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綺羅  作者: 飛来颯
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運命

 ‥‥‥今日は、お日柄もよろしく。新しい門出を迎えるには、うってつけの日でございます。

 そして僕の左隣には美しい若妻、その腕には《最愛の娘》が愛らしい顔で寝ております。

 いいえ、僕は別に恨み言の1つや2つを貴方たち両親に浴びせたい訳ではありません。

 ただ、これから僕の歩く道は、バラ色ではなく、いばらの道ということを貴方たちに知ってもらいたいのです。

 そうすれば、僕は道下師にでも般若にでもなってみせましょう。




 ‥‥‥『あの事件』から半年の月日が経とうとしていた。

 この日は、曽根恭介が古賀家に婿入りする日である。絢爛豪華とまではいかなくても、一流ホテルに料理を用意するのも一流シェフときている。

 披露宴には、お気に入りのデザイナーが作った、純白のドレスを義母が所望したのでこのホテルが決まったのだ。 

 不倫相手の子供を産んだ新妻は満足そうに微笑んで、招待客に笑顔を振りまいている。

 事情が事情なだけに、表沙汰に出来ないので親密にしている人間しか呼べなかったのが、玉に傷だが‥‥‥

 それよりも恭介にとって不幸中の幸いだったのが、警察に連行されなかった事である。

 てっきり、恭介は本田留美子殺しの参考人として連れて行かれるのかと覚悟したが、実際はアパートの大家である坂木が重要参考人として連行されたのである。


 ここからは、以前に会った刑事から聞いた話である。

 その謎解きは、留美子の息子にあった。

 実は、恭介と出会う前から留美子は、大家の坂木に体を強要されていたのである。

 最初の頃は抵抗しただろうに、結局は身寄りに縁のない彼女は立場が弱かったのだろう。‥‥‥どれだけ悔しかったのだろうか?今となっては他人事ではあるが。

 坂木と関係を続けること3ヶ月目くらいに体に異変を感じるようになった。

 自身が勤める病院で受診すると、ある事が分かった。彼女のお腹に新しい命が宿ったのである。

 ‥‥最初の頃は戸惑っただろうが、彼女は時間が過ぎるにつれ、考えも変わってきた。

 孤独という寂しさもあって、例え憎い男の子供だとしても産む決心をしたのである。そこで留美子は、ある事を思いついた。

 アパートの隣人には数ヶ月の間、語学留学すると言って、アパートを空けることにし、実際には後輩の小夜子のところに身を寄せることにしたのだ。


 そうやって考えると、恭介と留美子が出会ったのは友人の奥さんの紹介だった。


 最初は、お茶を飲むだけで終わったのだが、2人が親密になったのは、その後である。

 その時、恭介は小さい会社を経営してたのだが、自分の起こしたトラブルが元で顧客と口論となり、腕を刺されて救急車で病院まで運ばれたのである。

 その時、対応したのが本田留美子だったのだ。彼女が看護婦だと知ったのは、この時が初めてで恭介は、これは運命だと思った。

 絶対に彼女と付き合うんだ、と。

 (俺はその時、腕の痛みと美人顔の留美子に気を取られて気付かなかったが、もしかしたらすでに彼女のお腹の中に赤ん坊がいたのかもしれない)

 それが証拠に、何とかして連絡を取り付けたものの、それ以降パタリと彼女の姿は見かけなくなってしまった。

 だが、実際にはあまり体に負担の掛からない事務を、臨月が来るまで働いてたらしい。 


 

 アパートを空けた間、留美子が真っ先に頼った後輩の小倉小夜子は、金持ちの家に嫁いだにも関わらず子供を授かることはなく、肩身の狭い生活を送っていた。


 そこで現れたのが、身重の留美子である。

 小夜子は最初は煙たがってたものの、留美子が赤ん坊を産むと態度が一変したのだ。


 留美子は最初の頃は、赤ん坊に恭介の1字を取って『涼介』と名付けて可愛いがったものの、やはり恭介に会いたいが為に涼介を小夜子に押し付け、自分だけ普通の生活に戻ってしまったのである。

 赤ん坊を押し付けられた小夜子は、というと怒るどころか大喜びで、赤ん坊の身のまわりの世話をし始めた。

 母親がいなければ、乳母を雇えばいいだけのこと。‥‥‥後日、病院で分かった事だが精密検査で小倉夫婦が揃って調べた結果、子供が出来ない原因があるのは夫の方だったらしい。もう小倉夫妻には迷いがなかった。

 もし、留美子が涼介を迎えに来なかったとしても、養子縁組をちゃんとして自分たちの子供として立派に育てればいいじゃないか。

 小倉夫妻は、男の尻を追っ掛けに行った女を横目に赤ん坊を抱き寄せ、幸せを噛み締めていたことだろう。

 


 (何も知らない顔をして、とんだ女狐だな留美子は)

