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綺羅  作者: 飛来颯
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蛇が出るか、邪が出るか

 ‥‥‥一体、何が起きたというんだ?誰か、俺に教えてくれないか。

 それとも今更、俺に復讐をしようというのか?何をしでかそうというんだ留美子!!

 終わってしまった過去は、取り戻せないというのに。



 「お父さん、どうしちゃったの?気分が悪くなったの」

 我が〝愛娘〟沙織が、心配そうに聞いてくる。

 「沙織が、寄り道なんかするからだよ」

 せせら笑う留美子の亡霊は、涼しげな目で恭介を見やる。

 「大丈夫だよ、沙織。それより、こちらの男性は?」

 それとなく、亡霊の存在を娘に促した。

 「やだ!パパったら、涼介くんは彼氏とかじゃなくって、ただのサークルの友達だから」

 何となく男の方を見て、頬をピンク色に染める沙織の顔を見ると、ドッと疲れが出てくる気がした。

 「この近くに、お洒落なアンティーク雑貨の店があるんですよ。行ってみませんか?」

 さり気なく聞いてくる《涼介》にただ、恭介は頷くことしか出来なかった。


 待ち合わせ場所から裏通りを出て、住宅街に入り歩くこと十数分、目的地のアンティークショップに着く。

 住宅に入り込んでる為、一見分かりづらい場所にあったが、確かにアンティークショップ『マーロン』と書かれた立看板が置いてあった。だが、看板がなければ普通の家にしか見えない。

 (こんな所に店なんてあったのかな?)

 「ねえ、早くに入ってみよ」

 首を傾げる恭介のことは放っておいて、沙織は涼介を連れて中へと入って行く。

 

 店の中は、こぢんまりとしながらも個性豊かながらセンスの良い品物が揃っていた。

 「パパ見てよ、可愛い物がいっぱいあるよ」

 無邪気にはしゃぐ沙織を見て、恭介の顔が綻ぶ。

 「いらっしゃいませ」

 店の奥から、店主らしき人物が現れた。

 「マスター、彼女のお母さんのプレゼントを探してるんだけど、何か良い物ないかな?」

 涼介の話を聞いて、それならば‥‥と奥から傘部分にステンドグラスが嵌め込まれたランプを持ってきた。

 「これは、イタリアから取り寄せたオイルランプでございます。

 この部分には、お好みのフレグランスを差し込んで頂けます」

 そう言うと、テーブルに置いたランプに火を点ける。店主が部屋の明かりを消すと、ランプの灯りでステンドグラスの持つ色合いが幻想的な世界を魅せてくれる。

 「パパ、これ良いよ。これならママも喜んでくれるよね」

 よっぽど気に入ったのか、今度はランプに垂らすフレグランスの匂いを数個、選び出していた。

 「それでは、ラッピングをしてまいりますので、少々お待ち下さい」

 そう言い残し、奥の部屋入って行った。


 待っている間、沙織は目新しい商品を物色しに、他の場所に行ってしまった。

 その場に残された男2人、お互い目を合わそうとしないまま、時間が過ぎるのを待っていたが結局先に折れたのは恭介の方だった。

 「涼介くんは、ご両親のお仕事は何されてるのかな」

 まさか、あの時の赤ん坊が生き残って復讐しに来たのではあるまい。と思い、無難な問いを投げ掛けた。

 ‥‥‥すると、涼介は小刻みに肩を震わせ体を丸めた。

 「父は元からいません。母は僕を産んだあと、亡くなったそうです。そのあと孤児院で生活してました。その数年後は、木下家に養子として引き取られたんです」

 沙織さんと出会ったのは、大学進学後のことです。と、続けた。

 「すまない、嫌な事を思い出させたね」

 恭介は、素直に誤った。

 (まさか、そんな事になってたなんて。それよりも、どうやって生き延びた?確かにあの時、沈めたはずなのに)

 それよりも‥‥チラリ、と涼介の胸元を盗み見た。やはり、どう見ても見覚えのあるネックレスだった。なぜなら小振りのクローバーは普通、男が好き好んで身に着ける代物ではないし、特に真ん中に輝くアメジストの石は留美子の誕生石だったからだ。

 「どうしたんですか?お父さん」

 不思議そうな物を見る目で、尋ねてくる。

 「‥‥いや、可愛らしいネックレスしてるなって思って」

 すると涼介は、おもむろに首元のネックレスを持ち上げると、わざと恭介の目の前でぶら下げて見せる。

 「母の形見なんです、母が大事にしてた物らしいですよ」

 少し錆びた様に見えるソレは、昔愛した人が持っていた証だ。

 どことなく、誇らしげに持つその指には、これまた彼には不釣り合いな愛らしいピンクゴールドのリングが嵌められていた。


 「何2人で話してるの?」

 他所で見たら、この2人の会話が和気あいあいにでも見えるのだろうか?

