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第12話 空を飛んでるぅ

自分自身の体を抱え込み、ガチガチと震える陽太の姿を見て


「おいおい。そんなに恐れるな。まぁ、こやつはヒナタを殺そうとしたのであるから当然の報いだ」


しかし、大悪魔の魔力を見せつけられた。

あんな恐ろしい相手をいとも簡単に。

陽太の歯がカチカチと鳴って止まらない。


「で、で、で、でも、なんでオレなんか助けてくれたの?」


明日香は少し考えたが


「ふむ? まぁ、不思議ではあるが、人獣の言葉を借りれば、当り前ではないのか? ふふふ」


そんなふうに微笑む明日香を見て、なぜだか陽太の心にも余裕がでてきた。

いつもの明日香だ。


危ないから助けた。

困っているから助けた。


イタズラ好きの彼女がそんな気持ちを持ち合わせたことに陽太は嬉しくなった。


「それに足下がいなかったら人間の世界も楽しくなさそうだしな。まぁいい。しかし楽しいのう。人間界は。いつもこんなことが起こるのか?」

「まさか! 生まれて初めてだよ」


「そうか。レアケースというやつだな。はっはっは。愉快愉快」

「そうだよ」


そう。明日香がいるのなんてスーパーレアだ。

ありえない。

だが、今さっき行われた死神との対決。

ホントにこんなのもいるんだなと思った。


まぁ、大悪魔と一緒にいる時点で死神だろうが閻魔様だろうがいるんだろうが。


「では帰ろう。足下も睡眠をとらんといかんだろうからな」

「うん。帰ろう」


陽太は、屋上の入り口に向かおうとすると明日香は呼び止めた。


「これ、どこに行く」

「え? 俺たちの部屋だけど?」


「そうではない。徒歩かちにて帰るつもりか? 時間がかかって仕方あるまい。どうだ? 飛んで帰らんか?」

「え? 飛ぶ? 空中を?」


「そうだ。余の魔力があればチョイチョイだ」


そう言って、指をクルクルと回して見せた。

陽太の胸の中に沸き上がる夏休み始まる前の子供に似たワクワクとした感触!

魔法で空を飛べる。物凄く楽しそうだ。鳥のように自在に飛ぶのは誰しもが憧れることだ。


気付くと、陽太の体はフワリと宙に浮いていた。


「わ、わぁ~!」

「そうだ。自分で考えてみよ。自由に飛べるぞ?」


陽太は、自分の頭の中で思い描いた。

自分が自由に飛んでいる姿を。


学校をぬけて、大きな森の上に。


住宅街を越えて、ネオン街を見据えたビルの上。


「すげぇー!」


陽太は腕を広げて、鳥のように羽ばたいた。

心地よい風が吹き抜けてゆく。


「ふふ」

「なに? なにが面白いの?」


「そんなに手をパタパタせずとも。イメージは鳥か?」


見ると、明日香は手を振ってはいない。

なるほど。振らなくてもいいのかと思い明日香と同じ姿勢をとった。

両手を体に合わせてまっすぐに足に向けて伸ばす。

風を切って弾丸のように飛ぶ。とても気持ちがよかった。


明日香は恐ろしい存在かも知れない。しかし何でも出来る頼りになる存在。陽太は明日香を頼もしく思った。


突然、空中で急ブレーキがかかったようになった。

空中に立ったような形だった。

明日香は陽太を見据えて


「珍しく、足下もいることだ。今日は余のお気に入りの場所に連れて行ってやろう」


と言って、空中で陽太の手を引いた。

明日香の手のぬくもりを感じる。


そのままフワリと、市で一番高いビルの上に。

手は握ったまま。

明日香はそこから地上に向かって指さした。


「見よ。地上を。煌々(こうこう)と灯りがついて居る。人獣とは実に見事なものだな。あそこにおれば昼間の様相であろう。夜でも眠らぬ街。なんとも素晴らしい」

「そっか。たしかに働き過ぎだよね~」


「そうか。ふふん。働いておるのか。しかし、星のようにきらめていおるのぉ」

「うん」


「しかし、地上より程遠いこの場所は明るくはない。余が毎晩ここにいても誰も気づかれん」

「そーなんだ。毎晩ここにくるの?」


「そうだ。大抵はな。飽きたら地上を歩くとか、別の土地に行ってみるとか、なかなか良いものだぞ」

「いいなぁ。オレも行きたいなぁ」


「そうか。では、次の機会に連れて行ってやろう」

「そうか。ありがとう」


「ありがとう。ありがとう。ふふ。良い言葉だな」

「ふふ。うん」


明日香は感謝の言葉にいつものように笑っていた。

陽太はふと疑問に思っていたことを聞いてみた。


「どうして?」

「ん?」


「女神だったんだろ? なんで悪魔に」

「ん? 悪魔になった理由? クッ」


明日香は聞かれて一つだけ笑った。

いや、苦笑というものだった。


「余が望んで悪魔になったわけではない。人獣の都合であろう」


明日香はゆっくりと語り出した。

誰も知らないアスタロト誕生の話。

それは暗闇の中でのたった二人での打ち明け話だった。


「余が最初に産まれた。というか存在した時は、今よりはるか昔だ。人獣が文字も言葉もそれほど使えなかった頃。ある場所の辻沿いの路傍にあった白い大きな石であった」


陽太はその話にうなずいて耳を傾けた。

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