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十王の使い魔による日常

虎の災難な日

作者: 鵠居士

修羅場ナウ


俺は日頃通いつめている掲示板に手元のスマホから書き込みをした。顔は絶対に目の前から外さず。だから、この書き込みに仲間たちがどんな反応をしているのか…いや、多分画面の前で笑いながら次を待っていることだろう。面白いことが大好きな奴らばかりだし…俺が書き込むということは、俺たちの身の上に絶対に関係があると推測するだろうから。



「姉さん。姉さん。姉さん。姉さん。」



目の前の光景、

非常にうんざりとして、普段ならさっさときびすを返して部屋で眠るのだが…流石に今回は見逃すことができない。


なんたって、この俺の目の前で女子生徒の足にしがみついて涙を流しているおっさんは、ここにいちゃいけない存在で、この学園に危害を加える危険性が大いにあるとくれば、一応学園に雇われている俺は注意して対応しなくてなはいけない。


「あぁ姉さん。ようやく会いに来れたよ。

 姉さんのことを考えなかった日は無かった。姉さんのことを思わない日はなかった。

 いつもいつも、いつも時代も、姉さんが傍にいないことを考えると、苦しくて、苦しくて、

 何度、世界を呪ったことか・・・」


気持ち悪い。

助けてください。

へるぷみー


画面を見ていないが、端末の持った手だけは高速で動き、掲示板へと書き込んでいく。


いい年こいた、いや皺や白髪も混じっているがピシリと着こなされたブランドスーツに包まれた身体は、世のおっさんとは比べることの無いほどにがっしりと鍛えられていることは、服の上からでもわかる。

