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時々、そして、ニマニマ。

作者: ざぶさん

時々、彼からメッセージが来るようになった。きっかけは先日の飲み事の席で、遠野物語の一節をなぞり東北に伝わる河童の話をしてからだ。学生時代に元来の妖怪好きが高じて民俗学を専攻していたことなども合わせて話した。なぜそうした話になってしまったのかは全く覚えていないけれど、彼はほうほうそれでと私の話を熱心に聞きいってくれた。


酒に酔ってしまった者の成れの果てだと思い許してほしい。決して悪気があったわけではないのだけど、ふと思っていたこと、掴み所のないところとかまるで妖怪のようです。つい、口にした。全く褒め言葉に聞こえませんよね。しまったと目を伏せると彼はコソコソ話をするように耳元で「や、バレていましたか、ヒトに化けるのはなかなかしんどいものです。このこと皆には内緒ですよ」すっかり冷えたお湯割りをぐびりと飲み干し、妖しげに微笑みを浮かべた。そのまま謝ることもできず、さらりと会がお開きになってしまった。さすがに気を悪くしただろうか、その夜はもやもやを抱えて寝付いた。


あくる日の朝、目を覚ますと携帯電話にメッセージの通知があった。「民俗学のお話し面白うございました。お勧めの著書などありましたら今度教えてください」ドギマギした。私的な内容のものは初めてだったから。文字を打っては消して、結局、先日は失礼しました。遠野物語でしたら学生時代に教科書として使っていたものが手元にあります。今度お持ちしましょうか。何とも味気ない返事を送った。もう少し可愛げある方が良かっただろうか、嬉しさや恥ずかしさと少しの後悔を抱え、布団の上をゴロゴロと転げた。


以来、私が本を貸して、しばらく経つと彼からいくつか感想を述べたメッセージが届く。そして私はまた別の本を貸す。そうしたやりとりが続いている。人からすればどうとも思わないようなことかもしれない。それでも、私にとっては心躍ることなのだ。携帯電話を眺めてニマニマとする私も、側から見ればわりと怪しく映るのだろう。

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