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第161話 やる男

その頃、陽太の部屋は明日香が吸ったタバコの煙が充満し、灰皿にはたくさんの吸い殻が山のようになっていた。

明日香の貧乏揺すりもピークを達し、本棚から本がパサパサと落ち始めている。


前野はソファーベッドに寝転んでファッション誌を見ていた。


「はぁ~あ。アッちゃんがいないことをいいことに、二日も相手の家に入り浸ってるようじゃ、とんでもないこった!」


前野は陽太を弁護もしない。明らかに親友の彼は浮気していると思って、別れを助長しようとしている。

しかし、そう言われると明日香の方では逆に信じようとの心が働く。まるで十代の少女のように。


「……で、でもさ」

「ん?」


「部下たちを捜索に出してるの。それが帰ってこないってことは地上にいないのかも……」

「そーなの? 悪魔ちゃんたちを?」


「うん。だからきっとそう。地上にいないんだよ……」

「だって、どうやって?」


しかし明日香も分からず沈黙。

間が悪いのでリモコンを取ってテレビをつけた。

すると、各局ニュースだらけ。世界中で暴動や犯罪、事故が起こっているというもの。次から次へと続報が入ってくるようだ。


これは、サルガタナスがはなった悪魔たちが世界中に影響を与えているためだ。明日香もそれに気付いてバツが悪くてテレビを消した。


その時、床が震え出し、部屋の中央には黒く輝く魔方陣。ゆっくりと黒い甲冑を纏ったサルガタナスがフルヘルムの奥の目を光らせながら現れた。


「痛ッ!」

「天井低いからね……」


かっこよく現れようと思ったサルガタナスは長身のために天井に頭をぶつけたところを前野にフォローされた。

陽太の調査報告であろう。明日香は心配でたまらず恐る恐る聞いた。


「……どう?」

「発見致しました。どうやらラファエルと戦ってコキュートスに堕とされたようです」


「ほらァ! ほらァ!」


そう言いながら、目をキラキラと輝かせて前野のほうを向いてニマニマと笑った。


「へー! 良かったじゃん!」

「ね! だから言ったんだよ。信じて良かった!」


サルガタナスは心の中で処刑せよっていったじゃないですか。と突っ込んだ。主君に口に出して言えるものではない。


「しかしながら大閣下に申し上げます。実はラファエルの呪縛が強過ぎて、私では牢から解放することが出来ませんでした。ここは一つ大閣下にご出馬願いまして」

「はーい! 行きまーす!」


もはや食い気味に手と声を上げ、立ち上がる。サルガタナスの元へ走ると二人は魔方陣の中へ消え始めるが、明日香は前野へ手を振りながら言った。


「タマちゃん、留守番ヨロシク!」

「はーい。やれやれ。じゃぁ美味しいゴハンでも作りますか!」


「ウン。じゃーねー!」


明日香とサルガタナスは床の中に完全に消えた。

前野は立ち上がり、陽太の部屋の冷蔵庫をあける。


「あたー。何もないな。このウチは」


その時、コンコンと部屋のドアがノックされる音。

前野は面倒くさそうにそこへ向かいドアを開ける。そこには男女が二人。それは貴根と流辺であった。

貴根は見たことがある。バイト帰りに陽太と駅の方へ行った女だと。


「あ。アンタ」

「あ! 彼女さんですか?」


貴根は陽太の部屋にいる前野を彼女と勘違いしたが、前野は呆れ顔でため息をつく。


「……そーみえる? 違うけど? 近所のおねーさん」


流辺は心配そうに尋ねる。


「あの……。浅川くんは?」

「んー。今はいないよ?」


とたんに二人は悲しそうな顔を浮かべる。

まだ帰ってきていない。あの金色の空間から。と。


「実は、オレたち彼に助けてもらって……」

「彼を置いてけぼりにしてしまったんです! きっとまだあそこにいるんだわ!」


真剣な二人に前野の顔も若干緩んで笑顔になる。


「いやぁ、見つかったみたいよ?」

「そ、そうなんですか! ああ良かった!」


「うん。時期に戻るよ」

「ああ、良かったわ! 本当に良かった!」


喜ぶ二人。だが前野は貴根を少し睨む。


「それよりアンタ。アイツとどういう関係?」


それに貴根は下を向いて言い辛そう。


「いえ……。片思いの相手でした」

「ああ、そう。やっぱり」


「でも、ヒナタくんのおかげで、彼の気持ちが分かって」


そう言いながら、流辺の腕を組むと、流辺は恥ずかしがって頭をかいて赤い顔をした。前野はその初々しさに微笑んだ。


「あっそ。お暑いこって」

「彼が帰ってきたら、また改めて挨拶に来ます!」


そう言いながら頭を下げる二人に前野は興味無さそうに答える。


「はーい。はーい。じゃ、そーゆーことで」


そしてそっけなくドアをしめる。

無言のままキッチンへと向かい、もう一度冷蔵庫を開けてしめてしばらく静寂。小さな冷蔵庫に背中を向けて寄りかかり誰もいない部屋に微笑んだ。


「……ふーん。アイツなかなかやるじゃん!」

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