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02


 まず、十日間研修で泊っていたモスクワのホテル・セ○○○○○○、ここの食事がすごかった。


 決して粗末というわけではない。世界各国から、主に勉強や研修のためにモスクワを訪れた人々がお客であるから、量も申し分ない。


 しかし、慣れていないということは哀しい。


 ナイフを当てて押すと、とめどもなく油がしみ出し皿からあふれんばかりになるカツレツ、ミシン油の匂いのドレッシングにどっぷりひたった生ピーマン、切ってから何ヶ月もたっているような化石まがいのパン、得体の知れない食べ物が、週替わりで次から次へと私たちの前に現れた。


 また、モスクワから二百キロばかり離れた美しい街ウラジミールのレストランでは、街の美しさからはとうてい想像できないようなすさまじい匂いの肉がステーキとして登場した。


 鼻も曲がるかと思われる腐敗臭に耐えきれず、おそるおそる助けを求めて私はあたりを見回す。


 たまたまその日、元ツアーを離れてひとりで他のミニ・ツアーに入っていたため、周りはドイツやアメリカなどからの観光客ばかりだった。言葉ははっきりと聞き取れなかったが顔つきからして、他の人々もこのステーキをもてあまし気味な様子だった。


 だが驚いたことに、ほとんどの人は空腹のためか、他メニューが案外美味しくて安心したせいか、少し経つと、ごく普通の様子で肉に手をつけ出した。


 私の隣に座ったアメリカ人のおじさんは、こちらを見ると

「肉を食べてないね。こりゃまずい。やめた方がいい。きっとカタコンベにあった馬の肉だよ、冗談だよハハハ」 

 言いたいことを言うと、さっさと自分の分を平らげている。


 私も勇気を出して、肉に手をつけた。


 まず、裏返す。


 黒ずんだ肉の表面に、黄色がかった脂のようなものが点々とついている、いや、脂というよりはむしろ……


 私がその時鮮やかに思い出していたのは、小学校の保健新聞でみた『黄色ブドウ球菌のコロニー』だった。

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