第152話 流辺、最後の刻
どこから天使が攻めて来るか分からない。陽太は辺りを見渡した。
貴根は、震えながら流辺の胸にすがる。
やはり頼りにしてるんじゃないかと陽太は微笑んだ。
今この状況を打破するには、空間を作ったであろう天使を倒さなくてはならない。
そして二人を無事に返して祝福をする。
「よし! グリエル程度だったら、杖のサーベルもあるし、公爵就任の前にもう一体、能天使を倒すくらいわけないぞ。いや、簡単に考え過ぎか。でも降り掛かる火の粉は払わないとな。二人も無事に返したいし」
そう小さな声でつぶやいて二人へと目配せを送る。
二人は陽太が自信がありそうなので微笑んだが、すぐさま目をつぶる。
陽太も何が起こったかわからない。
空からキラキラとした眩しい粉が降って来た。
「なんだ? これ」
それは一粒一粒が熱い。触れたら燃えてしまいそうだ。
その瞬間、凄い勢いで天使が舞い降りて来た!
金色の何枚もある翼。
白銀の兜と胸当て。
手には炎を纏った剣を一振り。
彼はつぶっている目を開けると、太陽のようなまぶしさに三人は声を上げて目を閉じてしまった。
「だ、誰だ……?」
「熾天使ラファエル……」
ラファエル。
ラファエル。
ラファエル。
陽太の頭に記憶が呼び覚まされる。
「余が止めた時間の中に入ってこれるものはそうさのう。熾天使のラファエルか?」
明日香の言葉が思い出される。つまり、目の前にいるのは明日香と能力が同じくらいの大天使なのだ。
熾天使。だからこれほどまでに眩しくて熱い。
陽太の全身の毛が立つ思いだ。
そんな陽太をラファエルは睨み倒した。
「貴様がグリエルを弑したものか……。許せん。悪逆だけでは飽き足らず、我らが同胞まで手にかけるとは」
気温がますます上昇する。
チリチリと身が焼かれる。
「うわ! 熱い!」
陽太は杖を宙に浮かせ、グルグルと回転させ、熱を緩和させた。
だがその杖を見て、ラファエルはますますいきりたつ。
「クッ! 害悪のくせに、公爵の身分を示す杖とは不遜極まりない!」
その怒りのせいか、ますます熱が強くなる。
陽太は宙に浮いた杖からサーベルを引き抜いた。
そして二人の方を振り返る。
そこには炎に囲まれ、もう飲み込まれそうな二人。
流辺は、熱波に背を向け貴根の身を守っている。
しかし、その背中は真っ赤に焼け、炎が出始まっていた。
「ああ、ハナ! 愛してる。ずっと前から好きだったんだ!」
「え?」
流辺の体はだんだんと肉が溶け出し、炭化して行く。
それはホンの数秒の出来事。
流辺は最後を悟り、貴根を熱く抱擁し口づけをした。




