第135話 あの子の守護天使
もうすぐ誕生日を控えたある日。
バイト先のエムドパンバーガー店。
その日は、明日香も前野も休みなのでバイトもそれほど忙しくない。
毎回どれだけ二人目当てのお客が多いのやら。
バイトも終わり、外に出てアーケードを歩いて帰る。
ふと思い出す。
そこは先日、貴根と並んで歩いた道。
また思い出す自分に対して頭を振る。
自分もフィアンセがいながら他の女を思ってしまう陣内と同じ浮気者なのかもしれないと。
その時、肩を叩かれて、振り返る。
「よ! やっぱり浅川くんだ」
歯切れの良い声。健康そうな顔。
流辺 昴であった。
今、貴根の想像をしていただけに、あまり会いたくなかった。
そしてこの男の好きな人の唇を奪った男としてはなおさらだ。
「今、帰り?」
「う、うん。バイト終わって……。スバルくんは?」
「うん。オレも政治家の海野さんの手伝いして今から帰る」
「そっか。じゃ、一緒に帰ろうか」
「そうだね。」
二人は並んで、流辺と貴根のアパートへ向かって歩く。
陽太には押し寄せる緊張感。
さて、なにを話せばいいのか。
と思った時、先に口を開いたのは流辺の方だった。
「浅川くんってさァ」
「うん?」
「彼女と同棲してるんでしょ?」
「う、うん。まぁ。でも表向きは親戚と同居」
「もともと、昔から知ってる人なんでしょ? そういう相手に告白って、どうするの?」
来た。これは間違いなく貴根への告白相談。
彼女を守る守護天使は流辺だと思っている陽太は、真剣に答えようとするも、考えてみれば自分だって告白をして明日香と共にいるわけではない。
守護天使の話をだそうと思ったが、知っていたらおかしい。
それに流辺はまだ告白してないのかと思った。
ゾンビ騒動終わったら言うんじゃなかったのか?
「貴根さんにまだ言ってないの?」
とたん、流辺は真っ赤な顔をした。
「う、うん。さ、最近忙しくて、さ」
「いいわけでしょ。そんなの。彼女待ってると思うよ? きっとサミシイ思いしてるんじゃない? そうやって忙しいって、たった二人の家族みたいなもんじゃないの?」
「え??」
「ん?」
「な、なんで知ってるの? オレとハナのこと……?」
しまった。二人のことは知らない設定。
流辺からすれば、陽太は貴根の顔見知り程度の存在。
なんとか取り繕わなくてはならない。
「いや、誰かから聞いてたかな?」
「そ、そうなんだ。そう。オレたち二人は昔っから一緒の家族みたいな感じなんだ。お互いに里親も亡くなっちゃって、たった二人なんだ」
「そうなんだ」
「でも、お互いに将来を誓い合ったわけじゃない。だから、生活基盤みたいなの作りたくて。でも日本も変えたくて」
「それで政治家を?」
「うん。今度、法案で高校卒業した者でも政治家へいける道が開いたから、海野青年部長のお手伝いをしてるんだ。」
「そうなんだね。テレビ見たよ」
「はは。恥ずかしい……」
「でも、それだったら貴根さんにちゃんと伝えた方がいいよ」
「そ、そうだね……」
「守るんでしょ? 彼女を」
「そうだ! ハナを守り続ける! ふふふふ」
やはり、流辺はその気持ちだった。
陽太は思った。あの時、手を出して最低男にならなくて良かったと。
「がんばって!」
「うん。はは。楽になった。ありがとう」
彼らのアパートに行く路地まで来た。
「じゃ。気を付けて」
「あ、うん。こっちなんだ。オレたちのアパート」
「そっか。また」
「うん。浅川くんも!」
二人は手を振りあって別れた。
にこやかに流辺は手を大きく振って背中を向ける。
陽太もその姿に嬉しくなった。身を引いた恋。そして託した相手は強い男なのだから。
「がんばれよ。貴根さんの守護天使!」
陽太も、自分のアパートへと足を向けた。
燃え上がってしまった貴根の恋心。
それは陽太を誘惑する。
しかし陽太にとっては前に恋した人。自分には愛する明日香がいる。
これはこれでピンチ。陽太よどうする?
次回「神の炎篇」。
ご期待下さい。




