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第104話 懲悪

陽太は少し明日香を懲らしめたい気分になった。

男たちがどうしたって明日香を襲うことなど出来ないだろう。

明日香は陽太がこの連中と戦う方へもって行きたいに違いない。同族が争う姿を見て楽しむ彼女の悪戯だ。

その手にはのらない。困ったら自分で簡単に脱出できるはずだ。


陽太は動かないことに決めた。


「あー! やんやん! ヒナタぁ! 助けてぇぇー!」


たしかにアウトローたちが言うように声はかわいいもんだと陽太は思った。

すると明日香のシャツは無残にも破られ、その胸があらわになってしまう。しかし明日香はまだ本性を出そうとはしなかった。


「キャー! エッエッエッエッ。助けてくださぁい」

「ダメだね。叫べないように自分のパンツでも咥えてな」


そう言うのはアウトローのリーダー格の男。

彼は明日香の下半身をまさぐり下着に手をかけた。

さすがの陽太も見ていられなくなった。


「やめろ」


陽太からの声。まるで地獄から響くような恐ろしい声だ。


「……はぁ?」


陽太の反抗を悟った肩を押さえていた男は、陽太の顔を殴りつける。


「う! 痛ぁ!」


男の叫び声。驚いて集団はこちらを向く。

それは明日香に悪戯しようとしていたものも同様であった。


「な、なんだ?」

「こ、こいつの顔。て、鉄?」


今度は別の男が厚底の靴で陽太の顔を蹴りつけてきた。

残酷なヤツだ。首でも曲がったら致命傷になってしまう。


しかし、陽太の顔に跳ね返って、後ろに倒れ込んでしまった。


つまり倒れるほど力入れて蹴ったのだ。普通なら大怪我してしまう。

陽太は深くため息をついて、この連中を懲らしめることに決めた。


陽太は心の中で念じる。


『外れろ』


その途端。結束バンドはプチりと切れて下に落ちた。


「もう、いいよ。もう充分だ」


そう言って、押さえつけられている肩に乗ってる手を払う。

アウトローたちは茫然自失。何が起こっているか分かっていない。


「ヒナタぁ」


明日香はもう一度弱々しく泣く演技をした。


「もう、キミたちもやめなよ。こんなことしちゃダメだろ。自分の姉妹とか母親とか将来自分の娘とかがこんな目にあったらヤダろ?」

「な、なんだコイツ……」


陽太が近づくと明日香を押さえつけている男たちも手を放して後ずさった。

残されたのは明日香の下半身を狙うリーダー格の男。


「オイオイ。オメーら」


そう言ってリーダー格の男が仲間たちを叱責しようとすると明日香はニコリと笑った。


「あー。良かった」


明日香は半身を起こして、自分の服を破った男の胸ぐらを掴み、そのまま片手で壁に投げつける。

宙を飛んだ男はドゴンとビル壁に音を立てて衝突し、地面にドサリと落ちてしまった。


「つ、強ぇ!」


集団は恐れて走って逃げだそうとするも陽太と明日香の声。


「ちょっと待って!」

「そーだよ。ちょっと待て」


ピタリと集団は足を止める。恐ろしい二人が追いかけてくるかもしれない。

全員がおそるおそる振り返ると、先ほどまで地面に寝そべっていたはずのいい女がにこやかに指示をする。


「ほら。仲間を助けてやって」

「は、はい……」


男たちは壁の下に倒れているリーダー格の男を起こして、立ち上がらせた。


「はい。じゃぁ、一列」


明日香が壁を指さすと、男たちは急いで壁側に並んだ。


「ホラ。ヒナタ」

「あ、う、うん。まぁ、今度から人の痛みを知って、こういうことをしないようにしてください」


ポカンとしている集団。


「分かった!?」


と明日香が言うと、思い切り頭を前後に振った。


「は、はい!」

「じゃぁ、行っていいよ。」


「は、はい」

「アーケード並んで歩くんじゃないよ!」


「は、はい!」


男たちは、急ぎ足で去って行った。


「はっはっはっは。愉快痛快である」

「なにがだよ。ふざけんな」


普段通りにしていれば起きない事件。

自分の特殊能力を使わなくてもいい生活。

しかし明日香は刺激を求める。それが毎回陽太のストレスとなる。

こんな久しぶり休日にストレスを貯めたくはなかった。


「まぁよいではないか。ヒマつぶしだ。さぁ、炊飯器を買いに行こう。本当にウマい米が炊けるのであろうな」

「そーゆー話だよ。テレビでもやってたし」


「そうか」


明日香が話の最中にパチンと指をならすと別な服に変わりあらわになった胸も元に戻ってしまった。


「どうだ? これもなかなかファッショナブルであろう」

「うん。かわいいね」


「うむ。素直でよろしい」


二人は気を取り直して駅の中央の通りを通って駅裏へ。

家電屋まであと少しだ。

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