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第13話 明日香誕生。

明日香の話の続きはこうだった。


「足下の腰ほどであろうか? 丁度、凹凸おうとつが人の形に見えたのであろう。ある時、どこぞの女児が余に向かって祈りを捧げてきたのだ。さて。たしか、父が無事に狩猟より帰ってくるようにとかそのような願いだったはずだ。それに付け加えて、獲物の足の肉が好きだとかそんなことだったと思う。その時だった。余が産まれたのは」

「へー」


「うむ。それからしばらくすると彼女の父は狩猟より帰って来たのだ。仲間と共に大きな獲物を手に入れてな。大好きな足の肉も」

「へー。アスカの力で?」


「まさか。なるべくしてなったのだ。余は別に何かしてやろうなどと思ってはいなかったのだ。しかし、彼女は父母をつれて貢物に少量の木の実と肉を携えてやってきたのだ」

「はいはい」


「それからというもの余はその地域のものに敬われた。何十年も何百年も経つと、白い石は神殿に飾られ、四季の祭りごとが行われ、多量の捧げもの。楽しい舞踊。余は何もしていないにも係わらず」

「そうだったんだ」


「あるとき、この土地に大洪水が起きた。彼の土地のものは余の怒りだと言って、またも多量の貢物だ。なるべくした自然災害だったのだがな? 人獣には心の拠り所が必要なのであろう。自分たちの信仰心が足りないから災害がおこった。だからもっと信仰しよう。そんな感じだったのだな」

「へー」


「それから、何千年もそんな調子が続いた。彼らは次第に増殖し、いろいろな場所に分裂していった。そして、その土地土地で余を祀るようになっていったのだ。しかし」

「しかし?」


「ある時、別の地方から兵馬がやって来た。バガバガと音を立ててのう。男は殺され、女は捉えられ、子供が奴隷として連れていかれた。余の神殿は潰され、白い石は破壊された。そして、征服者たちは余を信仰する者たちに、“こんなものは神ではない。我々が信仰する神を祈れ”とこう言ったのだ」

