第145話 実験タイム終了
そして思った。ああ、もしも彼女と恋人になれたなら、こういう毎日だったんだろうな。と。
しかし、彼女には将来守り続けて行く男がいる。
それはとてもうらやましい。彼女の守護天使である流辺 昴のことが。
そうしていると脱衣所から洗濯が終了する音が聞こえた。
高根は走ってそれを洗濯カゴにいれ、また陽太の方に来て、手を握ってひっぱった。
「なに?」
「玄関まで送って!」
陽太は優しく笑う。
才女で生徒たちの規範となるような彼女の可愛らしい一面。
それを見れてそんな顔になるのも当然であろう。
「どーしょーもない甘えん坊さんだな。ハナちゃんは」
そう言いながら陽太は立ち上がる。
彼女に手を繋がれて玄関へ。
「じゃ、ちょっとだけ待っててね」
「うん」
貴根はコインランドリーへと出掛けていった。
陽太は部屋のイスに座って彼女を待つ。
しばらくすると部屋のドアが開いてそこには貴根。
「ただいま……」
「ん? どうしたの?」
「ああん。人いっぱいだったぁ~」
貴根は洗濯カゴを玄関先に置いて、陽太へ向かって駆け込み抱きついて来た。
陽太は驚き動揺するも、彼女の肩を支えていた。
「……ちょっ。どうしたの」
しばらくそのまま。貴根は陽太の胸の中をしばらく楽しんだ後、名残惜しそうに離れた。
「あ~んゴメン。スバルと勘違いしちゃった。あはあは」
それを聞いてまた陽太は優しく微笑む。
自分が心配するまでもなく二人の時はこんなことしたりしてのであろうと思ったのだ。
「じゃぁ、乾いてないの?」
「うん。どうする? 部屋に干してかわかそうか? 休日だからコインランドリー夜までいっぱいかも」
「そっか~。夜までいっぱいならしょうがないよね。夜は二人の食事のじゃましちゃ悪いから、部屋で干させてもらって。最悪、生乾きでもいいや」
夜は二人の食事。それを聞いて貴根は、言葉を発せず不機嫌そうにうなずいた。
陽太にしてみれば思いがけない長居。
彼女は口には出さないが、いつ流辺が入ってくるかもわからない状況に、バスタオルを巻いた知人が部屋にいるのはおかしい。時間的に不機嫌になるのも当然だと感じた。
「あ、そうだ。ドライヤー貸してよ」
「え? どうして?」
「ジーンズ乾かそうと思って」
しかしそれにも貴根は不機嫌そうに目を反らす。
「電気代……かかるから」
「あ、そうか」
それは陽太もよく分かる。
一人暮らしの切り詰めた状態の中、ドライヤーで洗濯物を乾かされたらいくら掛かるかわからない。
ましてや彼女は孤児だ。気を使えない自分を反省した。
ジーンズを窓側に干して、二人はしばらくオセロをしながら暇つぶしした。
貴根にしてみればジーンズが乾けばこの愛しい人が帰ってしまう。
いつまでも乾かなければいいのにという思い。
陽太にしてみれば時間が経つにつれ、彼女がイライラしてくるのが感じられる。
もうすぐ彼が来るっていうのに、いつまでも居座る自分をもどかしいのであろうと思っていた。
陽太がジーンズを気にして窓側を見ると、彼女は立ち上がってジーンズを触る。
「……まだ、乾いてない」
陽太に先に触られてはたまらない。なにしろすでにジーンズはあらかた乾いていたのだ。
「そう? でもいいよ。少しくらい。帰るからさ」
陽太も立ち上がってジーンズに近づこうとするが、貴根はそれを両手で押し返した。
「だから乾いてないから」
驚く陽太。まさかあの貴根がこんな強気でくるとは。
両手で押されても鍛えている陽太だ。ビクともしない。
しかしなぜそんな触らせてくれないのかわからずに、押された場所を指で触っていた。
「ねぇねぇ。映画見ようよ。DVD」
DVD。さすがに二時間はかかる。
そんな長居をすれば夕食の時間となって、流辺が入ってくるだろう。
それに陽太自身も明日香が帰ってくるかもしれないという気持ちがあった。
「いや帰るよ。彼女帰ってるかもしれないし」
貴根の横を通ってジーンズに進み出ると、貴根は陽太を追い越して、ジーンズを取り上げてしまった。
「ん? なに?」
「やぁだ! 帰んないで!」
「ちょっと!」
貴根は涙声で叫んだと思うと走り出し、脱衣所へを駆けていく。
洗濯機の中にもう一度ジーンズを入れ、濡らせてしまおうとしたのだ。
「!」
貴根の手から放れてジーンズは洗濯機へと落下する。




