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貴族やめます庶民になります エトセトラ  作者: 妃 大和
エイダとマスターのおいしい関係

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10/11

 エイダは『めんどり亭』で唯一人の結婚していないウエイトレスである。王都から馬車で2日はかかる実家からは、早く結婚するよう手紙が届くが彼女自身にその気はまだなかった。エイダくらいの年なら、実家のある田舎ではとっくに結婚している。けれども王都では同じくらいの年齢で結婚していない者はたくさんいるのだ。だから全然焦ってはいなかった。

 エイダは腰まである長い黒髪にキリッとした瞳が凜々しい美人である。手足は長く、スタイルだって抜群である。実際の年齢より年上に見られることが多いエイダだが、そんな彼女がきびきびと働いていれば自然と目を引く。

 めんどり亭に食事に来た男共はエイダに声をかけて食事やらデートに誘うのだが、彼女はそれらをみなかわしていた。


「またまたそんなこと言って、冗談にお付き合いするほど私は暇じゃないのよ」


 エイダがあっけらかんと断れば、常連で顔なじみなせいか殆どの男は「また誘うよ」と答えるの繰り返しだった。

 しつこくせまる男がいれば、マスターが睨みを利かして追っ払ってしまう。腕自慢の町を守る衛士であっても、美味い食事を作るマスターには敵わないのだった。


 王都では単なる美人で通るエイダだが、実家のある田舎の村ではやや華やかな容姿は噂のタネとなってばかりだった。エイダ自身は真面目で正義感が少々強いだけなのに、「すぐに口を出してくる」「男の気を引こうとしている」などと言われ、どう振る舞えば良いのか分からないことが多々あった。

 幼なじみの青年がエイダに好意を寄せていたが、青年を好きな少女がいたことで三角関係となってしまった。エイダ自身は青年を嫌いではなかったが、小さな村の噂の中ではエイダが思い合う2人を引き裂く悪人となっていた。家族は味方でありエイダが何もしていないという真実を知っていたが、エイダ自身は否定するのも面倒で、気が重く家にいる事が多くなり、たまに外へ出れば村人の視線にさらされ、ついに一大決心のもと王都へ出て来たのだった。

 人間不信になりかけの無愛想な自分には接客業は出来ないと思っていたエイダだが、王都の水が合ったのか元々素質があったのか、今では立派にウェイトレスとして働いている。

 ただ、また誰かと人間関係のゴタゴタを起こすかもしれないと思うと、男性と二人きりで出かける気にはならないエイダだった。

 過剰な色気を求められないめんどり亭で働けたことはとても幸運だった。自分自身を認められたことでエイダは自分らしさを取り戻していた。



「エイダ、もうあがっていいぞ。あと、これ持って行け」


 カウンターの中から大鍋をかき混ぜるマスターが声をかけた。顎で指し示した先には封筒が1通置いてある。

 エイダは封筒の差出人を確認すると、疲れを忘れて思わず微笑んだ。

 今日エイダは早番から遅番までぶっ通しで働いている。ウェイトレス仲間の一人の子供が急に高熱を出し、代わりにシフトに入ったからだ。エイダ以外のウェイトレスは皆すでに結婚して子供がいる。彼女達がやむを得ず休む時は独り身のエイダが代わりに働くことが多い。ちゃんと代わりに出た分は他の日に休みをもらうか、賃金としてもらうのでエイダに損はないのだった。


「それじゃあ、お先にぃ。そうだ、マスター。今日も昼ご飯と夕ご飯をちゃんと食べていないでしょ。忙しくたって休憩はちゃんととらなくちゃダメよ。早く上がってね」

「ああ」

「いつも言うけど、フライパン振りながら味見しているのは、食事とは違うんだからね」


 エイダは余計な事を話さないマスターの良き理解者であり、話し相手でもあった。エイダより10歳ほど年上のマスターは、めんどり亭の経営者であり、メインコックである。仕入れもするし、お金の管理もするし、宿の事まで何でもする有能な人物であった。

 マスターの気配りが程よく、料理はボリュームあって美味いめんどり亭は、誰にとっても居心地の良い場所となっている。そこに集まる従業員はもちろんのこと、衛士詰め所前という場所柄か気の良い客ばかりだった。

 そんなめんどり亭でエイダが働き始めてすでに3年が過ぎ、マスターとお互い言いたいことを多少は言えるくらいの関係となっている。まあ、専ら色々言うのはエイダであったが。

 ウェイトレス仲間達は妻であり母であるので、エイダとは少々違う立場である。お互いに理解できるし会話も弾むが、結婚前のように一緒に連れ立って出掛けたり遊びに行くことは少々難しかった。


「アーシャちゃん、今日もクールデンで元気にしているかなぁ。最近遊んでいないのよね。たまにはこっちから遊びに行こうかしらね。うん、それが良いわ」


 一つにまとめた黒髪をほどき、エイダは赤いチェックのストールを羽織り呟いた。

 マスターから渡された封筒の差出人はアーシャだった。少なくとも一月に一度はクールデンから王都に出て来るのだが、アーシャは時々手紙をくれるのだった。エイダはお土産は食べ物にしようと思った。美味しいものを食べる時のアーシャの笑顔を思い出し、エイダの顔もほころぶのだった。

 月明かりの照らす道で、両脇に並ぶ店からもれる喧騒を聞きながら歩くエイダの足取りはとても軽かった。

いよいよ本編「貴族やめます庶民になります」の発売日3月10日が近づいてまいりました。表紙素敵です。アーシャの眼が金茶色から青色へと変わって、たいへん可愛らしくなっております。こちらもよろしくお願いいたします。

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