顔も俳優とかも真っ青なくらいに整って、老若男女、うっとりと見蕩れることだろう。

だが、今やその顔はうれし涙に崩れ、うっとりと見惚れるほうに回っている。

しかも、しがみ付いているのは女子高校生、しかもお世辞にも綺麗とか可愛いとかいえない、平々凡々とした、どこにでもいそうな少女だ。

困ったように男を宥める少女の様子に、性格も大人しい部類に入ることは明白だ。


「・・・アルド・・・まずは、再開の挨拶をしましょう。

 あなたは、今世はどんな名前なのかしら?」


少女が柔らかい声音で問いかけ、男の頭を撫でる。

すると、男はガバッと音が響かせるように立ち上がると、少女の細い体を包み込むように抱きしめた。

「いっ痛いわ、アルド。」

「あぁごめんよ、姉さん。・・・・あぁ相変わらず、姉さんは良い香りがするね」

いやいやいや、

顔を肩から上げてみような。

めっちゃ、どうしようって顔してるからな。

「アルド。」

いくら温厚でも、耐え切れなくなったな。

声に力がこもっている。

「久しぶりの姉さんに、はしゃいでしまったんだ。許してくれるよね、姉さん。」

ようやく離れたと思ったら、少女の頬に口付ける男。


パキッ


おっとやばい。

端末を持つ手に力が入ってまった・・・


「あぁ、本当に久しぶりだね姉さん。

 俺は今59歳だよ。名前は大久保芳樹。そこそこな会社を経営しているんだ。

 姉さんが17年前に生まれているのは感じていたんだ。

 だけど、ようやく見つけたと思ったら姉さんは学園に入ってしまうし、

 姉さんに会いたくて学園に来ようとしたんだよ」

おっと、これはやばいかも

男の瞳孔が開き、

周囲の木々がザワメキだした。

離れてみている俺の身体が重くなるのを感じる。


「あいつが・・・南条の奴が、俺が学園に入ることを許さなかった・・・

 もちろん、あいつを倒してしまえばと思った。

 でも、そんなことをすれば姉さんの身にも危険が及ぶし・・・

 何より、姉さんは怒るよね。

 昔からそうだ。

 俺たちが無茶をすると、姉さんは怒って止めてくれた。

 我を忘れている俺に飛びついて、自分が傷つくのもかえりみずに・・・

 あぁ姉さん。姉さん。俺の、姉さん。

 今年が終わったら、姉さんも卒業だろ。

 俺のところにおいで。

 そしたら、守ってあげられる。

 前のように、馬鹿たちに傷つけさせやしないよ」


木の葉が舞い落ちる。

狂信者のような笑いを浮かべる男を中心に重力がおかしくなっている。

重力の場に、俺の身体が悲鳴を上げる。


おっ


彼女と目があった。

微笑み、腕をひらりと振るうと、狂った重力が消え去った。


「芳樹。改めて、初めまして。そして、探してくれてありがとう。」


「私は、亀井有希。家は一般のサラリーマンよ。とっても優しい家族なの。

 だから、卒業後は一回は家に帰るつもりよ。」


有希の言葉に、大久保は目を丸め、そして泣きそうで怒るように顔を歪めた。

そして、有希の肩を掴み力を込めた。


「どうして 

 どうして

 あなたの家族は俺とあいつだ。魂を分かつ姉弟三人。途切れることない絆がある。

 確かに、あなたをこの世に生み出し慈しんだことは感謝すべきことだ。

 けれど、戻ることはないじゃないか。

 俺とあいつ。

 あなたを守ってあげられる。

 あなたを利用しようと、搾取しようとする汚らわしい輩を排除してあげられる。

 あなたは弱い。俺たちの中で一番弱い。

 だから、やつらはあなたを狙う。

 寛容と慈愛の大地たる姉さんを!」


大久保の慟哭は空気を震わせる。

掴まれた肩に、指が食い込むのが俺からも見えた。


これは・・・・


「家に帰った後は、世界に出ようと思うの。」


痛みを感じているはずなのに何事もないように紡ぐ言葉は、目が合っている俺に向けられているもののように感じる。


「世界を回ってみたいの。

 豊かな土地も

 痩せた土地も

 見てみたいの。

 そして、求めがあるのなら私は力を使うわ。

 だって、それが神様の役目だもの。

 始まりのときも、私たちはそう思い、そう在ったのだから。」


平凡な顔立ちだ。

でも、その佇まいも言葉も、美しい神々しさを放っている。


それもそうだろうな。

彼女は、いや彼女と男は、この世界を創った十柱の神が人となる為に降り造った王という存在の一人

全てを支える大地の神の化身だ。

己を三つに分けて人間になった大地の神

地王を名乗れる人間は転生を繰り返す中、三人から増えることも減ることもない。

彼女は大地の神の『記憶』を受け継いだ地王

王が神であった時代の記憶を維持する為に、世界とそこに生きる存在に対する寛大な慈愛の心を持ち続ける存在。


「だめだ。

 危険だ。

 俺に、また貴女が殺されるところを見ろというのか!!」


男は、『姿』を受け継いだ。

神の時代の記憶はなく、人や世界に対する思いなど無いに等しい。

あるのは、神としての威厳と巨大な存在感だけだ。

男が持っているのは、地王となってから何回も見る事になった光景。慈愛をもって人々に力を貸す姉が利用され搾取され理不尽な人間の考えで殺される姿の記憶だ。


同胞の掲示板で言っていたな・・・


異世界で物語やゲームとして紡がれたこの世界の中で、

二人の弟の王たちは狂っていたと。

それによって、世界を壊そうとしていたと。

人々を庇い、プレーヤーや主人公を助ける存在だった姉を最終的に飲み込み大地の神として甦り、世界を滅ぼす邪神となったんだと。

狂い憎んだ『姿』の上の弟、

怒り恨んだ『心』の下の弟、

姉を飲み込むとき言うらしい

「これで、もう殺されるところを見なくてすむ」と


「大丈夫よ」

思考が目の前の光景に戻された。

変わらない、有希の微笑みがある。

「ちゃんと覚えているもの。

 人は愚かだって、今度はちゃんを覚えているし、覚悟しているもの。

 切り捨てるということを」


あ・・おぉ・・・っ?


