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綺羅  作者: 飛来颯
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悪徳刑事

 妻、麗華の誕生日パーティーに久し振りに会った、学生時代の悪友・多田聡。

 彼は木下涼介の顔を見るなり、何かに気づいたみたいだが‥‥‥


 古賀恭介は、妻の誕生日パーティーが終わった数日後、指定された総合病院の1階ロビーで多田が現れるのを待っていた。

 「恭介、悪い待たせたな。ちょっとコーヒー飲みに行かないか?一服したくてな」

 先程まで患者を看てたのか、顔に少し疲れが見えた。恭介は頷いて、多田の後ろを歩いて最寄りの喫茶店へと、入っていく。

 「そういえば、話ってなんだよ」

 席に座り、コーヒーの注文をすると、多田はメンソールのタバコを1本取り出し、それを口に咥えると火を点けた。

 「これを見ろ、何かおかしくないか?」

 ポンと1枚の写真を置く。それは誕生日パーティーの最後に撮った集合写真であった。恭介たち家族や招待客たちが写った写真だ。

 別段、変わったところなどなさそうだが。

 「これがどうかしたのか?」

 意味がわからず、多田に思わず聞き返した。

 「こいつのことだ」

 多田は写真の中で、沙織と仲睦まじく寄り添う涼介の顔をトントンと指で叩いた。

 「あの時、俺は心臓が止まるかとおもったぜ。だって一瞬、留美子が生き返ったかと思った‥‥けど、違った」

 なぜあの時、多田があのパーティーに出席してたのとか、なぜ涼介が怪しいのかを教えてくれた。

 彼は元々、形成外科の医師であった。

 ある日、生まれつき顔に痣があった恭介の義父は、政界入りをする前に見栄えの悪い顔の痣を取り除きにこの病院に訪れた。

 その時、担当したのが多田である。それ以降、形成関係で何かと付き合いがあるらしい。そのことに対し、多田は『政治家は、顔が命』そう言って、苦笑いした。


 ‥‥指がな、教えてくれるんだ。多田は、そう言って両手の指を恭介に見せた。

 「あの時、彼の顔を触ったのは留美子の顔にあまりにも似せてたからだ。もちろん素人目からじゃ分からないさ、でも俺は違う!この指で触れば大体判る」

 アイツの顔には、確かに顔をイジった跡があったよ?特に目の辺りと鼻の辺りがな‥‥

 「どんな経緯で、留美子の顔を模造したのか知らないが、死人にムチ打つような真似しやがって!」

 少なからずとも、留美子の死に関わっていた恭介の胸にチクりと、棘が突き刺さったかのように思えた。

 「恭介。あんな輩がお前の前に現れるくらいだから、一度身辺を洗っておいた方がいいんじゃないか?意図的じゃなきゃ、あれは何だっ!悪趣味以外のなんでもない!」

 多田は怒りを抑えながらも、表情が強ばったままだった。もしかしたら彼は、留美子に惚れてたのかもしれない。

 ‥‥いつの間に運ばれたであろう、コーヒーは少し冷めていた。

 そうだな‥‥恭介は冷めたコーヒーに、もう溶けないであろう砂糖を入れて混ぜていた。

 ‥‥どうにかせねばならないが、恭介には答えが中々見つからなかった。

 その時、多田の羽織っていた白衣のポケットからピー・ピーと鳴り響く音がした。その音の元を取り出すと、それは昔流行ったポケットベルだった。

 「今更ポケベルかよ」

 院内では、PHSが主流だけど俺はまだこれなんだよ。そう言い残して、多田は患者の待つ診察室へと帰って行った。

 恭介は先程のことを、ずっと考えていた。

 (ポケベル‥‥ポケットベルといえば、あの時、留美子も持っていたな)

