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リールの歌声を

作者: 五十嵐 雪華

「ただいま~っと…」


誰もいない部屋に向かって、つい声を出す。今日から両親は1週間、念願だった海外旅行でいない。姉は独り暮らししているし、弟は部活の合宿で、またまた1週間程いない。


「夏休み、パラダイスだな~これ!」


コンビニで買い込んできたお菓子やジュースや新作のゲーム等、居間のテーブルに並べ、にや~っと人様には見せられない笑みを浮かべる。1週間、誰にも邪魔されない自由が待っている。それを考えるだけで俺は鼻歌を歌っていた。

まさか、ゲームのパッケージさえ開けないで1週間を終えるとも知らずに。



外はじりじりと暑い昼下がりだ、蝉の声もこれでもかと聞こえるが、部屋の中は空調によって過ごしやすい適温である。まずは、快適な環境作りだ。そう思い立った俺は、自分の部屋から必要なものをせっせと運び、ノートパソコンやゲーム機、読みかけの本、クッション等々居間へ積み上げていった。1週間分、食費として渡された金もあり、うはうはである。だが、これは秘密だがねこばばする予定で、食事は適当に自炊しようと思って材料も日持ちしそうなものを低予算で用意してある。まさに完璧。明日は友人も遊びに来る予定だ。今日はまず一人を謳歌しようと思っている。


床に座り、ローテーブルに置いたノートパソコンを立ち上げた。


「あれ…?っかしーな。」


とつぶやいた俺が見ているものはスイッチを押したのに立ち上がらないデスクトップである。コンセントよーし、と俺が指さし呼称して壁の方へ振り返ると、窓の外が暗かった。


「…は?」


否、正しく言うと違う。外が暗いのではない。単色デスクトップみたいに景色がないのだ。意味がわからず、おそるおそる窓に近づく。何もみえない。塗りつぶしたのか?この窓ガラスは不透明絵具かスプレーでも塗りたくったのだろうか…。


ピンポ~~ン


玄関のチャイムが部屋に響いた。なんだかわからないが、人が訪ねてきたらしい。とりあえず確認しようと思い、すぐ電話が出来るように持ちかまえ、近くにあったリモコンをにぎり玄関へ向かった。俺は震える声で声をかけた。


「え~~…どちらさまですか?」


澄んだ女の子の声が聞こえた。が、なにを言っているのかまで聞き取れない。あまり大きい声ではなく、とぎれとぎれである。少し気になった俺はつい誘惑に勝てず、チェーンをつけたまま玄関の戸をそっと開けた。…だってすごい好みの声なんだよ。自分に無駄な言い訳を思いつつ。


少し離れた門構えのところに青い目青い髪の美少女が今にも倒れそうな様子で寄りかかっていた。

家の敷地の外は確かに墨で塗りつぶしたかのような世界が広がっていたが、俺が今一番気になってしまったのは、その少女だった。


「大丈夫か!?おい、てか、にほん…地球人じゃねえええええ!!よな?」


絶賛錯乱中だ。バンっと扉をあけて近づいていく、少女の体がふらっと揺れ地面へ倒れていく。あわてて走り、なんとか受け止めた。


「おい、聞こえるか?どうしたんだ??」


顔が見えるように上向きにし声をかけてみるが、うっすらと目を開けた後、意識を失ったのか反応がなくなってしまった。まわりを見渡したが、ここに放っておくわけにもいかず、家に入れることにした。意識のない人は重いというが、まさにそう感じだ。運んでいる途中、青い長い髪が手をくすぐった。


行儀悪く、足で開いていた玄関を閉める。バタンとしまった後、嘘のように日常の音が戻ってきた。その違いに俺は今気がついた。蝉の声が聞こえる。空調の音と、外を通ったであろう自動車の音。一瞬にして音がよみがえったのだ。少女を抱えたまま、もう一度バンっと玄関を開けた。外はいつもの近所の街並みが見えた。

頭の中は疑問でいっぱいだったか、最優先は今だ腕の中にいる少女だろう。と俺の中で瞬時に答えが出て家の中へと入った。

居間のソファへと少女を寝かせ、タオルケットをかけた。バタバタと走り回り、体温計や救急箱など必要かもしれないと思い、用意した。使えるのかもわからないが、あればないよりましだろうそんな心境だ。


居間へもどって様子を窺ってみる。なんだかすやすや気持ちよさそうに眠っているようにも見える。額に手をあててみるが熱がある感じでもない。むにゃむにゃ言って寝がえりを打った。顔色も明らかに先ほどよりも俺の見間違いでなければよさそうだ。なんだかわからないが、良かった。俺は知れず入っていた肩の力を抜いた。


