第126話 能天使グリエル
「あれ? 8組の弓田くん?」
貴根の言葉で、陽太も名前と顔が一致した。
それは8組の弓田。
それが座っている二人の前に立ち、怖い顔で見下ろしていた。
「なに?」
「………………見つけた。大悪魔……ッ!」
弓田の言葉に陽太は身構える。
コイツはなんだ。コイツはなんだ。
陽太の思考が一つの答えに向かって進んで行く。
同じ学校の8組の生徒。つまりコイツが学校に2体いる明日香と同等の力を持つ──。
その時、弓田は地面にドサリと倒れる。
しかし、同じ場所に全身が金色で兜を被り、白銀の胸当てをし羽を持った男が立っていた。
貴根の動きは止まる。そして咄嗟にそれの前に跪いて祈った。
「ああ、天使様」
そう。それは世に言う天使の姿をしていたのだ。
まばゆい光をまとっている。
だが、その男は腰から炎を帯びた剣を引き抜いた。
「なに!?」
陽太は叫ぶ。そして跪いている貴根の上に被さって守った。
その天使から光りが八方に延びたかと思うと、そこは公園ではなく別の空間。暗い世界。
だが目の前の天使らしき男の光で美しく空間は輝いていた。
「私は能天使グリエル!」
そう名前を叫ぶと、剣を陽太に向けて振るってきた。
やはり陽太の敵。陽太は貴根を抱えて飛び上がったが、剣はわずかに貴根の髪の毛をかすった。
貴根の髪が炎で少しずつ焼けて行く。
彼女を守らなくては。
彼女を守れるのは特別な力を持った自分だけだ。
「きゃぁ!」
貴根は恐ろしくて叫んだが陽太はその炎を髪に触れ手で掴んで消し去った。
「え? ど、どうやって?」
貴根から当然の疑問。しかし陽太の顔は険しいまま。
その真剣かつ男らしい抱擁に貴根の顔は紅潮した。
「大丈夫。大丈夫だから……」
陽太の真剣な眼差しと言葉が貴根を安心させる。
だが能天使と名乗るグリエルは言葉を発せず、陽太の背中を剣で斬りつけた。
「ぐわ! ぎゃ!」
切り裂かれ、顔を歪めて絶叫。
貴根を守りながら地面をゴロゴロと転がって間合いを取るものの、グリエルの方は近づいてくる。
「き、斬られた! 大丈夫なの!?」
「……ああ、大丈夫……」
貴根もその傷口を押さえようと後ろに回るが、その傷口は陽太の魔力によって徐々に塞がって行く。
貴根も驚いたが、グリエルも感心して声を上げた。
「ほう!」
声が近い。陽太はすぐさま貴根を抱いて後ろに下がり距離をジリジリと下げる。そして能天使グリエルを睨みつけた。
「の、能天使だって? オレたちは悪魔じゃない。関係ないじゃないか!」
「この期に及んでウソをつけ。絶大なる魔力を感じる。しかもかなり大きいぞ!」
「勘違いだ。それに彼女は関係ない。オレはここに残る。話し合いをしよう。だから、彼女だけは解放してくれ」
「フン。悪魔はそうやっていつも我々を惑わす!」
グリエルの手から光の輪が二つ飛び出した。
それは早いスピードではないものの、変則的な動きで陽太に近づいてくる。
「こ、これも攻撃!? 当たっちゃまずい!」
陽太は貴根を抱きかかえたまま、ジャンプしてそれを避ける。そしてその身は空中に浮いたまま。
「見事な跳躍力。やはり、悪魔か」
胸に抱かれた貴根はただ陽太にすがり、顔を見つめるだけ。
そこにグリエルは、さらに光輪を数発放つ。
「くそ! こんなの避けられるかよ! やはり力を……ッ!」
「え?」
数発の光輪に貴根も驚く。
だが陽太が光輪にむかって手をかざすと、フゥっと消滅してゆく。
「ふぅ。これでいいのか」
「す、すごい。浅川くん、すごい」
「いやまぁ、これはそのぅ」
特別な力を知られたくはないが、今のままでは貴根を守ることが出来ない。歯切れの悪い言葉しか出て来なかった。
「ぬう! やはりそうではないか! この大うそつきめ!」
グリエルは声を荒げる。
天使の怒りだ。
「だって、こうしなきゃオレたち殺されちゃうでしょ! オレたちが誰に危害を加えたって言うんですか!」
「問答無用だ。神に逆らう不届きもの! 大人しく地の獄におればよいものを!」
グリエルはそう言って剣をつかみ、斬り掛かって来た。




