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第1話 召喚しちゃった

挿絵(By みてみん)


このタイトルはシンG様より頂きました!

立ち上る紫色の煙。

その中心には黄金の冠をかぶった天使のような姿の角の生えた男。


「あわ。あわわわわわ……」


少年は驚き後ずさるがいけない。

この魔方陣から出てはいけない。

あの召喚の呪文はホンモノであった。

だからこそ目の前には、大悪魔アスタロト大公爵が現れたのだ。

彼は気品ある笑みを浮かべてこちらを見ている。


これがこの物語の始まり。

少年とアスタロト大公の出会いであった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



大優秀館だいゆうしゅうかん高等学校。

学力、体力に優れる生徒を全国から集め、優秀な人材を育成し、開校以来大臣や有名なスポーツ選手を排出して来た日本有数の高レベル高等学校。


登校時間。生徒たちは学校への道を整然と進んで行く。


そこに一人の少年がいた。


浅川あさかわ陽太ひなた。17歳。


彼は目の前を歩く者を見つめていた。


たか はな。同じく17歳。


生徒会副会長。

才女で美人。


彼は彼女に対し密かな恋心を抱いていた。


整った美麗な顔立ち。

こんな人間がいるのかと誰しもが思うだろう。

憧れだ。彼女のそばにいれたら、どんなにいいことだろう。


しかし、その隣にはいつも流辺るべ すばるという男。

彼の者はこの学校の生徒会長。


弁舌さわやかで、全校生徒の支持が厚く、行動力もある。


ここで彼に花咲いた恋心は自分には及びもつかないとしおれてしまう。


幼い頃、交通事故で父を亡くし、彼の母親は女手一つでこの学校に入学させた。

だがアパートの部屋にその母親はいない。

彼を育てるために住み込みで旅館で働いているのだ。


彼も、バイトをして生活を賄っている。


金もない。

将来のために、ナントカ頑張ってこの進学校に入学したはいいが、成績は中の下。

スポーツもそれほど得意ではない。

こんなダメダメな自分が恋などと甘っちょろいことを言っていてもいいのか?


と、自問自答で彼女を見つめるだけの日々だった。


「まぁ、無理だろうね」


そう声をかけて来たのは、彼の少ない友人の一人であるしば遼太郎りょうたろうだった。


「んなこたぁ分かってるよ」


言いたくはないが、陽太はうつむいてそう返すしかない。


「貴根さんには、いつも昴くんがくっついたまま、謎のお二人」

「貴根さんを見れるだけで幸せなんだよ。別に付き合いたいわけじゃぁない」


「そーはいっても、つのる思い。見つめる毎日。それでいいのかぁ?」

「だったらどうすりゃいいってんだよ」


「そこでだ!」


遼太郎は張り切り出した。

陽太にしてみれば「またはじまった」という思いだ。

遼太郎はいい友人だ。だが、ちとたちが悪い。


というのも、オカルトマニアなのだ。

目に見えない力でなんとかしようとする。


やりかたは好きではないが、一緒にいると面白い。


「なになに? なにを始めるの?」


と話しに加わって来たのは岡村おかむら ゆい

目を細めて見ればそこそこ美少女。

遼太郎が妖しいことをはじめると、すぐに現れる。


遼太郎は不適な笑みを浮かべ


「ふふ。今回は間違いないぞ! だが誰かに聞かれるとまずい。場所を移動しよう」


ということで、遼太郎を先頭に、陽太、結の三人でカーテンが閉め切られた誰もいない美術室へ入った。

結は美術部の部長でこの部屋に入るカギを持っていたのだ。


部屋に入ると遼太郎は自信ありげにカバンから、一枚のふるびた革素材のものを出してきた。

それは二つ折りになっていて、中には植物性の紙らしきモノになにやら文字が書かれていた。

それをもったいぶって机の上においたが、それがなんなのか、まったく分からなかった。


「これは?」


陽太が聞くと遼太郎は自信満々に威張った。


「これぞ! 写本も残されていないといわれる、悪魔を従える書。“ソロモンの鍵”です!」

「はァ?」


陽太は当然のように(いぶか)しげに応える。その反面、結は


「すごい! マジ!?」


とはしゃいでいた。


「マジ。これはほんの一部だけど解読すると、悪魔を呼び出す呪文が書いてある!」


いつものことだがこの遼太郎の自信はどこから来るものなのか?陽太は自分への納得が欲しかった。


「はぁ? こんなわけのわからない文字、解読できんの??」

「買ったお店で日本語訳をもらったんだけど」


「なんだそりゃ。信用できんの?」

「信用できるさ。ま、はじめていった骨とう品屋さんなんだけどね」


まったく信用できない。陽太の冷めた感情をよそに結は感激していた。


「すごい! マジすごい!」


なぜそう思ったのか? 陽太は結に問いただしたい思いを胸にしまった。

うさん臭さこの上ないが、うさん臭いのだから悪魔の()び出しも遊びで安心か?

