかよ!」
と言いたいが、そんなこと言えるはずも無い。
三人はキャッキャキャッキャとはしゃいで集まった。
「では、お二人さん。私に捕まって」
前野、竹丸の二人が明日香の手を握る。
これは明日香による瞬間移動が始まるということだ。
「本日はアッちゃん航空をご利用くださいまして誠に有難うございます。それでは出発致しまぁす」
そう言い残すと、フッと消えた。
残されたのはソファーベッドの上に陽太が一人。
彼は下を向いてため息をついた。
「いいなぁ。フランスかァ。でも言ってても仕方ない。じゃオレもイギリスにいきますかね」
陽太が念じると、その意識は良く見るイギリスの地図。まさに空の上だ。すでに移動は終っている。
そこから大地を見てた。地図の示す場所を見つけている。
「ここかな?」
陽太はそこへと急降下しつつ、二段目の瞬間移動をした。
出現したのは住宅街。小さい家の前だった。
これぞ、三伯爵が示したジョアの家。陽太は迷いながらドアをノックした。すると家の中から声がする。
「はい?」
それとともに開けられたドア。初老の女性がそこにいる。陽太は初対面の外国人におそるおそる訪ねた。
「あの~。ジョアさんは?」
「私がそうだけど?」
本人だ。ちょっと太ったおばあさん。白髪で外国ドラマにでてきそうな感じの気さくな人だった。
魔女のイメージとはちょっと違っていた。
彼女はそのまま陽気に陽太に話しかける。
「あら、あなた日本人?」
「ああ、分かります?」
「分かるよ。中国人と顔が違うもんね。ホラ入って」
「あ、はい。お邪魔します」
案内されて中に入ると、いろんな薬瓶や薬草のドライフラワーみたいなのもの。
干された小動物のようなものが置いてあり、漢方薬臭さがあった。
「あの〜?」
「なに? 遠路はるばるなんの御用?」
彼女は小さなテーブルに陽太を座らせ、温かい紅茶を出して来た。
とても人の良いおばあさんの様相だ。
これが三伯爵がいう魔女なのであろうか。どうもそう思えなかった。
「あの〜ジョアさんって魔女?」
「あら!」
陽太の質問に相当驚いた感じだった。
驚いたままに息を飲み、彼女は自分の素性を明かした。
「……まぁ、そうだねぇ。本業は薬屋だけど」
互いに自分が悪魔で、自分は魔女であると隠しながらでは話が進まない。
陽太は、ジョアの正体を知りつつ、自分は力あるものだと感じさせながら話を始めた。
「オレ魔力の器が浅くて、あっという間に魔力を使い果たしちゃうんです。だからなかなか思うように魔法を使えなくて」
こういえば手っ取り早いであろうと思い話したが、ジョアは、ますます驚いた様子。部屋のカーテンを全て閉め、ドアには「閉店」の札を下げて戻ってきた。
「ま、ま、ま、魔法?」
「ええ」
「じゃ、ちょっとやってみせてよ」
やってみせてと言われても、魔法にはどんなジャンルがあるものかよくは分からない。しかし念動力ならば手っ取り早いであろうと思った。
「じゃぁ」
出された紅茶のティーカップを念じて浮かせてみせた。
目の前まで浮遊し、ゆっくりと回転させる。少しばかり芸が無いかなと思ったが、ジョアは大変感心した様子だった。
「へー! すごい! 若いのに。ちなみにオバさんは200歳。そうか。魔力の器ねぇ」
「そうなんです。ある人から紹介されて。でもジョアさん、オレ謝礼を持ってきてないんです。何がいいでしょう?」
「ああ、そうなんだ。私はね。魔女と言っても薬を作ったり、例の魔力の器を広げるっていうか、まぁその能力しかないのよ。でもね。人助けは好き。科学ではできないことに困っている人には特にね」
「はぁ……?」
ジョアは楽し気に微笑む。力を持つ陽太を得たことで、何かが出来ると思ったのであろう。
「実はこの街に、悪魔に取り憑かれた少女がいるの。22歳だけど、16歳の頃に結婚して1週間以内に旦那さんが亡くなった。その後の二回めの結婚も同じ。三回めも。さすがにそれじゃ、悪いウワサも経つよね?田舎だもん。結局彼女は人生を失ったも同然」
「あ、悪魔ですって?」
「どうにかその子から悪魔払いをして欲しいって親御さんから頼まれてるの。アンタ手伝ってくれない?」
「はぁ……。まぁ、いいっすけど、自分にできますかね?」
「あなたがどのくらい不思議な魔力の持ち主かもたしかめたいのよね。取り憑かれた悪魔がどのくらいの力かも私には分からない。間違ったら殺されちゃうかも」
簡単に言わないで欲しい。そりゃこちらは悪魔の世界には通じる力がある。
だが、全ての悪魔界ではない。アスタロト大公国のみだ。もしも別な悪魔の管轄だったら舐められてしまうかもしれない。明日香の権威に傷をつけるかもしれない。
生半可な返事をしたためジョアはすぐにその親御さんに連絡。話がついたようですぐに陽太を僧侶の装いに変えた。
「こ、これは?」
「あなたが悪魔祓屋。私は助手」
「そんなにうまくいくかな──?」
「まずは様子を見ましょうよ」
「なるほど……。分かりました」
この人の良さげなお婆さんは楽しんでいるのかも知れない。




