第142話 お食事およばれ
次の日。アスカはまだ帰ってこない。
久々に陽太は部屋の中で大きく大の字になって寝転んだ。
「はー。楽!」
久々の一人を満喫。
明日香がいない間に、自分としてやりたいことをやった後で、ゴロゴロした。
「アスカ、いつ帰ってくるのかなぁ……」
でもすぐにアスカを思い出してしまう。スマホをしばらく眺めてもさして面白くないので止めてしまった。
「早く帰ってこないと浮気するぞ~。って、はぁ〜バカみてぇー……」
独り言を言うと、スマホにLINEの着信音。
けだる気にスマホを眺めてみる。
「ん……? 貴根さんか」
Line:貴根「スバルに料理作ったんだけど、味見に来ませんか?」
「へー……。お。画像。わー。ハンバーグにポトフかぁ。うまそーだなぁ」
ハンバーグは陽太の好物。
貴根は会話からそれを探り出していた。
そう。流辺に作ったと言うのは陽太を誘い出す口実。
その罠に陽太はまんまと引っかかった。
Line:陽太「料理上手なんだね。お腹すいてたから行くよ~♪」
Line:貴根「スタンプ:は~い」
陽太から見れば怪しさなど微塵もない。
ただ可愛らしく、流辺のために調理をし、それが心配なので味見を頼む女友達。
陽太は靴を履いて貴根の部屋へ向かった。
ドアの前に立ち、呼び鈴を押すと、貴根はマッハのスピードでドアを開けた。
「わ。ビックリ」
「あ。いらっしゃーい。ヒナタくん、どーぞー」
「おじゃましまーす。わー。いい匂い!」
「んふ。スバルは夜帰って来るから、その前にヒナタくんに味見てもらおうと思って」
「うん。いいよ。いいよ。お安い御用でございまーす」
貴根に案内されて、例の小さい細いテーブルに。
貴根は出来たての料理をそこへ運ぶと、陽太の前の席に腰を下ろした。
「私も一緒に食べていいかな? ちょうどお昼だし」
「いいよ。いいよ。一人じゃ寂しいし。一緒に食べよう」
二人して迎えあわせになって昼食をとる。
陽太は気付いていないが、これではただの彼氏と彼女。
恋人同士が休日に二人の時間を部屋で楽しむよう。
貴根は陽太とのこの時間を徐々に増やし、彼女つまり明日香から奪ってしまおうと思っているのだ。
「うわぁ~~~。うめぇ~~~」
陽太は本当に感動した。旨い。
明日香が作ったハンバーグ。黒焦げ、半生のハンバーグ。同じ素材でもこんなに違うんだなと明日香を思い出し微笑む。
ニヤついていると貴根は成功したと陽太へと微笑んだ。
「おいしい?」
「うん。貴根さんはいい奥さんになれるよ」
「うふ。努力する」
「かー! うまい! こんなにうまいハンバーグ初めて食べたかも!」
「へー。彼女は? 作ってくれないの?」
「いやぁ、作ったけど。ドヘタクソ」
「プ!」
「いつもは、オレが自炊してるんだ」
「じゃぁ彼女は何をしてるの?」
「そーだなぁ。読書が好きかな? あとイタズラが好き」
「おー。ラブラブですねぇ~」
「まぁね。ふふ」
次にポトフに手を付けた。
こちらもよく煮込んであって美味い。
あまり自分でも作らない。光熱費はかかるし、鍋についていないといけない。
だから、これほど旨いと思わず、その味に震えた。
「あ~。久々の感動!」
「そう? 簡単だよ?」
「これは、帰りにレシピを聞いて帰んないと!」
「あ。守護天使をうならせた」
「うん。天使じゃないけどうなった。こりゃ美味しい!」
貴根もポトフに手を付けようとしたその時。
彼女の手が当たり容器が倒れ、ポトフのスープが陽太のジーンズへとこぼれて濡れてしまった。