そうなると気になるのは少女自体だ。見た感じ高校生くらいの年齢だろうか、服装はこの格好で歩いていたらコスプレだと100%思われるような、若干SFのようなデザインだ。長い青い髪が地毛であることを、青い睫毛が教えてくれる。先ほどの真っ青な瞳が開かないかなっと俺はじっとみつめていた。



ひとまず、無理やり起こすのもかわいそうなので自然に目が覚めるまで少し待ってみることにした。若干遅くなった昼飯を食べようと思い、買ってあったレトルトカレーを温めた。


チン


とりだして、米の上にカレーをかける。スパイシーな香りが鼻をくすぐる。とたんにお腹がぐ~と鳴る。


「いただきまーす。」


と小声でつぶやきスプーンを持った時視線を感じた。顔をあげてみると目の前で少女がカレーを覗き込んでいた。


「うおっ」


びくりと俺は体を揺らす。少女は顔をあげて俺に向かって


「:*f@^aβkw@f「:kωk‘」


とのたまった。


「はい?」


思わず声が出た。


「:*f@^aβkw@…」


やべえ、何言っているのか全っ然わかんねー。どうしよ。俺がまたパニックに陥っていると、


ぐ~~


少女のお腹が鳴った。答えはそこにあった。

少女の分も用意して、二人でテーブルに付く。カレーは初めて見る人は躊躇するようだ。俺とカレーを交互にちらりとみている。


「大丈夫だよ。美味いんだ、これ。」


そう言って俺は先に食べて見せた。うん美味い。腹が減っていた俺はそのままがつがつと食べ始めた。それを見ていた少女も意を決したのか、スプーンで少しだけすくって口に入れた。少女は目を見開き今度はもう少し多めにすくって食べた。どうやら食べられたらしい。パクパクと食べ始めた。


「ふ~美味かったー。このカレーはやっぱうめえな!」


麦茶を飲みほして俺は人心地ついた。


「デザートにプリンも食べるか。」


小皿を二つ用意してぷりんを皿にぷちんと逆さにだした。テーブルに戻り、一皿少女の方へ差し出す。


「これも食べられるか?」


少女もようやくカレーを食べ終わろうとしていた。近づいてきた皿に興味津々である。テーブルに置いて俺も自分のプリンを食べ始めた。また、不思議そうな顔をしてスプーンでプリンをつんつんとつついている。そのたびにプリンがぷるぷるとふるえる。それが楽しいのか何度もつついている。


「まあ、騙されたと思って食べてみろよ。」


少女は一度こっちを見て首をかしげ、少しすくって口の中にいれた。


「+@‘}*「:kωk‘」


目をキラキラさせてもう一度こっちを見てから、プリンを大事そうにゆっくり味わって食べた。

お互いお腹も満たされ、ようやく落ち着いた。ここにきて意思疎通を図ろうという考えにたどり着いた。


「俺は藤堂とうどう かい。桧だ、わかるか?」


自分を指さして名前を連呼した。そして少女をさす。


「…カイ…「:kωk‘……リー〈ΓΔΛ‘ Ψκйα」


「え、なに?もう一回」


人差し指を立ててもう一回と言う。


「リールΓΔΛ‘ Ψκйα」


最初だけ聞き取れた。


「リール…?」


少女はにこっと笑った。


「カイ リールΓΔΛ‘ Ψκйα 「:kωk‘  リール」


どうやらリールでいいと言ってくれてるようだ。


ふと俺の電話が鳴った。着信メロディーはランダムになっているが、女性アーティストのしっとりした曲が流れてきた。


「おっと、友達からだ。」


メールチェックを始めると、リールがふいに歌いだした。


「LaLa~La~~~~」


先ほどの着信メロディーだった。まさに天から降ってきたような歌声であった。いい声だと思っていたが歌となると心に響くものが全く違った。俺の心臓がはねた。


これが俺とリールの出会いだった。食べ物によってリールは警戒心を早い段階でといて、異世界人らしい破天荒さを繰り広げることとなる。次の日に友人が訪ねてきたり、めずらしく姉が帰ってきたり、それに振り回されながらも、俺の長くて短い1週間が始まろうとしていた。


そして俺はリールでいっぱいになる。

もう少し1週間のエピソードを盛り込もうとしましたが、今回はとりあえずここまでです。続きを書くかは神のみぞ知るであります。(かかないであります。誤字あったらつらたん。

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