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第132話 据え膳食わぬ

明日香の顔が思い浮かぶ。

必死に自分を正当化しようとする。

明日香は勝手気ままで我がままな女。


それに悪魔。

何千年も伴にいる仲間がいる。

家族で、妻で、夫となるべき者たち。


そんな明日香から決別し、自分は人間と結ばれた方がいい。



「余の仲間たちはそんな醜い嫉妬なぞせんぞ?」



そう嫉妬。

だが、ホントに敵わない。


明日香と同じような力を持つものたち。

何千年も時を同じくしているものたち。



陽太の胸の下の貴根。

彼女の指が陽太の胸の傷跡を触る。


そう。そこに明日香の心臓。

脈打つ命は明日香のもの。

明日香のお陰で自分はここに帰ってこれたのだ。

それがために明日香は眠るようになってしまった。

自分の心臓を分けることによって──。



「余の仲間たちはそんな醜く裏切ったりせんぞ?」



そう。たしかにその通りなのだ。



コツ、コツ、コツ、コツ。


アパートの外から靴音が聞こえた。

そして、この貴根の部屋のドアを「トン」とワンノックだけして足音は一番はじの部屋へ。


「スバル、帰って来たんだ」


彼女は、陽太の肩につかまりながらドアを一瞥する。

それは流辺 昴の合図。


貴根に向けて「ただいま」のノック。


二人は、たった二人の家族なのだ。

陽太なんて付け入るスキがないほどの。陽太はそれを感じ取った。

貴根の顔が流辺から逃げようと後ろめたさを消そうと陽太から目をそらす。


「スバルなんて……私が寂しいの知ってるくせに」


貴根の手が陽太の腕を強く握る感触。

二人は既に一糸まとわずの姿であった。

もう一歩で通じる寸前。

だが二人は息を飲むことすら忘れ震えていた。

もう動けない。すんでの所で留まったのだ。


陽太に襲いかかる最低だと言う思い。

流辺の気持ちを知っていながら。


彼は、彼女を守るために夢を叶えようとしてるんだ。

そんな彼を裏切ろうとするなんて。


明日香のことも、流辺のことも。



「ゴメン」


陽太は、ベッドから立ち上がって彼女から離れ、脱いでいたシャツを羽織り直した。


「え? 浅川くん?」

「オレ、最低だ……」


「そ、そんなことないよ。私、好きだよ? 浅川くんのこと」

「それは違うよ。さっきみたいな非日常的なことがおきて、お互いに気持ちが高ぶってるだけだ。オレたち、裏切っちゃいけない相手がいるだろ?」


「…………そっか」

「だから、こんなこともうしちゃダメだよな。オレたち二人とも悪魔になるところだった。だから天使に狙われたのかも」


そう言って、彼女に微笑んだ。彼女もそれに微笑み返す。


「んふ。だよね」


陽太はそのまま入り口のドアへ。

彼女は、毛布だけ纏っていそいそと見送りに来てくれた。


「帰るの?」

「うん……」


ホントに愛らしい表情を浮かべる貴根に残念な思いが押し寄せる。そして毛布の間から覗く、細い生足に未練が沸く。

だが、彼女が愛するのは自分ではないと、その思いを封じた。


「あのさ……」

「うん。なに?」


「オレがあんなことできること、人に言わないで欲しいんだ」

「そんな! 言わないよ。言うわけない。だって、私の守護天使だもん」


そう言って、彼女はまた顔を近づける。

陽太はもったいないと思いながら、その両肩を押さえて拒否をした。


「ありがとう。言わないでくれて。じゃ帰るよ」

「私の守護天使……」


「キミを本当に守れるのはオレじゃないよ」


そう言って陽太は、ドアを閉めた。




最後の自分のキザッたらしいセリフに鳥肌を立て、背中を書く。

そしてドアに振り返って、これでよかったとため息をついて明日香の待つアパートへと足を向けた。


だが陽太は気付いていなかった。

貴根の真の気持ちを。

始めは顔見知りの世間話だった。それが陽太も片親ということでの親近感。

そして天使との決戦。たくましい体で抱き守られている内に、貴根は陽太に心を奪われていた。


陽太が去った自室で、貴根はしばらくドアを見つめて、重ねられた唇を。触れられた体に熱い思いをたぎらせていた。

流辺を思い続けて来た気持ちが塗り替えられる。上書きされる。

浅川陽太へと──。

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