第151話 修羅場
「ハナ。どうしたんだ?」
貴根は、流辺の目を避けるように陽太の服をつかんで下を向いてしまった。
「ハナ。浅川くんが、なんでここにいるの?」
「いやゴメン。なんでもないんだ。オレ帰るから……」
しかし貴根は陽太の服を放そうとしない。
「ダメ……」
「そっか。この前の話を受け取ってくれなかったのは、ハナは浅川くんのことが……」
静寂。一人陽太はどうにかしたいと冷や汗をたらす。
ヤバい。最悪の状況。どうすればいいのか。
流辺も物わかり良過ぎだ。諦めるのが早すぎる。
「いやぁスバルくん。オレ彼女いるからさァ。正直迷惑してんだ。スバルくん。仕事も大事だけどさぁ、彼女の手を放さないでくれよ」
言った。決まった。
だが貴根の手は決して放さない方向だ。
陽太の背中に隠れ、流辺を見ようともしない。
「ハナ、どうなんだ?」
「好き……なの。ヒナタくんのこと」
「そうか……」
「キス……したの」
それは違う。危機的状況の中の人工呼吸。
陽太は慌てて否定した。
「違います! 人工呼吸です!」
「どうして!」
流辺の顔は見たこともないような怖い顔。
大事なものを奪われ、守りきれなかった天使の顔。
しかし、またいつもの顔に戻る。
「ハナを裏切らないで下さい。ハナは小さい頃、親に捨てられ、里親にも先立たれ頼るものが誰もいないんです。どうか、どうか、気の毒な彼女を見捨てないで下さい」
「そ、それは、君の役目だろう!」
「じゃ、ハナを弄んだだけですか!」
なぜ命を助けて悪者にならなくてはならないのか。
この状況を、誰かに助けて欲しい。天使でも悪魔でも。
その願いが通じたのかどうかは不明だが、三人はいつの間にか金色に輝く別の空間に立っていた。
これぞまさしく天使の技。
まさかグリエルが生きていたのでは。
どうすればいい。二人を守ったまま戦うなんて無理だ。一人でも大変だったのに。前回ので検証済み。
せめて武器でもあればと、思いついたのは公爵の黒い杖。
お茶のペットボトルのように部屋から取り寄せられないだろうか?
陽太が魔法で念じると、手の中には公爵の黒い杖があった。
「やった!」
流辺は不思議そうな顔をしていた。貴根は、ますます陽太へすがりつく。
「またなの……?」
陽太は、そういう貴根を流辺へと押す。
「しっかり守れよ! 守護天使!」
「え? う、うん……」
流辺はまだ状況をつかめていないが、明らかにおなしな状況に貴根を強く胸の中に抱いた。




