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第141話 お断りします

今度は陽太が小さく手を挙げる。


「質問が、ございまーー……す」

「はい。ヒナタくん」


嬉しそうに貴根は陽太の顔を覗き込むが、陽太は下を向いたまま。


「スバルくんとは、会ってるの?」


とたんにムッとした顔を浮かべる貴根。

二人きりの時間に不要な名前なのだ。

彼女は陽太を愛することに決めた。だからその名前を聞きたくなかったのだ。昔好きだった者の名など。


「どーでもいーよ。あんなの」

「どうでもいい……ってことはないでしょ? 兄妹みたいに暮らしてた訳だし……」


「それよりさァ!」

「いや……。スバルくんは、きっと君のことを愛してるよ。だからオレなんかよりも彼を正面から見つめた方がいい」


言った。ハッキリと言った。それが彼女にとっての幸せ。

自分には愛する明日香もいる。この時間は互いの心を不用意に揺さぶるだけ。スバルが準備しているであろう、未来に貴根は進むべきなのだと彼女の方を向くと、当の貴根は首を横にかしげていた。


「どうして? それはスバルは勝手にそう思ってるかもしれない。私もずっと待ってる時期があったよ。でも、待ちくたびれたし、今さらそんな気になれない。私は、自分の気持ちに正直にヒナタくんが好き!」

「わー……」


逆に火をつけてしまった。

引き下がるつもりもない。

しかも、自分の心も揺れる。揺れてしまう。


「好きなんだもん! 愛してるんだもん!」

「ちょ。ダメだよ!」


「どうして?」

「だから、彼女いるんだって!」


「うん。知ってるよ……」

「それに……結婚の約束してる……」


「え?」

「うん……」


貴根は、ガックリとうなだれて下を向いてしまった。

しかしそれは、しょうがない。

傷付いたかも知れないが、ズルズルとするよりも断ち切った方がいい。今のうちに、帰ろうと陽太は黙って立ち上がった。


だが、その手はつかまれてしまう。

なぜか強く出れない陽太はそれを振り払えずに苦笑を浮かべた。


貴根を見ると、大粒の涙がポロポロとこぼれている。

その涙は自分のためだと思うと、貴根を抱き締めてしまいたくなるほど可愛いさを感じてしまう。


「……あきらめない。あきらめきれないよ。ヒナタくんのことォ」

「いや、無理だって……」


二人の周りに沈黙が流れる。

落としどころがない。

陽太は無理だと言う。貴根は諦められないと言う。

しかししばらく経った時だった。


「……わかった」

「う、うん」


突然の貴根の理解。ようやく陽太の袖を持つ手が緩む。

陽太に安堵の表情が浮かぶ。

それを見て貴根は相談のように話し始めた。


「私さ……。この前、スバルに言われたんだ。将来も一緒にいたいって」


言っていた。流辺は貴根へ自分の気持ちを伝えていたんだと、陽太は嬉しく思い返答する。


「そーかー。うんうん」

「でもさ、それって何? って思っちゃって。今と同じ関係じゃない? 部屋も別々で共有する時間も少なくて、そんなのどういう関係か分かんないよ。って言ったんだ。そしたら、頭下げてゴメンって……」


「一緒にいたいって結婚したいってことじゃないの?」

「いやぁ。何考えてるかわかんないよ」


「スバルくんは……、スバルくんの気持ちは……」


必死に彼の気持ちを伝えようとするが、それは人の気持ちだ。

自分から伝えていいのかどうか判断がつかない。

迷っていると貴根から。


「ヒナタくんってさァ~」

「ん?」


「スバルのことめっちゃ推してくるよね? なんか言われてるの?」

「いやいや、そんなことないよ」


貴根はため息をつく。自分の好きな人から別な人を愛せなどと本来なら辛く苦しい。だから彼女は一計を案じた。


「ヒナタくんが、そんなに推すならさ……。スバルをもっと見てみるよ」

「おー! ……うん。いいね。それがいいと思うよ?」


「だって、ヒナタくんは私の守護天使だもん。きっといい道を示してくれてるんだもんね!」


天使……とはほど遠い。地獄帝国の公爵。

しかしそれを言うわけにいかない。


「連絡先!」

「ん?」


「交換しよ! いろいろ相談に乗ってよ!」

「うん! いいよ。」


「あは。やっと笑ってくれた……」


貴根の泣き笑いに心が動きそうになるがこれで良かったと自分のスマホを取り出す。

二人は連絡先を交換しあい、その日は別れた。

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