有希が大久保を避けて、俺のところに来る・・・

これって・・・

もしかして・・・えぇ・・と


「それに、この人が一緒だから。

 ちゃんと危険だったら怒ってくれる、でしょ?」

綺麗に笑って、首を傾げる。

あぁ~やばい。

やっぱ可愛いなぁ


「当たり前だろ。お前を傷つけようなんてもん、全部排除してやるよ。」


有希を抱きしめて、その額にキスを送る。

へっさっきの意趣返しだ。

・・・やばい、圧力がすごい・・・


「誰だ・・・貴様は・・・」


さすがは神の威光を受け継いだだけある。

息苦しく、圧し掛かってくる存在感に足がすくむが、それを見せるわけにはいかないよなぁ


「学園の用務員 兼 火焔王の使い魔

  そんでもって、有希の旦那だよ」


最後まで言い切ってやった瞬間、石が飛んできて、頬から血がたれる。

「康太さん。」

有希がハンカチで血を押さえてくれる。

俺は大久保を鼻で笑ってやった。

だってよ。甲斐甲斐しくしている有希の姿に、血の涙流さんばかりに歯を食いしばってやがるからな。


「どうも、初めまして、弟君。

 有希と深いお付き合いさせて頂いている、武嶋康太だ。

 そんで、来年にはハネムーンがてら世界旅行に出かけるんでよろしくな」


「許すと思っているのか」


「少なくとも、あんたが危惧する危険性はないぜ。

 これでも、火焔王配下、これでも若い頃から鳴らした傭兵でね。

 それに、あの狂犬は暴走壁はあるものの歴然の王でね。

 配下には手酷いが、その家族は庇護下において絶対に守るんだよ。

 有希の安全は、絶対に守られる。」

「はっ 王を頼るか。

 そんな惰弱なやつに姉さんを渡すとおもっているのか」


ちょーっとカチンときましたよ。

おっさんになると、短気になってやだねホント。


「俺は弱いさ。

 お前ら王なんて奴らに比べたらな。

 だが、自分が弱い、小さいって知っているからな。

 お前らみたいに驕って、みすみす大切なものを翳め捕られたりしないんだよ。」


大久保の足元から、地面に亀裂が走っていく。

普通のやつだったら地面に叩きつけられるくらいの重圧が周辺を包んでいく。


おぉ、奴の顔から表情が抜け落ちた。

これは殺意とか憎悪に心を染めた奴の顔だな。

よく傭兵で世界を回ってたときに見た顔だ。


「止めなさい、アルド。」


俺の腕の中に抱えられた有希が声を張る。

だが、奴には大事な姉の声も聞こえてないだろうな。


さて、どうしようか。

ムカついたからって、奴にとって一番の傷をノミで抉って塩ぶっかけちまった。

こういうところ、注意しろって傭兵仲間たちにもよく怒られていたっけな。










どしゃ







今日って晴天だよな。



頭上を見上げると、確かにサンサンとした青空と太陽が見える。


けれど、今確かに空からバケツをひっくり返したような水が降ってきて

俺たちの全身を濡らしたんだが・・・


「「この私の領域を騒がすな」」


声の先にいたのは、胸元を大きく開けてミニスカートから生足を伸ばした、化粧ばっちりの女。

でも、その声は確かに男のものだった。


ふと見ると、大久保も全身をびしょ濡れにして、けれど力の気配は四散させて呆然と立っていた。


「私は、慈水王の使い魔。

 この学園で王の力を振るおうというのなら、この場に慈水王が降り立ちその威光を振るうでしょう。 

 引きなさい、地王。

 水の結界に守られたこの地で、慈水王に勝てるとお思いか。」


見た目に反した、しっかりとした声。

そうか、こいつが「風呂屋の番頭」か・・・

男だとばかり思ってたわ・・・


まさか、掲示板でしか知らない同胞と遭遇するなんて想定していなかったせいで、頭が勝手にどうでもいいことを考えていく。


「それに、ご自身のお体でない状態でそれほどの力を振るえば、その体、ただではすみませんよ。

 そんな事態を、姉君がお許しになるとお思いですか?

 ならば、随分と姉君のことを理解なさってないご様子。」


ゆらりと頭を上げ、有希を見た大久保の目を見ちまった。

なんて顔してんだか。

まるで、捨てられた犬みたいな顔しやがってよ。


「武嶋康太。

 俺はお前は認めない。許さない。

 この島を離れ、大地に足を着いたら覚悟するがいい。

 二度とその面をみることないようにしてやろう。」


「姉さん、あなたを守れるのは俺とあいつだけだ。

 一年後、迎えに来るよ。

 俺の屋敷に姉さんの好きな、白のアジサイとピンクのカスミ草を満開に咲かせて・・・」


俺を睨みつけた直後に、有希に満面の笑顔を送るという器用なことをしてのけ、奴は去った。

あとには倒れ込む高等部の制服を着た青年とそれを支える「風呂屋の番頭」。


「武嶋用務員。

 理事長から伝言を伝えるわ。」


ん?


