06
大きな体育館のような建物と、その周りに無数の出店が軒を連ね、祭りのごとくにぎわっている。
まずは、添乗員さんお勧めのアイスクリームだ。建物の中に入ると、いくつもの出店が見受けられ、特に人気のある店には行列ができている。アイスクリーム屋といっても、しぼり出しの機械と大バケツと人が一人か二人だけの、店とも呼びかねる代物だが、そのほとんどに十人前後の列ができている。
その中でも、少しでも短そうなのを選び、私は後についた。
じわり、じわりと列は前進する。
いよいよあと一人で私の晩、と言う時、突然、機械がガラガラと大きな音を立てた。下に構えていたコーンの上に、ほとんど水となったアイスが発作的に落ちると、そのまま機械は止まってしまった。
アイスが終わってしまったのだ。
ここですかさず新しいのを足すのが日本だが、ソ連は違う。腕のぶっといアイス屋のおばちゃんたちは、急に威勢よく道具を片付け始めた。
「え、なに? なに?」
私は思わず声をあげる。おばちゃんの一人が私の顔を見て、にこりともせずに
「ニェ・ラボータエト」
そう言って機械を指さした。
ああ、このことば。ロシア語でまずイヤでも覚えるのが、これだ。
直訳すると「動かない。働かない」。つまり私たちが動いてほしい、と切に願うものが活動を停止した時に、まず聞くことばだった。
トイレの水洗、テレビ、チケットカウンター、売店などで、何度これを聞いて頭にガツンと一発喰らわされただろう。
ここでついに、習ったばかりのロシア語登場。せっかくだから使わねば。
「パチェムー(なんで)?」
あまりにも哀れっぽかったのか、発音がヘン過ぎたのか、おばちゃんたちの表情が和んだ。隣の売店の人に「この子は疲れてクタクタらしいよ」と笑っている。
同情は集めたものの、「にぇらぼーたえと」の厚い壁にはとうていかなうはずもなかった。私はすごすごと引き下がる。
そう言えば、他の行列でも同じように「売り切れ」や「機械の不調」で品物が終わってしまい、人々が散っていくのをよく見たが、私のように未練たらたらな様子のロシア人はあまりいない。やはり、日頃から「にぇらぼーたえと」に慣れ親しんでいるせいだろうか。