第144話 貴根の誘惑
「はい。どーぞ」
「で、では遠慮なく」
陽太はベッドに腹這いとなる。
そこへ貴根は背中に股がって背中、首、肩、腕をマッサージしてあった。
陽太は指圧される度に声を漏らす。その度に彼女は笑っていた。
陽太は気持ち良過ぎて思わずヨダレをこぼしてしまったが、彼女は気遣ってそこにティッシュを挟み入れてくれた。
「あーん。ゴメンね。貴根さん」
「ううん。きっとスバルにもそうしてると思うから」
「うんうん。いいよ。すごくいい」
「じゃ、足の方をやりまーす」
「ん。はーい」
彼女は体を反転させて、陽太の尻に触れる。
陽太は敏感に体を震わせた。
「んーーーー!」
「ああ、ダメダメ。ダメだよぉ。力入れちゃぁ。それでなくても筋肉いっぱいなのに~」
「だってそこは、ダメ……」
「なんで? デリケートなところには触らないよ? ここの筋肉だってこるんだから。スバルにもこうしてあげたいんだ」
そう言われると弱い。
なにせ自分は実験台だ。
「そっかぁ」
「ゴメンね? 協力して?」
「恥ずかしいけど。仕方ないね。うん」
彼女は尻の肉のマッサージもはじめた。
これはこれで気持ちよいと、感動。
やがて、太ももの指圧。ふくらはぎ。
足の裏と、全身くまなくマッサージしてくれた。
「あ~、君みたいな才女にこんなことしてもらえるなんて~……」
「なんのなんの。好きな人のため」
「あ~。あの幸せものめ~……」
貴根は陽太への直接な告白。
しかし陽太はそれを流辺へのものだと、指圧の快楽に恍惚な表情を浮かべながら応える。
なかなか思いが通じずに貴根は陽太の背中に体を倒し、胸を密着させて抱き付いた。
「ぉお……。ちょっとォ」
「ゴメン。疲れた。ちょっとこうさせて」
「やっぱり疲れたでしょ? 結構な時間だったもんね」
背中の貴根はさらに体に密着する。
貼り付かれて彼女の体温が陽太へと伝わって来る。
「ヒナタくん……」
「大丈夫?」
「あ~……。疲れたよぉ~」
「ゴメンね? 無駄に筋肉が多くて」
「ううん。よかった。参考になった。ありがと~」
「じゃぁ良かった」
そのまま貴根が陽太の背中に貼付いて10分ほど。
貴根の吐息が陽太の首筋をくすぐる。
陽太は不覚にも彼女のぬくもりを楽しんでいたが、それではいけない。彼女にどいてもらおうと身をよじろうとした時だった。
「ねぇ、あの不思議な力って……何?」
「なにって……それは」
「私とスバルはさ。施設で先生に、君たち一人一人には守護天使がついてらっしゃる。きっと幸せになれるっていつも言われてたの」
「そうなんだ」
「それってスバルなんだとずっと思ってたんだ」
「うんうん」
「でもさぁ……」
「え? 何?」
彼女の否定。
あのベンチで流辺を見つめ直すと言っていた。
なにの「でも」なのであろう。
陽太は起き上がって聞こうとした。
「あ! そーだ! ジーパン。ジーパン!」
跳ね起きたのは貴根の方だった。陽太も忘れていた。
マッサージうますぎてまったりしすぎたのだ。
貴根が脱衣所に入り、しばらくして。彼女は手ぶらで戻って来た。
「はは……。スイッチ入れるの忘れてた」
「ブッ!」
「あはあはあは」
「も~。勘弁してよ~」
「あは! 失敗。失敗。ハナちゃんかわい~」
「ハナちゃんじゃねーわ! 頼むよ~ハナちゃぁ~~ん」
つられて思わず愛称で呼ぶ。
貴根は呼ばれて嬉しそうに微笑む。
「んふんふ。じゃぁ、変顔するから許して~」
変顔?
貴根は、リズム的に変顔し始めた。
まじめ→変顔→まじめ→変顔。
あまりのギャップに陽太の大爆笑が止まらない。
「ギャハハハハハハハ!!」
「んふ。どう?」
陽太は、息が出来ないというゼスチャーをした。
それぐらい面白かったのだ。




