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綺羅  作者: 飛来颯
13/17

顛末         後編  

 栗栖要は、柄にもなく緊張していた。

 《古賀恭介》との直接対決だ、興奮が冷めやまない。

 ‥‥‥これで、全てが終わる。さぁ、煮て食おうか?焼いて食おうか?

 調理は色々だが、殺さない程度に傷めつけとけ。との、上からの御達しだ。

 (無礼のないよう叩きのめさないとね)

 栗栖は貸し倉庫の備え付けにあった、掃除ロッカーに行く。

 そこからホウキではなく、誰かが隠しておいた木刀を取り出した。

 こんな物騒な商売だから一応、念の為に、護身用の為に置いているだけだ。

 アクマで一応だが‥‥‥

 栗栖は右手に木刀、足にはローラーブレードを履き、指定の位置へ急いだ。

 恭介に判りづらくする為、灯りを全て消す。すると、倉庫の中は昼の日中でも暗闇と化す。

 そして栗栖は、ゴーグルタイプの暗視メガネを装着した。

 恭介を暗闇の中を察知し、どうやら一気に叩きのめすつもりだ。



 本当のことを言ってしまえば、実は〝古賀議員の失脚〟というのは、ただの建前であり『マーロン』の本来の目的は別のところにある。

 それは栗栖の指導員として、一緒に行動していた久保田の監視である。

 普通に接しながらも、久保田が不穏な動きを見せたら、逐一『マーロン』の《マスター》に報告するのだ。

 それは、死んだ本田留美子の隠した〝麻薬の隠し場所〟に関係していた。

 マスターの話はこうだ。

 『死んだ彼女‥‥‥本田留美子は、どうやら隠していたブツで、色んなヤツらから付け狙われてたらしい。なんせウチのオリジナルだから、下手に他所へ出回ったらウチは困るんだ。本来なら俺と隠し場所を決めるんだが、あらかたの場所はバレてる。だから、今回は彼女に任せた』

 まさか、彼女が殺されるなんて‥‥‥俺でさえ、隠し場所は知らないんだ。久保田みたいなクズ刑事に先を越されてたまるか。

 『俺は、ヤツをお前の教育係にするつもりだ。悪いが、カナには久保田の監視を頼みたい。やる方法については、お前に任せる』

 栗栖は、意気揚々と《マスター》に声を掛けた。

 『じゃあ、古賀恭介ってヤツに近付きながら、久保田のおっさんを見張ればいいんだな』


 『マーロン』の作る大方のあらすじはこうだ。


 《本田留美子》という運び屋がいた。

 表向きでは看護婦として病院で働き、裏向きでは『マーロン』から受け取った〝商品〟を時にはアンティークの時計の機械部分に忍び込ませたり、時には旅行用のトランクケースの板の内側に入れたりなどした。

 移動手段は、もっぱら船が多く。アジア圏は殆ど行ったと言えるだろう。

 彼女は大体、長期休暇を取って渡航するから旅行会社のパンフレットでも手にしとけば、誰も怪しむ者はいない。


 だが、その時は違った。それは『マーロン』オリジナルとして作った、麻薬を他所の国に〝運ぶ〟時に起きた。


 どこから情報が洩れたのか知れないが、同業者らしき人間をチラホラと見かけるようになった。

 そこで『マーロン』の《マスター》は、留美子に一時的に、どこか違う場所に隠してもらうことにしたのだが、その直後に、彼女は殺害されたので〝商品〟は行方知れず扱いになった。


 彼女の旅客船での渡航記録もなかったので、『マーロン』としては今回の事は〝なかった〟事にしようとした。


 その後日に〝商品〟と同じ薬を使用した客が、路地裏で廃人と化した姿で見つかるまでは‥‥

 商品自体に欠陥が見つかるとは、知る由もなかった《マスター》は流石にうろたえた。

 そんな欠陥品が、市場に出回りでもしたら、アンティークショップ『マーロン』の信用が地に落ちるどころか、粗悪品を売ったとして、この業界で干されるかもしれないのだ。

 『マーロン』は時期尚早に麻薬を回収する為、〝入社試験〟と称して、栗栖に久保田の見張りを命じた。

 その時の一番の手掛かりとして、留美子の恋人《曽根恭介》の名前が上がったのだ。

 しかも久保田は、留美子殺害の件で恭介の周りをうろついていたらしい。

 そういうことなら、誰も刑事の久保田を、疑う者はいないだろう。ただし、押収した麻薬をちょろまかしがバレるまでは‥‥だが。

 