 自分の事は棚に置いて文句を言うが、自分も立場的にはあまり変わらなかった。

 妻になった女の腕に抱いているのは、多分あの噂になった司会者の子供だろう。母親似の可愛らしい顔をした娘である。

 相手は妻帯者ゆえに、相手方もホッとしていることだろう。もしかしたら何らしかの裏取り引きがあったかもしれない。


 ‥‥‥まぁ、俺には関係無い事ではあるが。


 披露宴も無事終わり、ホールに集まって客人と雑談に華を咲かせていると、ロビーの方から式場には不釣り合いな2人が、近付いて来るのが見えた。


 ‥‥‥この前の刑事たちだった。

 

 「お取り込み中、すいません」

 あまり申し訳なそうでもなく、ヨレヨレのコートを着た刑事が話し掛けてきた。

 「困りますよ、今大事な結婚式の途中ですよ」

 恭介は慌てて2人を連れて、控え室に入っていった。両親や周りの人間にはあまり知られたくない話だからだ。

 分かってますよ。と言いつつも悪びれる風もなく、話を続ける。

 「本田留美子さん殺害の容疑で、坂木が逮捕されました」

 若い刑事の方が喋り始めた。それも聞いてない事まで。

 多分、恭介を試しているのかもしれない。

 どうやら若い刑事の言う話では、坂木は自分で留美子に体を強要しときながら、思い通りにいかないと知ると、今度は写真を使って脅迫してき、仕舞いにはストーカー行為をしていたという。

 ‥‥‥酷い男ではあるが、今の恭介がやっていることも、決して他人に褒められる事ではない。 

 「その時に坂木は、本田留美子さんが自分の子を産んだという事を知ったらしいですよね。

 そこで坂木は、世間に留美子さんと子供のことがバレる前に、殺害したんじゃないかと考えてます。ただ坂木は完全に否認してますけどね」

 (これで1つ謎が溶けたぞ。あの時、俺に電話を掛けてきたのは、やはり大家の坂木だろう)

 実は、恭介はアパートの大家である、坂木を疑っていた。別に最初から思っていた訳ではなく、留美子は誰にも‥‥恭介にも教えずに秘密裏に産んでいた赤ん坊のことを、坂木は知っていたのである。

 変だと思わない方が、おかしいだろう。

 何か拍子抜けだったが、疑いが晴れるなら大歓迎だ。

 「それから、留美子さんの友人から預かっている赤ん坊がいなくなったと、捜索願いがでましたが貴方は何か知ってますか?」

 すると恭介は、今知ったと言わんばかりに驚く素振りをした。

 「いいえ、留美子が友人に赤ん坊を預けてたなんて初めて知りました」

 それでは僕は客人を待たせてますので。

 そう言い残し、恭介は2人を置いてその場を後にした。

 (そう言えば、数ヶ月前に小倉の家から涼介がさらわれたって電話があったな)

 妻や両親がいる場所に戻る途中、ふと数ヶ月前の事を思い出していた。

 それは、小夜子の家に行って数週間後、密かに坂木を見張っていた恭介は、ある日の深夜のこと坂木が小倉の家から何かを盗み出したのを目撃した。

 それは、あろうことか坂木自身の息子、涼介だったのだ。多分、坂木は入念に調べて皆が寝静まった時間帯を狙ったのに違いない。

 もしかしたら、ずっと留美子をストーカーしていた坂木にとっては小倉家の間取りでさえ、把握してたのかもしれない。


 ‥‥‥まぁ、ガキ沈めたのは俺だけどな!!


 (あの坂木のヤロー、最後の最後で怖気づきやがって、お陰で俺の手が汚れたじゃねえの?

 しかも今更、自分は何も知りませんでした。なんて、抜かしやがる。

 アンタは大人しく罪被っときゃあいいんだよ)


 あの時、確かに坂木は涼介を‥‥‥自分の息子をあの家から取り戻した。もし涼介のDNA鑑定した時に、坂木の息子だとバレる可能性があるからである。

 たが実際、東京湾まで来ると、あどけない顔で眠る我が子を見て、途中で自分のしでかした事に恐ろしくなったのだ。

 多分、申し訳なさもあったのだろう。彼は、丈夫そうなダンボールの箱の中に自分の車に積んでいた、ありったけの毛布を敷き詰めて涼介を寝かせ、更にその上に毛布をかぶせた。

 あとは雨風がしのげる場所にダンボール箱を隠すと、坂木は自分だけ車で逃げてしまったのだ。その近くで、恭介が隠れていると知らずに。

 坂木が去った後、ダンボール箱を覗いた恭介はうろたえた。

 ‥‥‥赤ん坊の胸元には、前に自身のブランドとして売っていた四つ葉のクローバーの形をとったプラチナのネックレスがぶら下がっていた。

 以前に留美子にプレゼントした物である。

 その裏には、曽根恭介のイニシャルであるS・Kの文字と、もちろん恭介の指紋がたっぷり付着している。

 何とかそれを外そうとしたが、衣服のボタンに絡み付いてた為、赤ん坊に泣き叫ばれるのを恐れ、断念するしかなかった。

 仕方なく恭介は、警察にバレる前に何とかしなくては‥‥と思い、そのまま躊躇することなくダンボールを東京湾に流してしまったのである。


 ‥‥‥後に重大な事件に巻き込まれると、知らずに。


 あれから、月日は流れ《留美子》の顔は、再び恭介の目の前に現れた。


 これは一体、何を意味しているのだろうか?

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