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03

 そう言えば、モスクワの公営市場では、物不足と言われる割に多くの食糧品、特に食肉を見たが、そこでは売り子のおばさんが

「さあさあさあさあ」

 と言うように、素手で肉のかたまりを叩いていた。が、次の瞬間、なんとその手でお札を受け取っていたのだ。そしてまた肉をペシペシ叩く。見ていた限りでは、その肉には買い手はつかないようだった。

 市場の食糧品自体、値が高いということもあるかもしれないが、あのおばさんの素手攻撃にもやはり一因があるのでは、とふと疑ってしまった。


 他にも、流通事情の悪さ、働く人々の意識の低さなど、ソ連には肉を腐らせる原因はいくつか見受けられる。

 ソ連のあるガイドさんから聞いたが、何トンもの肉が、運ぶトラックがないばかりに倉庫の中でダメになってしまう、ということも日常茶飯事らしい。

 

 ソ連の経済状況と食糧事情に思いをはせてしばし現実を忘れていた私は、再び鼻をつく匂いで我に返った。

 いつの間にか、半分溶けかかったアイスクリームが目の前に出されていた。しかし、肉は気をきかせてかまだ下げられていない。

 早くアイスに手をつけたいが、日頃の習い「出されたものは残さず食べる」が災いした。肉が片付かないとどうも落ちつかない。


 私は勇気をふりしぼり、ほんの小さなひときれを外科手術のような巧みさで切り取って口に持って行った。


 つん、とアンモニア臭が鼻をついた。


 さんざ迷った末に私は肉を捨て、少しのためらいもなくアイスクリームに舌つづみを打った。



 アイスはだいたいにおいて当たり外れがなく、溶けやすいのが難点だが逆にさっぱりした味わいだった。

 だが、何と言ってもくだもの、特に梨の美味しさにかなうものはなかった。

 汁けが多くて歯ざわりもよい梨は、花のような香りが漂い、公園など屋外で食べていると小さな蜂が香りにつられて寄ってくる程だった。

 しかし、梨でも実はひどい目にあっていた。


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