「騒ぎを起こした上に、地王を煽って依代の生徒の命を危険にさらした。

 よって、ボーナスカット。

 ついで、生徒に手を出したので、三ヶ月減棒。」


「えぇぇ、ちょっときつくない、それ?」


「文句があるのなら、理事長に直接どうぞ。

 私は研究で忙しいの。」


そういって去っていく、「風呂屋の番頭」。

自分よりも背が高い、しかも気を失った男子生徒を抱き上げ歩いていくその姿は、男らしかった。

スカートはいてなかったら、性別間違えるかもしれんな。


「ごめんなさい、康太さん。巻き込んでしまって」

落ち込んでいる有希。

不謹慎だが、可愛いなぁ。

「どっちみち、お前を嫁にって言いに行くことになったんだ。

 それが一年早まっただけだろ。」


「楽しみだな、世界一周。」


「・・・・・・・ありがとう。

 ふつつかものですが、よろしくお願いします。」



武嶋康太  38歳

 可愛い嫁と、超ド級シスコンでヤンデレ属な危険極まりない義弟を手に入れました。




前途多難ではあるけどな・・・







[我ら]使い魔による使い魔の学園生活[犬となった]No.7


19:砂漠の虎

   修羅場ナウ






28:砂漠の虎

   気持ち悪い

   助けてください。

   へるぷみー




32:風呂屋の番頭

   自業自得





51:砂漠の虎

  ということで、俺ってば嫁手に入れました~


  来年は学園出て、嫁とハネムーン世界一周だ

52:靴屋の小人

   おめでと~っていいのかな、これ。

   でも、いいなぁ嫁。

   俺も頑張ってアピール中

52:温室の花に舞う蝿

   ・・・・・虎・・・・ちょっと体育館裏に来てくれない?

  お・は・な・し・あ・い といこうか。

53:洞に住む梟

   私も相手欲しいなぁ

54:靴屋の小人

   でも、地王(姉)に手を出すなんてwwww

   超ド級シスコンでヤンデレな弟(上)と超ド級ツンデレで姉兄以外塵芥な弟(下)

   俺、無理ぃ~wwwwww

55:砂漠の虎

   愛の前では、全てが塵芥さ。

56:靴屋の小人

    ひゅー

57:飛べない猫

    ひゅー

58:洞に住む梟

     けっ

59:温室の花に舞う蝿@呪い中

    けっ

70:風呂屋の番頭

   なんでもいいけど、うちに迷惑かけるのだけはやめてくんない?

   ・・・・殺すぞ?



三人の王になった大地の神

『記憶』ティエラ

慈愛深い寛容な大地

寛容過ぎて深く考えずに恩恵を与えていたために、毎回殺される最期を迎えていた。今回は考えて無闇に恩恵を与えないようになりました。

『姿』アルド

存在感神級な、偉大なる大地兼狂える大地

超ド級のシスコンでヤンデレも入ってる。本気で姉を愛しちゃってる…血が繋がってないしいいよね?な人。

そんな姉を何回も間に合わずに殺されて狂った。

『心』ソル

大地の影響をもろに受けて、怒れる大地、憎悪する大地になった

超ド級のツンデレ。兄には怖くてできないけど、姉にはツンツンツンツンデレくらい。姉と兄以外は塵屑。

多分今回のこと知ったら…


火の神 火焔王

戦うことが大好きで大好きで、強いやつも大好き。

毎回傭兵になって伝説になる。

部下は可愛がるし無理難題だして無茶苦茶するけど、慕われる。

部下の家族は俺の家族。大事だから庇護下の家族に手を出されると地獄を見るよwww

只今、かわいい嫁と子育て中

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[気になる点] 「・・・アルド・・・まずは、再開の挨拶をしましょう。 再会 それに、あの狂犬は暴走壁はあるものの歴然の王でね。 癖 [一言] >「学園の用務員 兼 火焔王の使い魔 > そんでもって、…
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