「そうなの!? ひどい奴らだなぁ!」


「うむ。そして余は徐々に信仰を失った。細々と祈ってくれるものはおったがな。それからかなりの歳月が経った。気付くと余は地獄で大公爵の戴冠たいかんを受けていた」

「え? それが」


「うむ。悪魔である余の始まりである」

「へぇ!」


「ま、今更どうでもいい話だ。はっはっはっは。こんなこと話したのは足下が初めてだ」


そういうことだった。

明日香が誕生したのは人間の信仰から。

そして長い間女神として人々の生活を見守っていたのだ。


何千人も何万人もの生活を。

広大な広い広い範囲の土地の生活を。


そして知らないうちに明日香の地域は戦争で負け、人間の都合によって悪魔になっていったのだった。


その話は30分ほどだった。

その間、街の様子はなんら変わりない。

しずかにタクシーや大型のトレーラーが夜の町を進んで行く。

多くの人々は眠っている。

人の営みはなんら変わることなく平常通りだった。


しかし、神であった明日香は人の都合によって地位を奪われていたのだ。


「ふふ。だが、こうしていられる。余は毎日が楽しいぞ?」


そう言って、明日香は地上の様子を楽しげに見ていた。


そう。明日香だってなんら変わりない。

昔通り人々の動きを楽しそうに見るのが趣味なのだ。


そして、慌てる陽太の姿を見るのも。

陽太は心の中で思った。


明日香はそうなっても楽しみながら生きてるんだなぁ。と。


話が終わった二人はまた空中に舞い上がった。

そのまま手をつないで空を飛び、二人のアパートの前へフワリと降り立った。


「どーだ。早かったであろう」

「うん。早かった。それに面白かった」


「そうか。では良かった」


得意満面な明日香。

それに陽太も笑みを返す。


もしも二人が同じ人間ならこんなに楽しくて嬉しいことはない。

だけど可愛いのに悪魔なのだ。

しかし、悪魔だからこそ強いし、死神の脅威からも救ってくれた。


なんにしろ明日香が来てくれて良かった。と思った。


陽太たちが部屋に入って時計を見ると既に深夜の1時35分。

その時、携帯に着信があった。


誰から? と画面を見ると陽太の母からだった。


「母さんだ。ゴメン少し静かにしてて」


と言うと明日香はニコリと笑った。


「もしもし? 母さん?」

「あ! ヒナタ。よかった。ゴメン寝てた?」


「いや。まだだよ。どうしたの?」

「ううん。何でも無い。ふふ。仕事中にヒナタのこと気になって。ようやく休憩になったから電話してみた。変わり、ない?」


「うん。ない。ないよ。大丈夫」


自分が今さっき死神の術で死のうとしていたことを思い出した。

そして明日香がすんでの所で救ってくれた。


ああ、母を。母を悲しませるところだった。


たった一人の肉親。

たった一人の家族。


そう思うと陽太の目から自然と涙があふれて来てしまった。


「そうだよね。ゴメン。夜遅くに。あれ? ヒナタ?」

「ヒグ。ヒグ」


「ん? アンタ、泣いてんの?」

「ヒ、ヒ、ヒ、ヒ」


「大丈夫?」

「うん。久々に母さんの声聞いたら。ゴメン」


背は高くなってもまだまだ子ども。それをたった一人にしている。母は胸が苦しくなった。今すぐに抱きしめたい親子の情。だが相手は電話の向こうだ。

母は涙をこらえて普段着を装った。

そうしないとどこまでも泣いてしまいそうで。


「そっか。ゴメンね? もうすぐだから。一緒に暮らせるの。頑張ってお金を貯めようね? 一人にしてゴメンね?」

「ううん。そんなことない。母さんが謝ることなんて」


「ねぇ。ヒナタくぅん。まだなのぉ。電話ぁ〜」


「ん?」


明日香の官能的な声がスマホの脇で。

陽太は涙もなにも吹っ飛んだ!


焦って明日香をギロリとにらんだ。


「なに? 誰かいるの?」

「いやぁ、テレビ」


「ねぇねぇ。いつまで待たせるつもりぃ?」


「アンタ」

「ゴメン。明日早いから寝るね。オヤスミナサイ」


「ちょ!」


プツッ。電話を切った。

そして返す刀で明日香をにらんだ。


明日香は腹を抱えて笑っていた。


「はっはっはっ。愉快愉快。またまたこの程度で狼狽しておる」


しかし、そんな様子の明日香の前で陽太は顔を伏して号泣した。


「いい加減にしてよぉ! 母さんとの電話の時はダメだよぉ!」


とやられて、さすがの明日香も面食らった。


「そーか。そーか。それはすまなかった。ついな。許せ」

「もう」


命は助けてもらったけど、このイタズラは寿命が縮む。

明日香は、豪華なイスに腰掛けまた本を読み出した。


陽太はパジャマに着替えて長い一日を思いながらベッドに入り込んだ。そして眠りにつく前に


「ねぇ、アスカ?」

「なんだ」


「この前、時間を止めたときに止まってないのが2体いるっていってたよね? 宮川先生がその一体なら、その類いのものがもう一体、学校内にいるってことだよね?」


その質問に明日香は不思議そうな顔をした。


「おいおい。先走りすぎだろ」

「ん? どういうこと?」


「あんなものは数じゃない。もっと余と魔力が同等なものだと言ったではないか」

「え!? ええ!!? だって一時期は首を斬られて」


「ん? はっはっはっは! 余は常に数秒先の未来が見えるのだ。あの者があの手を打ってくるのは知っておったのだぞ? だから演出してやったのだ。どーだ。面白かろう」

「え、え、え? 演出!?」


「そうだ。首が転げ落ちて血が噴き出す。ドッキリだ。ドッキリ。はっはっは! 愉快痛快。なんだその変な顔は! 労苦を忘れるわ!」


明日香にとっては脅威でも何でもなかったのだ。そして労苦を忘れるほどの面白い顔。そう言われてもう陽太は苦笑いを浮かべるしか出来ない。


「まーいい。そんなに気にするほどのこともなかろう」


気にするほどもないと言われても死神宮川だって普通の人間には対処できない。それなのに明日香と魔力が同等とかのが2体も学校の中にいるのだ。

普通の人間はどうすればいいんだろう。


そう不安を抱えながらも陽太は、いつものようにベッドに入り、目を閉じて眠るしかなかった。

大悪魔アスタロト大公が変じる明日香との共同生活を楽しむ陽太。

バイト先にいる美女とも仲良くなった。


しかし、平凡な日常に危機が迫る。

しかも明日香は不在。

どうする?陽太!


次回「ゾンビ篇」。

ご期待下さい。

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