第158話 ヒステリック
その頃、明日香は陽太の部屋で、大公爵のイスにもたれかかり、細長いパイプでタバコを吸い、ものすごい勢いで貧乏揺すりをしていた。
あきらかにイライラしている証拠だ。
サルガタナスよりの報告を待っている。
明日香には前野からの情報しかない。
それは親友からの言葉。
陽太のことも信用したいが、親友の言葉も重い。
ましてや前野は地上最強。長い年月生きた経験が信憑性をたしかなものとしている。
陽太は。陽太は──。
たかだか17年の齢しかない。
人間は愚かで欲深い生き物。
そう思ってしまう。よく考えれば陽太を信用出来る要素が見つからない。
自分の気持ちは気まぐれからなのであろうか?
考えてみるが思考の邪魔をする。
陽太への思い。
自分は大悪魔で性別などない。
しかしこの気持ちはなんだ。
女神として生まれたことを思い出す。
温かな女性としての優しさ。
母性なのであろうか?
明日香は大きく首を振って自分を取り戻した。
「余はアスタロト。地獄の大公爵なるぞ」
悪魔貴族であることを自分に言い聞かせる。
こんなに心が落ち着かないのは初めてだった。
その時、アパートの部屋の扉がトントンとノックされた。
「ヒナタ!!?」
明日香は急いで立ち上がり、ドアのカギをあけると威厳をもって玄関先で腕組みをした。
一体今の今まで何をしていたと叱責するつもりで、眉間に力を入れて眉を吊り上げドアを睨む。
「こんばんわ~。わ。真っ暗」
それは前野。どうやらいつものように遊びに来たようだ。部屋が暗幕に包まれているので自分の周りに狐火を灯す。
明日香は前野と分かる、腕をダランと下げ、脱力の姿勢をとった。
「なぁんだタマちゃんかぁ~……」
「なんだとは失礼しちゃう。ねぇ、遊びにいかない?」
「いーよ。めんどい」
「憂さ晴らしにナンパされに行こうよ!」
「タマちゃん一人でいってこればいーじゃん……?」
「ふーん。ノリ悪いね」
明日香は部屋に戻って椅子に腰を下ろし、また足をカタカタ、カタカタ貧乏揺すり。
前野は陽太のソファーベッドに寝転がり、お菓子とファッション雑誌を取り出した。
「本気なの? アイツと結婚したいって」
「……どーだろ?」
「いつもの、ただ興味を持ってとかだったらヤメといた方がいいよ。嫉妬もするし、先に死んじゃったら悲しいし」
「嫉妬……」
「そーだよ。まぁ、タケちゃんみたいな男だったらいいかもしれないけど」
「ふーん。ノロケるね~」
「これがホントの愛するってことだよ」
「そーかー……」
明日香の思考がまとまらない。
気まぐれ。興味。たしかにそんなものがあったかも知れない。
しかし今の気持ちはどうなんだろうか?
パイプを吸って細長く煙を吐き出した。




