第147話 バカな男
朝、目を覚まし、辺りを見てもまだ明日香は帰っていなかった。
「連休今日までか~。アスカがいないとヒマだ。ま、今日はバイトのシフトもあるしな」
気だるげに起き上がって服を着替え、バイト先へ向かう準備を整えているとまたスマホにラインの着信があった。
「ん?」
Line:貴根「今日もスバルがいなくてヒマ。買い物付き合ってくれませんか?」
今日も流辺は政治家のお手伝いなのであろう。暇はこちらも同じ。
それに昨日の流辺の反応も聞きたかった。
Line:陽太「バイトが14時までなので、そこからでよければ」
Line:貴根「スタンプ:OK!」
Line:貴根「スタンプ:ありがと~!」
レスポンス早さに驚きながら、午後からの友人との買い物を楽しみにバイト先へと向かっていった。
その日は看板娘、前野がレジなので、多忙を極めた。
入れ代わり立ち代わり、客が来ては、いいカッコしたいのか大量注文。
その度に前野の営業スマイルを受けてしびれながら帰っていく。
「さぁ! 儲かって参りましたぁ!」
厨房もレジも忙しいなか、一人テンション高めの店長に、みな辟易。
そんな中、レジを並ぶ客からブーイングが流れる。
そう前野がレジを離れたのだ。
「すいません。ちょっと早めに昼休憩いただきまーす!」
「はーい。昼には戻って来てね~」
店長の許可を取り休憩に向かう前野は、陽太の後ろを通りざま、耳元で嫌味っぽくつぶやいた。
「……女臭ぁ~」
焦って振り返ると、軽蔑した顔。
否定しようとしても、たしかに昨日は不可抗力とはいえ、貴根にベタベタ触られた。
陽太は胸や腕を拭いながら言った。
「と、友だちですってば……! 師匠」
「あー触るな! 妊娠する!」
「そんなぁ~……」
「過ちは犯すなよ。少年」
「はい……」
前野が去った後、後ろめたさと背徳感が襲ってくる。
思い直してみれば、友人とは言え、やはり買い物の付き合いを二人っきりでするのはまずい。
しかし約束をしてしまった。
モヤモヤとした感情のままバイトが終了。
外に出るとそこには可愛らしい服装の貴根が待っていた。
いつもにもましてデートかと思うくらい着飾っている。
学校の制服とはギャップがあった。
「じゃん!」
「わ! ビックリした」
「あ~。寒かった。終わりですか? 仕事は」
「うん、終わった。待ってたの?」
「ちょっとだけね。さ、行こう! 行きましょう!」
「ちょっと待って!」
「ん?」
「考えたんだけど……。彼女がいるのに、やっぱり二人っきりはまずいよ」
「そうかな? 私にだってスバルがいるし」
「うん、お互いのパートナーが知ったら怒るよ。だからヤメにしよう……」
陽太は、このままでは押し切られるかもしれないと、そのまま家へ向かおうとした。
「ああん! ちょっと待って! ちょっと待って!」
「なに?」
「違うの……。スバル の誕生日のプレゼントなんだ。男ものだし。私じゃ分かんなくて」
「ああ。そうなんだ~」
「ゴメン。そう言われればそうだよね。彼女もいい気しないよね」
貴根は陽太へ寂しそうに背中を向ける。
「いや。それなら仕方ないよ。分かった。じゃ、一緒にプレゼント探そう!」
「ホント? ああ、良かった!」
並んでショッピングモールへ向かう二人を前野は物陰に隠れてその会話を聞いていた。
「は。……バカな男」