 すっかり仲良くなったと勘違いした沙織は、嬉しそうに恭介の隣に座る。その指には彼と同じピンクゴールドのリングがキラリと光る。

 (ああ、やはり2人は付き合ってるのだ)

 恭介の疑惑が確信へと代わる。

 沙織には悪いが、2人の仲は許す事はできない。なぜなら、彼は古賀家にとって疫病神にしかならないからだ。

 だが、その責任が自分にあることも、十分承知している。


 「ありがとうございました。また、お越し下さいませ」

 意気揚々と軽い足取りで会場に向かう沙織に対し、重い足取りで歩く恭介の心境は複雑であった。


 3人は、会場となる恭介の妻が営む不動産屋に向かった。この日は広い裏庭を使いホームパーティ式の誕生会を開く予定だと言う。

 

 パーティの準備が着々と進む中、その場を仕切る女性を見た沙織は駆け寄った。

 「ママ、誕生日おめでとう」

 沙織はギュッと母親を抱きしめると、来る途中で寄った花屋で買った黄色い薔薇の花束を手渡した。

 「ありがとう、沙織。ママの大好きな薔薇だわ、飾ってもらっとくわね」

 そう言って、従業員に薔薇を飾る為の花瓶を持ってくるように支持をする。

 それから妻は、沙織と一緒に付いてきた涼介にも話し掛ける。

 「まぁ、沙織のボーイフレンド?素敵ね」

 妻は初々しい乙女のように頬を染め、うっとりと涼介を見つめる。

 「駄目よ。ママにはパパがいるでしょ?」

 少しムクれ気味な沙織を宥め、恭介は話題を替える。

 「ところで、浩紀は?まだ来てないのか」

 浩紀とは、恭介と妻、麗華の間に生まれた息子である。

 高校生になったばかりだが、思春期に入り反抗的な態度ばかりをとるので母親との折り合いはよくなかった。

 「浩紀は今日は来ないらしいよ」

 沙織の言葉に、妻は軽い溜め息をついた。

 「仕方がないわね。それよりもアナタ、そっちのテーブルをこちらに運んでちょうだい」

 いつものことなのか、あまり気にする風でもなく、持ってきてもらった有名作家の花瓶に薔薇を生け始めた。

 「ねえ、今度の日曜日に出張行くのだけど一緒に行ってくれない?運転手がいるのよ」

 妻の言葉に恭介は、義父さんの仕事次第だな。とだけ返した。

 

 つれないわね‥‥それだけ言い残すと、妻は先程着いたばかりの自分の両親を娘と一緒に迎えに行った。

 またしても、涼介と2人きりになり気不味い雰囲気になっていたところで、懐かしい声が恭介の耳に流れてくる。

 「恭介!曽根恭介じゃないのか?」

 その声の方に振り返ると、それは高校時代の同級生、多田聡が立っていた。

 「聡、聡なのか?嘘だろ!久し振りだな」

 大学は別々だったが、何かと2人でよくツルんでいた。

 お互い歳はとったので、老け顔になるのは仕方ないが、面影は何ら変わってなかった。

 「なんで、古賀先生のお嬢のパーティーに来てんだよ?えっ!婿養子になったのか?すげーな」

 他愛もない話にうつつを抜かしてると、ふと多田の目が涼介に止まった。

 「いや、本当に久し振りだな。今、お前は何の仕事をして‥‥‥聡?」

 多田の目はジッと涼介を見つめたまま、目を離そうとしない。

 「驚いたな‥‥‥君は本当に男なのか?なんて綺麗なんだ」

 多田はおもむろに涼介の顔を触り、感嘆の溜め息をついた。

 「何をするんだ気持ち悪い!ホモかよっ」

 涼介は、多田の手を振り解く。

 あからさまにイヤな顔をし、チッと舌打ちをして沙織たちの方へ走って行ってしまった。

 「どうしたんだよ、娘の彼氏だぞ?」

 驚く素振りをする恭介に、多田は言った。

 「お前は昔、本田留美子と付きあっていたな」

 「‥‥!?」

 その言葉に衝撃を受けるが、ある事を思い出した。

 (そう言えば、留美子を俺に紹介したのは聡のカミさんだ)

 どういうことだ?真相を多田に問いただそうとしたところで、妻たちが戻ってきた。

 「いらっしゃい、多田先生」

 笑顔で迎える妻に、多田は満面の営業スマイルでプレゼントを渡す。

 「お嬢さま、お誕生日おめでとうございます」

 まぁ、ありがとう。と妻は嬉しそうにプレゼントを受け取った。

 「ところで、ウチのムコ殿と多田先生は、お知り合いかな?」

 学生の頃の悪友ですよ。多田は、勘ぐられる前に2人の間柄を話した。

 「そうか、こんな名医が友人だなんて恭介は鼻が高いな」

 ガハハッと声高らかに笑うと、義父は「またよろしく頼むよ」と多田の肩をポンポンと叩き、他の客人のところへ行ってしまった。

 「私も、今度頼もうかしら。先生の腕は確かだから」

 お嬢さまは、イジらなくても十分美しいですよ。

 歯が浮く様なセリフがスラスラと出てくるなんて、と恭介は呆れて開いた口も塞がらなかった。

 「じゃあ、パーティー楽しんでいって下さいね」

 妻も、他の客人の挨拶まわりに行ってしまった。

 気が付けば、周りには大勢の人間があつまっている。

 多分、仕事関係の人間とか義父に近寄りたい輩だろう。皆シャンパン片手に談笑を楽しんでいる。

 そこへ少し離れた場所に立っていた多田が、恭介に耳打ちをする。

 「恭介。今度、時間を空けてくれないか?」

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