陽太は仕方なく遼太郎のその遊びに付き合うことにした。


「ということで今夜道具を揃えて、この場所で呼び出してみない?」

「はぁ?」


夜。付き合いたくなくなった。なぜそんな時間に。

そう思う陽太だが、二人のテンションはマックスだった。


「やろう! やろう!」


「この書からは、地獄の大公アスタロトを呼び出せるらしい」

「アスタロトって、ソシャゲで聞いたことある。あんま使えないんだよね~」


ここで説明しておこう。

アスタロトはグリモアール「ゴエティア」において29番目に紹介されている悪魔だ。

地獄で広大な領土を持つ君主で、偉大なる大公爵。

ルシファーやベルゼブブと並ぶ三大悪魔の一人である。


「でも、大公ってことは、すごい爵位なんでしょ?」

「まーハイクラスだろうね。地獄界の」


結の質問に答える遼太郎。知識があるのかないのか。そんな生半可で大丈夫なのか? と陽太は思ったがそのように話しはまとまり、日付が変わって今は水曜日の夜中の0時。

誰もいない校舎の美術室に三人は忍び込んだ。


「魔法陣は、こう。完璧!」


遼太郎は、赤い石のようなもので魔法陣というものを書いた。

結も遼太郎の設計図に従ってロウソクを配置する。


「火まで使うのか。マジ大丈夫?」


一人、ネガティブなことをいう陽太に向かい二人は声を合わせて


「ヒナタのためだよ!」


と怒った。


「す、すいません」


陽太はやり方が間違っていても一生懸命なふたりに謝った。

準備が整い、遼太郎は魔術師の格好に着替えて二人に向かってこう言った。


「じゃ、二人とも魔法陣の中に入って!」


遼太郎を中心に魔法陣に入り込む二人。こんな深夜にロウソクの明かりでこんなことをしている自分に陽太は怖くなった。

何か話していないと気が休まらない。


「これ魔法陣からでたら、どうなんの?」

「悪魔がいるうちだと八つ裂きにされる」

「はぁ??」


「ま、遼太郎がいるから大丈夫でしょう」


“八つ裂き”の言葉に驚いていると結がフォローしたにはしたが

あまりにも雑。オカルトマニアがそんな雑でいいのか。と陽太が思うのも無理ないことだ。

それにも構わず遼太郎は手にメモをとりだし、なにやらムニャムニャと呪文をとなえだした。

その長い長い呪文を唱え終わると目の前の床を指差した!


「アスタロトを来たれ!!!」







暫時静寂。






「なにもこない。ね」


「途中、数か所噛んでしまったからかな?」


「うぉい!!」


結は笑い出した。


「アスタロト「を」来たれ! って言ってたもんね。カミカミすぎでしょ」

「まーいいや。今日はこの辺にしよう。次回はスラスラとよめるように練習してくる」


「そうね。明日も学校だしってもう今日か」


陽太はその二人のやり取りを見て


「え? 次回? 次回もやるの?」


と言うと、二人は大声で


「ヒナタのためだよ!」

「ゴメンナサイ」


また謝るしかなかった。

片付けが始まったがすぐに陽太が


「あれ? この魔法陣」

「そう。次回がもしあったらめんどくさいと思って、布の上に書いたんだ。取り外し自由!」


それも雑だった。絶対喚び出せるわけがないと陽太は確信した。

遼太郎の余りの適当さに、白目を剥きながらテキパキと片付けて、3人で一緒に校舎をでた。


遼太郎は道具一式を陽太に押し付けた。


「道具一式は、悪いけどヒナタ持ってて」

「はぁ?」


「ヒナタのためだよ!」

「そうでした」


行きは手ぶらだったが、帰りは魔法陣が書かれた布やらロウソクやら魔術師の衣裳やらその他の道具をもたされ、暗い夜道を歩いてアパートに到着。

こんな遊んでる姿を母親に見せられないなぁと罪悪感を持ちながら、魔法陣セットをベッドの上に置いた。


その喚び出しの道具をもう一度開いてみるか。そう思って、テーブルを片付け魔法陣を開いて、道具を漁ってみた。


「なんだアイツ。呪文のメモとか、契約の方法まで。ふーん。なるほどね、面白そうだなぁ」


魔法陣の布を床に敷き、ろうそくに火をつけ配置した。

魔法陣の中央に立ってメモを見ながらムニャムニャと呪文をとなえ、床を指差した。


「アスタロトよ! 来たれ!」










暫時静寂。







「はは。バカバカしい」






すると。地の底から這いあがるような


重いような軽いような


うるさいような静かなような


光るような暗いような



どちらかともいえない不思議な感覚。


音がしないのに騒がしい。


なにものかがやってくる感覚!!




「な、なんだ?」




と思うや否や、何か黒い影が陽太の周りをグルりと高速で回転した。

一陣の風に驚いて陽太は目を閉じて顔を覆った。


目を開けると。


小さいアパートの部屋に、竜のような生き物にまたがり、黄金の王冠をかぶった天使のような姿の巨大な生物が、頭を折り曲げながら天井に後頭部を付け、その巨大な目で陽太を見下ろしていた。

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