第117話 悪魔と戦う?
当然陣内はそれを見て戸惑う。ラティファの不思議な力を目の当たりにはしていたが、あの男もそんな力が使えることに動揺したのだ。
「え? え? え? 消えた? マジ? 悪魔って……。ウソだろ? ラティファがッ! ああクソ! ヒナタは!?」
陣内はすぐに携帯電話を取り出し、陽太に連絡。
陽太はすぐに気付いてのんきに電話をとった。
「はいもしもし~」
「あ! ヒナタ!? この前の……ナントカチャンピオンにラティファをさらわれたんだ! ちょっと来てくれ!」
大変に慌てた様子。陽太は、すぐそばの道を歩いていたので陣内に合流するには長い時間はかからなかった。
「なに? どうした? さらわれたってオマエと一緒にいるのに? チャンピオンって、桜庭一至のこと?」
「そ、そうなんだ。向こう側に悪魔がいて……。ラティファが言ってた。悪魔に魂売ったんでしょ? って」
「え? な、なんだって? 悪魔……。アスカと同じやつか……」
「え? なに? 良く聞こえない。もしもし」
「いやなんでもない」
とっさに明日香の名前を出してしまったが誤魔化した。
しかし悪魔。もしかして未だに正体不明の、学校にいる2体の明日香と同等の力を持つものの1体かもしれない。
陽太は恐ろしくなって身震いした。
なぜなら明日香は現在不在。
いつものズル休み。遊びに行ったか、バイトに行ったか分からない。自分の力では勝てないかも知れない。
電話を持ったまましばらく固まっていた。
「頼むよ! 駅裏のジャンボマンションに一緒に来てくれ!」
「……う、うん」
陣内の声に現実に引き戻される陽太。しかしその返答には自信が見えない。
その声を聞いて、陣内は声を震わせた。
「そ、そうだよね。殺されるかもしれないのに来れるわけないよね……。ゴメン。オレ、一人で行くよ」
そう言って、通話を切り駅の方向に体を向けて走り出した。
そのスピードは早い早い。さすが人類トップクラスの身体能力だ。
陽太は通話が切除されたスマホの画面をそのまま眺めていた。
「クソ。なにビビってんだよオレは。アラタだって勇気を出して助けに行くのに。オレの体にはアスカの血肉が分けられてるんだろ? 相手は悪魔。俺は大悪魔。……のはず」
陽太は陣内を追いかけて走り出す。その早いこと早いこと。
駅に向かう陣内の背中が見えてきたのだからやはり人類以上の力であろう。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
陽太は陣内の腕をつかむと、陣内は驚いて振り向いた。
「わ! お、追い付かれた。やっぱ早え!」
「ちょっとこっちへ。見られるとマズい」
陽太は陣内を連れて公園のトイレの個室に入る。狭い空間に二人。
「ちょ……。狭いよ」
陣内の不平は無視して、陽太は目を閉じラティファを探す。
神経を研ぎ澄ませ、レーダーのように魔力を捜すと感じる。
人とは違うもの。
それは白亜の巨大な魔力。
これがラティファ。
そばには、薄紫の魔力。こいつが敵。
しかしどうやら大したことなさそう。
ラティファの方が力的には優勢だ。
そばには魔力は感じられないが、陣内のような人類トップクラスの力を感じる。これが桜庭であろう。
先にあったときよりパワーにボリュームを感じたが、陽太にすれば一般人よりも多少強いという感覚だった。
これならいけるとわずかに微笑んだ。
「いくよ。ラティファの位置をキャッチした!」
「え? どういうこと?」
「瞬間移動だ!」
陽太が陣内の肩に触れる。これで陣内は陽太の持ち物の扱いとなる。瞬間移動に服が一緒についてくるのと同じことだ。
トイレの個室から陽太と陣内の姿は同時に消えた。




