第107話 テレビコーナー
明日香の悪戯に怯えながらようやく家電屋に到着。
陽太は嬉しそうにテレビ、炊飯器の値段を見てメモを取る。
「うぉー! 電子レンジもやすぃー!」
「ふむ。いろいろ売ってて面白いな」
明日香も興味深くあたりを見回す。
この空間にある異常な数の電化製品が面白いようだった。
「あれれ~~~」
陽太と後ろからの声に振り向いてみると、遼太郎と結だった。
仲良そうさそうに歩いている。
「おーい! お前らデート?」と陽太。
「オマエだってデートだろうが」と遼太郎。
「ちげーよ。生活用品の買い替え」
「それだってデートに違いねーだろ」
「ウチたちは、ウチの誕生日プレゼントの時計見に来た」と結。
「へぇ! 腕時計?」
「ああ。まーな」
「ペアウォッチかァ。いいなぁ」
「まーな……」
「へー。いいなぁ」
うらやましい。これぞデート。
この家電屋には腕時計のコーナーもある。
男性の大きめの腕時計に、女性の小さい腕時計。
いわゆるペアウォッチ。
陽太にはその憧れがあったが、余裕がない生活から捻出したくない気持ちが強い。
「オマエだって似たようなもんだろ?」
「ちげー。全然ちげー。もう、アスカのイタズラに振り回されっぱなし」
明日香は楽しそうに腕組みをしながら笑った。
「まぁ。ミッションクリアだな」
なにがミッションクリアかと思う陽太。どっと疲れが出てくる。
マッサージチェアを探したい気分だ。
「家電屋もなかなか面白いものであるな。余は少し見学して参る。ヒナタは自分の用件を済ませておくように」
偉そう。陽太から「ぬぅ」という声が漏れるが、明日香は気にせずに可愛らしい足取りで家電の壁の中に消えていった。
とりあえず休憩だ。
陽太たちはしばらく話し込み、テレビコーナーの前のベンチに座った。
テレビでは、議員の立候補できる年齢を下げると言うニュースがやっていた。
それを見て結が雑談を止めて指をさす。
「あ! スバル君じゃん!」
そう。またもや生徒会長の流辺昴だった。
前にも竹丸と一緒に見ていたテレビやっていた国会議員、与党の青年部長と一緒。
「けっこう、この海野健一郎と一緒にいるよね」
と言われてようやく政治的話題に暗い陽太にも名前が分かるほどの人物。
その海野がテレビの中から話し始めた。
「大事な法案が成立した思っています。国会も若返りが必要です。例えばこの流辺くんも18歳。高校を卒業すれば議員として立候補できるのです」
海野の声に感激する。
昴はちゃんと将来のビジョンがある。
その下に同級生がいるというのはなぜか誇らしい気分でもあった。
昴が将来、議員に立候補するかもしれない。いやその可能性が大きいと三人は思っていた。
そこで、テレビの中では昴自身にもマイクが向けられていた。
「そうですね。若くても自分の中に確固たる信念があるものは大勢おります。投票だけでなく、選挙に出れると言うことはいいことだと思います」
やはり、どうどうとしている。緊張など微塵も感じられない。
「では、将来は議員に?」
「ええ、チャンスがあれば出馬したいと思います」
すごい信念を感じられる。
大学に行くと言ってはいたが、彼は夢に向かって輝いている。
テレビの画面は次のコーナーに変わった。
遼太郎は陽太の方に顔を向けた。
「で? ヒナタは?」
「なに?」
「出馬すんの?」
「ブッ! するかよ。知らねーもん。政治なんて」
「進路は? やっぱお袋さんのために働くの?」
「いや、大学。体育大」
「はぁ? 体育大? オマエが?」
「うん。三峰先生がそうしろって」
「へぇ。天狗の三峰先生がねぇ」
「まぁ、なんとかなるっしょ」
「まぁ、ヒナタにはアスカさんもいるしなぁ」
「いえいえ、自力でやります。悪魔の力は借りません」
まぁ、すでに悪魔の力は宿ってるんだけどね。と心の中で舌を出した。




