第6話「ママ。ナオコなら私よ」
新幹線の自由席は案外空いていて、外の流れる景色をなんとなく眺めていたけど上の空だった。
どうも景色が非日常から離れ、緑がみえてくると自分はどこに向かっているのだろうかとわからなくなる。
向かっているのはナオコがいるかもしれない、または手がかりがあるかもの病院なんだけど
僕にとってナオコとはなんなんだろう。 ただの隣の席の女子生徒にすぎないはずだった。
ナオコは弄ばれていた。
それでいて、飼い慣らしていた。
教頭先生に。
どっちが悪かはわからない。
ただ、リストカットの跡が思い出され、父に付けられたと思い出し、・・・かわいそうと思ってしまった
「わたしを大切とか言ってたけど、ホントは好きなんでしょ? わたしのこと」
ナオコの言葉。
その問いに僕は答えられていない。
好きなのだろう。でも好きとはなんだろう。
僕はただ、かわいそうと思うことが本心ではないかと思う。
新幹線が止まり、病院までは歩いてだいたい10分らしい。
田舎道が広がってたと思ったのにいつの間にか都会になっていて、人の多さに圧倒されていた。
ナオコがいるのだろうか。
足が震えている。
必死で動かそうとすると、宙に浮いてるような妙な感覚。
こわい・・・。
病院に付き、お見舞いというと特に疑われる(なにを疑うかというもの疑問だけど・・・)こともなく、朝倉の苗字の病室がどこか教えてくれた。
あんな人にもお見舞いくるんだ・・・。
ボソッと看護師の女性が言ったような・・・ 足取りは重りがついたように重くなってた。
病室には40歳くらいの女性。
だけど身体は老人のように細く、白髪混じりで弱々しかった。
だけど、僕と視線があるとぐわっと見開いて・・・
「おや、ナオコかいっ! もっと顔を寄せてきてっ!」
近寄るといい子いい子と頬に手をやり、頬ずりし、ナオコきれいになったねかわいいねって・・・。
郵便物の中身を思い出す。
便箋いっぱいにナオコに逢いたいと書き続けていた。
そればかりの稚拙な、大人が書いたとは思えない・・・。
でも、なんでナオコって・・・僕のことを・・・?
見慣れた制服姿が現れた。
「ママ。ナオコなら私よ」
長い黒髪の落ち着いた、大人びた口調の静かで泣きそうになるトーン。
まさか・・・。
「昼飯持ってきたよ。汁物ばかりだけどしっかり食べて元気だして・・・ね?」
「おぉ、ナオコは優しいねぇっ!」
お母さんらしき人物はさらに狂気な笑みを浮かべ言う。
親子のささやかな光景のはずなのに、僕にはそうみえない。
まるで悪いものを食べさせてて、自分を崇拝させるために行われている行為・・・。
制服の女子生徒は背を向けたまま、僕を認識してない様子。
「それにしてもママ、今でも死にそうね。あなたみたいな人が必死に働いて、私のために働いて、なにを得たの?」
・・・!?
「パパと離婚して、私を失い、・・・儚いよね。私が感じてるのは愛かしら?
ううん、きっと同情すらないよね」
パジャマ姿の老人みたいな女性は・・・ただナオコナオコと繰り返す。
女子生徒が振り向く。
・・・ナオコだ!
僕を見て・・・表情はまったくつかめない。
なんともない目つきで、少しだけ? ・・・微笑。
「ママ、ちょっと外出てくるね。大人しくできるかしら?」
おぅ気をつけてねとナオコと大声でいうナオコのお母さん。
ナオコはもうお母さんを背に向け、もう視界に入っていない。
ナオコは僕に一瞥。
わからない表情。
そして笑み。
「ひさしぶり。まさか来るとは思わなかった」