 久保田は、ブツを見つけるまでの隠れ蓑として、栗栖を組織に連れてきたのだが、彼の思惑を逆手に取ることにした。


 すぐに〝表向き〟の行動を始めた栗栖だが、古賀親子を店に連れて来て『マーロン』の従業員に大いに驚かれた。

 まさか、曽根恭介が結婚して《古賀》の婿養子になっているなんて夢にも思わなかったのだろう。情報不足だと、こういうミスが目立つ。

 その点で言えば、久保田の情報網の方が正確で確かということになるのだが、栗栖にしてみれば、別に仕事がダブルブッキングしようが一向に構わなかった。

 

 この案件の全てを、栗栖に委ねてしまったから文句は言えず、『マーロン』は見守ることにした。

 これが今回、アンティークショップ『マーロン』の仕掛けたシナリオの一部である。

 


(後は、標的が網にかかるのを待つだけ。その間、俺は〝お楽しみ〟に興じるだけだ)


 

 古賀恭介が貸し倉庫に来るまで、心待ちにしていたが、ヤツは一向に姿を現さない。

 次第にイライラが募り、栗栖の顔から笑顔が消えた。

 (なんで、早く来ないんだよ。気分が萎えるじゃないか)


 ‥‥‥それもその筈である、古賀恭介は倉庫の入り口付近で、中の様子を窺っている。

 ご丁寧にも、人一人分が入る隙間が開いていた。

 だが、倉庫の中は思った以上に薄暗く、一体どこに何があるかさえ、分からない状態だった。

 (くそっ、これじゃあ中が見えない。灯りがどこかにないのか?)

 少し前のめりになった瞬間、暗視メガネで恭介の行動を窺っていた栗栖は、ほんの少しの動きも見逃さなかった。

 (‥‥‥捉えた!)

 暗視メガネで恭介の姿を見つけた栗栖は、すかさず彼の動きを見て、ゆっくりと近付いていく。そして‥‥‥

 (‥‥‥あれ、何かが近付く音がする?)

 それは、恭介の体が倉庫の3分の1くらいに差し掛かった所である。何かが引き摺る様な、それに近い様な音が遠くの方から聞こえてくる。

 (‥‥‥‥この音は、何だ?)

 一瞬、油断した隙に敵は姿を現す。


 ガアァァァァ‥‥‥ガアァァァ‥‥!!

 

 (これは、何の音だ? ローラーブレード!? こんな所でそんな、まさか?)

 恭介は、慌てて電気スイッチを探すが時すでに遅し、第1の衝撃が彼に襲い掛かる。

 

 ヒュッ、という空中を切る音と共にガッ、と何か棒みたいな物で叩かれた様な激しい痛みが背中に走った。

 「ギャアアアアア!」

 まるで眠っていた神経が、呼び起こされたかの様に、電流がビリビリと恭介の全身を駆け巡っていった。

 (痛い、イタイ‥‥‥いたい)

 顔の筋肉が、歪むような痛さが背中から伝わり、恭介はうずくまる様に倒れた。

 「おっさん。倒れるには、まだ早いぜ!」

 真っ暗闇の中、恭介と栗栖の声だけが響いてくる。宛てどもなく、もがく恭介を滑稽な目で栗栖は、見ているのだろうか?