 当時、恭介は煩わしいので持ってなかったが、確かに留美子は持っていた。

 そういえば、留美子の遺品の中にポケベルはなかった気がする。

 恭介は、自分のカップに残っていたコーヒーを飲み干すと、多田の分も合わせて2杯分の会計をすまし、外に出る。


 外に出ると、昔会ったことがある男の姿を見掛けた。今あまり会いたくない男だ。

 多分、ずっとここで恭介を待ち伏せしていたのだろう。

 相変わらずヨレヨレのコートを羽織っている。センスのなさも20年前から変わらないということか。

 「久し振りだな、曽根さん‥‥いや今は、古賀さんと言った方がいいかな?」

 嫌味ともとれる刑事の話し方に、ウンザリする思いだった。

 「今頃、なんのようですか?刑事さん」

 「刑事さん、じゃない。犬居だ」

 《犬居》と名乗った刑事は、恭介の前まで歩み寄った。

 「単刀直入に言う。久保田の奴が、お前の周りをウロついてないか?」

 久保田?そんなことを急に言われても、そんな名前の知り合いは1人もいなかった。

 「急に言われても、そんな人は知りません」

 「‥‥質問を変えよう。つまり前、俺と一緒に行動してた若い刑事を見掛けなかったか?」

 そういえば、若い刑事の姿がどこにも見当たらなかった。

 どうしたのか尋ねてみると、思いもよらない答えが返ってきた。

 「実は久保田は、今まで押収していた麻薬や密売品を横流ししていたんだ」

 なんだって?恭介は一瞬、目眩がした。

 「この前、捕まえたチンピラが白状したんだ。久保田って刑事から麻薬をまわしてもらってた、ってな。道理で押収した麻薬の数が足りないって、思ったんだ‥‥‥つい最近まで、知らなかった。奴もチンピラがまさか白状するとは思いもよらなかっただろう」

 お前にだけは言っとくよ。

 そう言って、スーツのポケットから手帳を抜き出し、自分の携帯番号を書いて渡した。

 「実はな。死んだ本田留美子は、麻薬の売人だったんだ」

 「‥‥‥なんだって?」

 あまりのことに恭介は言葉を失い、顔は顔面蒼白になった。

 それもその筈、恭介は何も知らなかったのだから。

 犬居たちは前から麻薬密売に深く関わっていた本田留美子を追っていた。その交友関係から見て、恋人の恭介も怪しいと睨んで周りを張ってたというのだ。

 「最初は、お前も疑ってたんだ。留美子の恋人だからな。だが、違ったみたいだ。本田留美子は、お前の前では可愛らしい女房を演じてたみてぇだからな」

 そういえば、お前が怪しいと言いだしたのは、久保田のヤローだったよ。と付け加えた。

 「アイツは、留美子をふん捕まえて麻薬のありかを聞きだそうとしたんだろうが、先にホトケさんになられたら、どうにもならないな。留美子殺しで捕まった大家も麻薬とは無関係らしいし、最近アンタの周りで変わった事はないか?」

 「あの、ところで留美子の遺品からポケベルがなくなってませんでしたか?確か彼女、持ってた筈なんですが」

 恭介は、さり気なく聞いた。たが、返ってきた答えは、知らない。の一点張りだった。

 「本当に知らないんだ、もし知ってても答える義務はないが、本田留美子の所持品や遺留品の中にポケベルなんてもんはなかった」

 (じゃあ、誰かが持って行ったのか?一体なんの為に‥‥‥)

 しばらく恭介の様子を見ていたが、一向に話が前に進まないことに業を煮やした犬居は、ある核心を突いてきた。

 「それより最近、本田留美子にそっくりなガキがウロついてるだろ」

 核心を突かれた恭介の方は、言葉に詰まってしまった。

 (なぜ、その事まで知っているのか?)

 まるで心の中を見透かしているのか、嘲笑うかのような眼差しで、恭介の顔を覗いた。

 「図星のようだな、俺もまさかあんな奴が出てくるとは思わんかった」

 だが、お前という奴は面白い奴だよ。

 犬居は踵を返し、その場を離れようとしたその時、言い忘れてたことを思い出したのか「そうそう、そう言えば」と口火を切った。

 「本田留美子の本物の息子の方な、あいつ生きてるぞ。お前は自分で悪党ぶってるようだが、せいぜい小悪党に毛が生えた程度なんだよ」

 (なんだって?本物の涼介が生きてるって、じゃあ俺があの時沈めたのは何だったんだ?)

 「どういうことだ?犬居!」

 犬居は一度も振り返る事をせず、恭介の問いに答えた。

 「いつの時代だってモラルのない奴はいるもんだな!ダンボール箱にフライドチキンの骨に、いらなくたった赤ちゃんの服を詰めて捨てるなんて、不法投棄もいいところだ!」

 (‥‥‥ハメめられた!!!)

 まさか、刑事が職権乱用の上にマスコミに嘘の情報をリークするなんて思いもよらなかった。

 「20年前、あの時あの場所にいたのは、お前だけじゃないという事だ」

 犬居は、近くに停めていた黒のセダン車に乗り込むと、何事もなかったかのように走り去ってしまった。

 1人残された男は、明らかに動揺していた。 

 (まさか、こんな結末が待っていたなんて、じゃあ誰が本物を助け出した?)

 恭介は心の中で叫んだ。だが、これも全ては自分の撒いた種だ。

 なのに、なぜか後悔なんかなかった。だって本物は死んでないのだから。

 もしかしたら、今度は涼介に復讐されるかもしれない。だけど、なぜか今は清々しい気持ちでいられた。

 あの様子からして、犬居は恭介を捕まえる気はないらしい。

 そうなると‥‥‥後、残るは偽者の涼介の存在だけだった。

 早くアイツの正体を暴かなければならない‥‥


 だが、自宅に帰ると予想外の事態が起きていた。

 最初の異変は、息子・浩紀の叫び声が家屋敷の外まで響いていた事だった。




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