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第128話 アスタロト浮上

「やっぱり、彼女だけ戻してもらえないかな?」

「無理だな。彼女からも魔力を感じる」


その言葉に陽太も貴根も動揺した。


「え? どうして……?」


貴根はグリエルに戸惑いながら問う。


「もしくは悪魔の子を宿してしまっているか? オマエの……」


そう言って陽太を睨むが身に覚えなどない。

それに子を宿す。貴根の……と思うと陽太は緊迫した状況にも関わらず顔を赤らめ興奮した。


「現在でなく、未来の話なのかもしれん。なんにしろ、この女は魔に魅入られているに違いない。ここで後顧の憂いを断つとしよう」


未来。未来の話──。

貴根が未来に魔に魅入られる。

または自分の子を宿す?

陽太の頭には疑問符がいっぱいだ。


だがそうもしていられなかった。

グリエルは握った槍をこちらへ向けると、陽太たちの周りを青白い炎が取り囲み、炎の檻となった。

それはゴウゴウと音を立てて迫って来る。


貴根は高熱と煙のためにコホコホと咳をした。

空気が薄くなるのだ。


どうしてもダメなのだ。話し合いができない。

このままでは自分は平気でも貴根が巻き添えになって死ぬ。


陽太は大きく息を吸い込んで彼女の唇から魔力を含んだ空気を押し入れた。


「……ん」


貴根は赤い顔をして陽太を見つめる。

優しい顔。頼り甲斐のある力。

それが微笑んで安心を与えてくれる。


「心配ない。きっとなんとかするよ」

「うん……!」


しかし、グリエルは手に握った槍を構え、陽太に向かって投げつけた!

それは脇腹を貫通する。

激痛だが、突き抜けた槍を見る。

それは貴根の体をわずかに逸れていた。

無事であることに安心し、槍を引き抜いてしまおうと掴むが力が入らない。

ダメなのだ。まるで力が出ない。


これが神の力。

悪魔を倒す力。

脱力がすごい。


「くそ」

「え?」


「ダメだ」

「浅川くん?」


「もう、お終い……だ。貴根さん、キミは逃げ……て」


陽太は、貴根を抱いたまま目を閉じた。

完全に力を失って気を失ったのだ。



そこは暗闇だった。光が無い。

陽太は辺りを見回していると、どこからか声が聞こえる。




「……オイ」




「……オイ」

「……え?」


「余と代われ。今では勝ち目があるまい」


暗闇の中に男の天使の姿のイメージのアスタロト大公がそこに感じられた。

召喚したときのあの感じ。


「ああ、アスタロト大公か」

「うむ。敵相手に甘っちょろい戦い方をしおって」


「……ゴメン」

「まぁいい。すぐに片付けてくれる」


マントを翻す音。陽太の前からエネルギーの塊のようなものが飛び上がる。

陽太の体の奥からドラゴンに股がってアスタロト大公が全身を支配するのを感じる。


ダメだ。

ダメだ。

ダメだ!


陽太は大きく叫んでいた。

興をそがれたといった感覚の、またアスタロト大公を目の前に感じる。


「ぬむ? 余を止めるとはどういうことだ」

「大天狗様に言われた。アスタロト大公の力を借りてはダメだって。……オレがやる。どうか、でないでくれ。アスタロト大公が出ると、彼女まで殺してしまいそうで」


「ふむ。そこにもう一人いるのか。たしかに人獣などどうでもいい。余が出れば近くにいるものは死ぬだろう」

「……やっぱり。いいよ、力は借りない」


「そうか。ではやってみよ。無理ならば強制的に代わる。よいな!」

「う、うん……」


「暫時待て」

「え?」


「そら」


暗闇から赤黒い魔力が自分の中に入ってくるのを感じた。


「甘っちょろい足下のことだ。ちゃんと魔力を操れんだろう。余の力を持って行け」

「うわっ! すごい力だ!」


「フン。さもあらん。では行け」

「はい!」


陽太の精神が肉体まで浮上する。

戦いの場所へ──。

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