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第137話 帰国の懇願

当事者にも関わらず知らされていない。

みんなの手前苦笑するしかなかった。


「まぁ良かろう。もうすぐ18の誕生日であろう。人獣どもが結婚ができる歳である。しかし余と爵位が釣り合わんとおかしい。であるから爵位を授与する。こういう訳だ。得心が行ったか?」

「け、結婚?? 爵位〜。うーん。なにがなんだか」


明日香の方が陽太よりもずっとずっと結婚について考えていたようだった。

向こうは身分が高い。こうだと決めたらそうされてしまうだろう。

しかし、陽太には特別不快感はない。

結婚。明日香が求めるのであればそうなのだろうと納得しようとしたところで、前野はソファーベッドの上であぐらを書きながら陽太に笑顔を送った。


「おめでとー! 結婚式には呼んでね~。」

「軽! 軽いでしょー! 師匠」


そんな陽太へもネビロスは眉をひそめる。

さっそく教育されるのかと陽太は冷や汗をかいた。

そのネビロスの口が開く。


「コホン。叙勲は形式的なもので身内のみで行いますので礼儀作法はそれほど気にせずともよいです。まぁ我々の敵を討ち取っていないので高い爵位は差し上げられませんが……」


敵。悪魔の敵。

その時、陽太の頭に先の天使との決戦がフラッシュバックした。


「この前、能天使のグリエルって人、倒したけど……」


「なんと?」

「「「「え?」」」」


明日香の驚きの声に続いて、悪魔貴族たちも驚きの声をあげる。

まったく知らなかった天使討伐に異空間の空気が変わった。


「急に襲われて……。話し合っても分かってくれなくて。槍に刺されたけど、抜き返してその槍で倒さなくちゃならなくて。本当は不本意だったんだけど」


その陽太の言葉が終ると、ネビロスは靴のかかとを合わせて、ナベリウス侯爵の方へ体を向けた。

ナベリウスも直立不動の姿勢をとる。


「これ。ナベリウス卿。すぐに調べよ」

「はい。これグラシャラボラス卿。すぐに調べよ」


ナベリウスは姿勢をそのままにグラシャラボラスの方へ体を向け命令すると、グラシャラボラスは敬礼して上意を形式上受け取った。


「結局わたしですか。分りました」


そういいながらグラシャラボラスは、ポケットから携帯電話のようなものをだしてどこかに電話した。


「あ。モラクス卿? 能天使のグリエルというものはおりましょうか? はいはい。ふむ。了解しました~」


そう言って電話のようなものを切ると、上官であるナベリウス、ネビロス、明日香へと報告をした。


「どうやら、最近地上を内偵していた能天使らしいですが今探ってみましたら気配が消えているようです」


その報告を受けてネビロスはポンと手を叩く。


「どうやら閣下。本当のようです」

「うむ! すばらしい!」


「金十字章と公爵の位をささげ、領地はこの日本領の地下ということに致せばいかがでしょうか?」


公爵! 陽太の顔が急激にニヤける。

相手は悪魔。住まいは地獄。

しかし、爵位などと身分高そうな響きに、男の富貴を得る気持ちに火がついたのは当然のことであろう。


「男爵や子爵では結婚には弱いと思っていたのです。ヒナタ殿が我々の知らないうちに戦功を立ててくださってよかった。我々と人獣の橋渡し。公爵が適当でございましょう」

「うむ! では、ヒナタは我が一族である。足下たちも決して人獣出身などと蔑まぬ様」


ネビロスと明日香の威厳ある言葉に一連の貴族たちは、陽太に対して深々と頭を下げた。


「ははーーー」


ネビロスが合図をすると召し使いたちが、ゾロゾロと黒い貴族の服を陽太の身につけさせてくる。

前野もノリノリでそれを手伝った。


「これは?」

「へぇ。カッコイイ」


「杖はこれがイイよ」

「そーだね。宝石も少ないし」


漆黒の八角形の杖。王冠のような形は公爵を現すもの。それは落ち着いた輝きの宝石があしらわれており、他のものに比べて形の良く長さもあった。

召し使いが陽太に説明をする。


「この宝石に親指を当て、上にお引き抜きあそばせ」


それは持ち手の部分にある小さな黒い宝石。

陽太は言われるままに宝石に親指を当てて上へと引き抜く。

すると中からサーベルが出て来るので驚いた。


「おお! すっげぇ!」


声を上げると、グラシャラボラスが近づいてきて微笑む。


「わたくしの献上品ですよ。お選びいただき光栄です」

「へー! 超いいっす!」


サーベルを引き抜いて抜き身を晒すと美しさの中に攻撃性のあるこの仕込み杖を陽太は一発で気に入った。


「ふむ。では杖はそれで、服装も決まった。公爵なら冠も付けねばなるまい。ヒナタは黒が好きであるから、銀に黒のあしらいをつけて……」


と召使いにあれこれ指示をしている明日香のその後ろでは、悪魔貴族たちが集まってそれを見ていた。

そのネビロスにイポス伯爵が近づく。


「ネビロス様」

「ん? おお。そうか……」


明日香はそのやり取りが気になり振り向いて尋ねる。

ネビロスはいつになく優しそうな顔をしていた。


「どうした?」

「閣下に於きましては、長く城を開けすぎでございます。一時城に帰り、今回の式典の準備や来賓の招待状などしたため遊ばして……」


「ん?」

「ん? ではございません。いかがなされるつもりで?」


「ん~……。まぁ、陛下や殿下は手紙をしたためて報告し、我が国の主だったものだけでよいだろう」

「それはそれでよいでしょう。しかし国を空けすぎでしょう。一時帰国なされませ」


後ろで手を組みながらネビロスに対し相当に嫌そうな顔をする明日香。

ねっとりとした横目で睨むが、ネビロスに睨み返され虚しく視線をそらす。

そこへ、ナベリウス侯爵もイポス伯爵も参加してきた。


「そうですよ。大閣下。ネビロス公爵の言われる通り。いつまで外遊なされるおつもりで?」

「我々も寂しゅうございますぞ?」


「左様であるか」


明日香は背中を向けて陽太や悪魔貴族から離れ、しばらくするとクルリと振り返りニコリと笑った。


「いや、笑っても駄目です」

「ふん……」


そう笑ってごまかすというやつだ。

ネビロスに追い詰められ、明日香は陽太へ助けを求めるように視線を送った。


「いいじゃん。一時里帰りしてきなよ。みんなに元気な顔を見せてさ」


しかし陽太の返答は無残なものだった。とたんに悲しそうな顔をする明日香。

陽太にはその意味がわからなかった。

明日香は顔を伏せがちにネビロスに答える。


「分ったわい……」

「左様でございますか。では……」


ネビロスがそう言うと、悪魔貴族たちはそれぞれ床に吸い込まれるように消えてゆく。

赤黒い空間も消えて、陽太の部屋へと戻った。

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