 必死になって逃げ惑うが、栗栖の動きは的確に恭介を狙いうちにしてくる。

 「寝てんなよ。お楽しみは、これからだ!」

 そして栗栖は恭介に、第2の衝撃を与えにる為にローラーブレードを滑らす。

 今度は木刀を持ち方を替え、突進してくると、またヒュッという空中を切る音をさせ、木刀を恭介目掛けて木刀を振り落とした。

 「グゥアアアァァァァ!!!」

 ボキッ、という鈍い音と強烈な痛みが、恭介を襲う。

 声にならないような雄叫びを上げ、わずかに残っていた恭介の理性は、どこかに吹き飛んでしまい、そのまま意識を失ないそうになりながらも、気力だけで意識を持ちこたえていた。


 周りが暗くても暗視メガネのおかげで、恭介のぐったりとした姿を見た栗栖は、嬉々として木刀をもう一度、振り上げようとした。

 また同じ痛みがくれば、ショック死するかもしれないが、栗栖は容赦がなかった。


 もう駄目かもしれない、恭介は慌てて目をつむった。


 だが‥‥‥‥いつまで経っても、次の衝撃は来なかった。

 (一体どういうことなんだ?)

 恐る恐る、目を開けると‥‥‥いつの間に電気を点けられたのか、倉庫内は明々としており、目の前には全くといっていい程、微動だにしない栗栖が、恭介の前で突っ立ていた。

 意味も分からす、呆然とする恭介にとんでもない事実が突きつけられる。

 「涼介くん‥‥‥サオリが守ってあげる」

 (‥‥‥沙織、沙織なのか?)

 あまりの事に一瞬、自分の耳を疑った。

 それは、恭介が懸命に探していた愛娘であったが、どこか彼女の様子が変だった。

 「く‥‥っそ、な‥‥にす‥‥るんだ」

 息絶え絶えの声で、恭介の目の前で崩れ落ちていく栗栖のすぐ後ろに、真っ赤になった刃物を小さな手でしっかり握り締めている。

 どうやら栗栖の背中を、刃物で一突きしたらしい。彼女自身も返り血を浴びていた。

 「さ‥‥‥沙織、何やってんだ‥‥」

 所々破かれた服に、虚ろな瞳の沙織を見た恭介は背筋が凍った。

 「涼介くんにね‥‥‥悪魔が乗り移っちゃった。はや‥‥く、追い出さないと」

 (そんな‥‥‥沙織!)

 沙織は長時間拘束され、次第に彼女の心は蝕まれていった。

 そして時間が経つにつれ、沙織は悪魔が彼に〝取り憑いた〟と思い込むようになっていった。

 早く助けねば‥‥‥気持ちは急くのに、体をロープでグルグル巻きにされているのだ。動ける筈もなく、途方に暮れてたところ。彼女が隠されている保管室に、屈強な男たちが現れた。

 やな予感がした。男たちは、沙織を上から下まで舐める様な視線で眺めると、1人の男が舌なめずりしながら沙織の服を破こうとし始めた。



 (涼介くん‥‥‥涼介くん‥‥助けて)

 言葉にならない嬌声を上げると、涼介くんが助けに来てくれた‥‥‥‥ズルいと思う。

 いつも涼介くんは、サオリの手が届かない所にいるの。


 ‥‥‥だから待っててね。サオリが、涼介くんに憑いている悪魔を、追っ払ってあげる。


 「パパは、涼介くんに悪魔が憑いているの、知ってたんだよね。だからサオリを止めようとしたんだね」

 背中を刺され、虫の息となっている涼介にとどめを刺そうとした時、それは起きた。


 バリッン!! ガッシシャャ‥‥‥ン‥‥!


 大きい音を立てて、窓ガラスが割れる音がした。

 何事だ!? 恭介は目を凝らして、音がした方に目を向けるが、傷の痛みと大量の失血により、頭が朦朧としてきて前がよく見えない。 

 だが、窓から何か投げ込まれたのと、その物体から煙らしきものが、部屋中に広がっていく。

 恭介は必死になって、沙織の元へ行こうとするが、彼女の心は今や抜け殻状態で、目の焦点でさえ合ってなかった。

 恭介の方も、かろうじて意識を保っていたが、やがてパタリと気を失ってしまった‥‥‥

 

 

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