第3話「仕方ないじゃない。人間なんだから」
朝倉ナオコの家は人部屋だけで、真ん中にコタツがある他は家具がなく殺風景な感じ。
「ひとりだけって・・・。父さん母さんは?」
「パパは消えた。ママは入院」
言葉が見つからず重い空気が覆う。
「不便はしてないよ。学校サボりたいときはサボれるし」
「さみしくないの?」
「・・・。ひとりだとさみしいものかしら?」
「僕はさみしいかな」
「よくわからないわ。わたしはいつもひとりだったから」
「・・・」
「人にさみしいという感情があるあら、それはわたしには不要な感情だわ」
「前から思ってたけど、どうしてそんな冷めた考え方ができるの? 僕には中学生よりずっと年上にみえる」
「わたしは違うのよ。わたしはひどい目にあったから」
そしてリストカットの痕をみせる。パパに切られたと言ってた。
「なんでリスカすると思う? わからないのホントに」
「パパは心中しようと言った。パパはわたしの腕を切ったし、わたし自身も切った。それでもパパはパパ。人間なのよ。仕方ないじゃない。人間なんだから」
「いや、それは父さんが悪いよ。悪いことされているって自覚しなきゃだめだよ」
「だから言ってるじゃない。仕方ないって」
「朝倉さんには、なにかがんばろうとか、そういうことってない? うまく言えないんだけど、友人には死にたいとか誰か殺したいとか言う人はいるよ。でも自殺したり殺人しようとする気はないと言える。朝倉さんは違う、射に構えて冷めてるのに、死ぬと言ったら本当に死ぬ恐ろしさがある」
「君、なかなか察しがいいじゃないの。でもね、自殺なんてただのバカよ。わたしの魂は自殺を拒む。 ところで君、口は堅い方かしら?」
「? ・・・言うなと言われれば約束は守る方だよ」
「絶対に言わないことね?」
「もし言ったら?」
「二度とわたしの前に現れないで」
「うん、わかった」
「わたしのことどう思うかしら? ノート持ってきてくれたり、随分気にかけてもらえてるようだけど」
「・・・。大切な人だよ。正直、気になっている」
「ここの家、誰のものだと思う?」
「え・・・? どういうこと?」
「わたしのことを大切というなら・・・」
神妙な顔でナオコは言う。
「わたしのことを大切というなら・・・、誰にも言わないと約束した上で、騒がず、わめかず、ただ見ていることね」
朝倉ナオコはそう言い、ベランダに僕を追い出した。
カーテンを閉められるが、わずかに隙間を残した。
物音がし、誰かが家にあがってきた。