第169話 ファンタスティック日本
あくる日。前野と明日香はバイト早番。
その足のまま二人で遊びに行くらしい。
陽太は午後番。帰りは夕方のため竹丸と食事の約束をしていた。
バイトが終わり部屋に帰りドアを開けると、誰もいないはずの部屋に見知らぬ外国人。白人男性が三人、テーブルを囲んでトランプをしている。驚いて陽太はすぐにドアを閉めた。
「スイマセン。部屋、間違えました!」
閉めたドアに寄りかかりしばし考えてみる。
すると中からHAHAHAHAhAHA!という聞き覚えのある笑い声。
そして見つめた自分の手に握られている鍵。このカギであけて、部屋の番号。
間違いなく自分の部屋。不法入国の外国人に乗っ取られた?
少し怖いがもう一度、ドアを開ける。
「あの~……」
「おっじゃましてまーーすよ!」
陽気に手を挙げた外国人の顔。それはまさにグラシャラボラスの仮の姿であり、安心してため息をついた。
残りの二人を見てみれば、三伯爵の二人。
「なんだぁ。グラシャラボラス先生かぁ。あとイポスさんとモラクスさん?」
「そーでーす」
「左様であります」
陽太は部屋へ上がり込み、バッグを隅の方に置きながらたずねる。
「どーしたの? 大閣下はいないよ? それになに? そのカジュアルな格好」
みんなTシャツにジーパンというラフなスタイル。
多少ロックとかヘビメタとか入っているような感じで装飾がゴテゴテの指輪やピアスをつけている。
「いやぁ、大閣下が好きな地上はどんなものか、我々も見てみたくて」
「さっそく、フジヤマ、ハラキリ、ゲイシャに案内して下さい」
「お願いいたします!」
まさにニセ外人。
陽太はあきれて口をあんぐりと開けた。
「富士山くらいならみんなで飛んでいけるだろーけど、ハラキリなんてしてる人いないし、芸者はオレも見たことないよ?」
「あー。そーなんですか?」
「せっかくこのファンタスティックの国、日本にいるんですから何かあるでしょー」
「ブシドー、マイコ、スシ、テンプラ、カステラ、チャーハン?」
「ちゃ、チャーハン??」
「そう。私も聞いた事があります。ブシ、カツオ、ダイミョウコージ、ヒロコージ、チャミセ、ムラサキ、ヒケシ、ニシキエ、カジにケンカにチュウッパラ」
「知ってる単語が少ないよ。なんだそれ」
その時、ドアがノックされ開かれる。
そこには竹丸。彼は知らない来訪者に少しばかり驚いたが、すぐにいつものような冷静な顔つきに戻った。
「おや? お客さまですか?」
「あ。竹丸さん。入って下さい。こちら、アスタロト大公国の貴族のお三方」
「おお。それはそれは。ようこそ人間界へ」
「左から、モラクス伯爵、イポス伯爵、そしてこのチャラそうに見えるのが、オレの武術の先生、グラシャラボラス伯爵です」
グラシャラボラスは陽気に高らかに腕を上げて答える。
「そーでーす。よろしく~!」
そこへモラクス。彼は心配そうに眉をしかめた。
「ヒナタ公。我らの正体を言っても差し支えのない方なんですか?」
「ああ、大丈夫。オレの味方の三峰竹丸先生。正体は天狗です」
「おお!」
「テング!」
三人のテンションは一気に上昇。
すぐに竹丸に近づいて握手を求める。
「竹丸さん、この人達日本文化を見たいんですって。なんかないっすか?」
そこで竹丸は例の天狗の袋に手を突っ込んで出したものが、赤くて鼻の高い天狗の面。
驚く三人の目の前でそれを顔に被ると驚嘆の声が上がる。
「オーーー! ファンタスティック!」
「グレイト! オー! マイ! ルキフェル!」
オーマイゴットではない。彼が信じているのはルキフェル皇帝なのだ。
「この方は怒ってらっしゃるわけではないですよね?」
真面目なモラククは赤くてにらんでいる大きな目の天狗の面に騙されている。
竹丸は笑いながら面をとった。
「これでこんなに喜んで頂けるとは」
「竹丸どの。もっとなにか面白いものを見せて下さい」
というグラシャラボラスの懇願に竹丸は少し考えて手を打つ。
「そーですね。食事時ですし、居酒屋にでも行きますか。我々もちょうど食事しようと思っておりましたし。ねぇヒナタさん」
その提案によろこぶ陽気な悪魔貴族たち。
「Ohー! イザカヤ!」
「参りましょう! 参りましょう!」
陽太と竹丸は三伯爵を引き連れ近所の焼き鳥居酒屋へ向かって行った。




