第131話 ムーンライト
さすがに陽太も慌ててしまったが、暴れたり抵抗はしなかった。
「え……ちょっと、何?」
「やっぱり」
貴根が指差したところにはグリエルに刺された槍の痕。
魔力で塞いでおいたが、少し穴があって周りは血の塊が出来ていた。
「うん……」
「痛く、ないの?」
「……痛い」
「ゴメンね? 私を守るために……」
「いや。貴根さんは悪くないよ。悪くなんか……」
「シャツの穴。縫うね? 全部脱いじゃってよ。血がついてるじゃん。シャワー浴びてきたら?」
「う、うん……」
陽太は、上半身の服を全て脱いで、彼女に渡した。
彼女はそれをにこやかに受け取ってシャワー室に案内する。
またもや陽太の心の声。
おいおい。ヒナタ。
やったなぁ!
憧れの! 貴根さんと!
ひょっとしたら今日、二人は……。
むふふふふ。
浅川くん、助けてくれてありがとう。
当たり前さ。キミのことが好きだから。
わたしも。
むふふふふ。
そしたら抱き寄せてキスするね。
いや、キスだけじゃないぞ。
シャワー浴びるなんてドラマみたいだ。
そしたら必然的にあれだよ。
うぉい! 遼太郎。
もうオレはドーテーを捨てるぞぉーーッ!
ウリィーーーッ!
全身をくまなく洗って、陽太は貴根が待つ部屋に戻る。
彼女は目を真ん丸くして、陽太の肉体美に食い入っていた。
「改めて、浅川くんってすっごいね!」
「あ。ゴメン。なんか、上に羽織るもんない?」
さすがに自分ひとり上半身裸はマズい。
だが貴根は近づいて来て胸に手を伸ばした。
「ねぇ。触ってもいい?」
「いいけど……」
貴根は陽太の胸板をさすったり、押したりして、はしゃぎだした。
「わーすごい! プロレスラーみたい!」
「そう?」
鍛え抜かれた陽太の体には不要な脂肪はなく完全に出来上がっている。貴根は遠慮なくその胸の中に顔を埋める。
陽太の頭の中に桃色の幸せの字が並ぶ。
「浅川くんってさぁ」
「な、なんだい?」
「私の、守護天使なの?」
「え? 守護天使……?」
「だって、守ってくれた。あれって天使だったよね? それとも堕天使なのかな? 金色に輝いてたけど、言ってる意味は全然わからなかったし、現実味が全然なかったけど……。でも、ホントにおきたことなんだよね。アイツから守ってくれたじゃん」
「う、うん……」
そして、貴根の指は、胸の中央の赤紫の傷口に伸びる。そこは明日香の、アスタロト大公の心臓が埋められている場所。
「これなに? 大きな傷痕」
「…………」
胸にすがる貴根。その両腕に手を添えている陽太。
二人はお互いの方を向き合っていた。
上半身裸の陽太は貴根の肩に手を添え、貴根は陽太の腰に。
時計からAM0時のアラーム。
どちらかが言うとなくベッドの方に。
彼女の髪の毛をなで顔を近づけた。
「……いいよ」
「うん……」




