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モデル


龍之介が剣道の練習がしたいと道場に行ってしまってたので

ベロベロに酔っぱらってる龍之介の母を家に送る綾香を手伝うことにした。

泥酔している龍之介の母を綾香に協力して肩を貸す。

谷口家は本当に家の近所だから別に苦ではない。難なく運ぶことに成功する。


「ごめんね、どうしようもないんだから」


「いいですよ、別に」


「あ、これ楓太くんに渡しといてよ」


そう言って差し出されたのは綾香の会社の名刺だった。

有名なティーン向けの雑誌で学校の女子は大抵読んでる。


「さっきのモデルの話、本気だったんですか?」


「あったりまえじゃない。楓太くんなら即戦力よ」


「でも綾香さんこっち帰って来たの2年ぶりでしょ。

 ちゃんと楓太のこと見てからじゃなくていいんですか?」


「大丈夫。あの美少年くんの2年後くらい想像出来てる。

 実際、龍も春奈ちゃんも予想通りの成長してるし」


「まぁ、相変わらず女の子みたいですけどね」


「ほんとツレないわよねぇ。私ならあんな幼馴染みいたら

 とっくに恋に落ちてるわよ。楓太くんの何が嫌なわけ?」


「・・嫌って言うか。単純に自分より弱い男はナシですよ」


「何それ、可愛くない趣味ねぇ。じゃあ、龍の方がタイプなわけ?」


一瞬顔が強張るのが分かった。綾香には気付かれなかっただろうか?

恐る恐る様子を伺うがバレてないみたいだ。暗闇で良かった。


「龍之介が全国ベスト8で終わったでしょ。まぁ、去年は綾香さんいなかったけど

 結果くらいは聞いてますよね。あれ、私はクジ運のせいだと思ってるんですよ。

 クジ運が良ければ龍之介は2位になれてたと思います」


「どういうこと?」


「龍之介が負けた相手、全国1位になったんです。

 あの龍之介が手も足も出なくて・・。鳥肌立ちました」


そこまで言って綾香は気付いたのか「なるほどね」と返した。


「じゃあ、その全国1位に恋してるってことね?」


「そうです。私が1位なんでね。やっぱ相手も1位じゃないと」


「言うわね~。で、相手名前は?」


「袴には風坂って書いてありました。下の名前は分かんないんですけど。

 でもまぁ、全国なんでね。どこの人かも分からずじまいで」


「春奈ちゃんらしくないわね。直接、連絡先くらい聞きそうなのに」


「いや、それを忘れるくらいカッコ良かったんですよね。

 だから今年会えたらちゃんと聞こうって思ってるんです」


「そっか、頑張れ」


「はい」


名刺渡してよね、ともう1度クギを打たれると綾香と別れた。






「モデル?」


翌日、綾香の言いつけを律義に守り楓太に名刺を渡してやると

きょとんとした顔をされる。

まぁ無理もない。こんな田舎の高校でモデルなんて単語は相応しくない。

ちゃんと綾香が2年ぶりに東京から帰ってきて楓太にモデルを勧めてるという

経緯を丁寧に説明してやる。

楓太だけに説明してるつもりだったが、どこから聞きつけたのか

「楓太くんを愛でる会」の皆さんもやってきてしまった。


「すっごーい。こんな有名の雑誌のモデルなんて!」


「私、この雑誌、毎月買ってる」


「楓太くんならカッコ良いから絶対人気出るねっ」


「それ寂しいかも。でも、やってほしいなぁ」


「モデルやってるうちにドラマとかのオファーとかも来るかもね」


と好きなことを言いたい放題だ。

ついには「やりなよー」「やるべきだよ」と楓太を持ち上げる。

そんな周りの盛り上がりように楓太も引き気味だった。

ハイエナの真ん中で取り残されたポメラニアンは助けを求めるように春奈を見る。

私はライオンかよ、と思いつつちゃんと助け舟を出してやる。


「楓太、別に無理しなくていいから。

 嫌だったら私からちゃんと綾香さんに言っとく」


でもそれが女の子たちには不満だったらしい。

自分本位なブーイングの声が春奈に向かって飛んでくる。

しばらくは黙ってたが、だんだん不快になりキレた。


「決めんのは楓太なの!あんたらでどうこう言う資格ないからっ!!」


どーだ、ライオンに噛み付くから痛い目に合うんだ、と自嘲気味に思う。

その怒声に怯み、ちょっと不満気な顔は見せたが文句を言いながら

少し遠くに離れた。自分たちにも非があると思ってくれたのが救いだ。


「ありがと、春ちゃん。

 でも、せっかくの綾香さんのお誘いだけど無理かな」


「え、そうなんだ。別にいいけど何で?」


「だってこれ引き受けたら東京行くんでしょ?」


「ん、そうだと思うけど」


まさか高校2年生にもなってホームシックとか言うなよ、と構える。

でも楓太の口から出てきた言葉はもっと意外なものだった。


「春ちゃんに守ってもらえないし」


「は?」


「今みたいに春ちゃんに守ってもらえないじゃん」


そう言って、ふんわり笑う。

春奈はどう返したらいいか分からず少し考てから言った。


「・・悪い気はしない」


「えへへ、ありがとね」


微笑みながら楓太が春奈に頭を差し出す。撫でてほしいサインだ。

取り巻きの「愛でる会」の視線が怖いが、こういうときライオンは敵ナシで最強だ。


あー、なんだかんだ女々しいとか言いながら楓太は可愛い。

綾香さんに言ったとおり、そういう目では見れないけどポメラニアンなら大歓迎だ。

アホな子ほど手がかかって可愛いとか言うしな・・、と思いながら頭を撫でてやる。





「昨日、母さん運んでくれたんだなってな。サンキュー」


「もうホント龍之介って図体大きいのに影薄いっていうか。

 いついなくなっか分かんなかったわ」


「それはない。姉ちゃんとなんか話してただろ。

 あれに夢中で気付かなかっただけで俺は断じて影は薄くない」


部活の休憩中、水分を取りながら

綾香さんと昨日話したことを龍之介に報告した。


「へぇ、姉ちゃんが楓太をモデルにな・・。

 いつかはやるだろうと思ってたけどな」


「まぁ、楓太はやる気ないみたいだけど」


「それも勿体ない話だけどなぁ」


「まぁね。それで剣道は調子はどう?」


「うーん、厳しいな。良くて2位止まりだろうな」


「弱気だね」


「春奈も見てただろ、あれは勝てねぇわ。

 俺はあの大会にすごい力入れてストイックにやってたけど

 それを軽々超えられたんだぜ?あの風坂は化け物だわ。

 下手したら爺ちゃんより強いぜ。・・限界感じたわぁ」


「うわ、根性腐ってるじゃない。叩き直してやろうか?」


「手厳しいね、遠慮しとくわ」


「何よぅ、もう私じゃ相手にならないっての?」


「・・違ぇよ、ばーか。女のこと叩けるか」


そう言う龍之介に春奈は何も言い返せなかった。

普段は春奈のこと女扱いなんてしないくせにこういうとこは妙に気を遣うのだ、こいつは。

しかも、よく見ると龍之介の耳は真っ赤だ。慣れなこと言うからだ、バカ、と思う。

ようやく、龍之介が離れてから「・・差別じゃん」と小さく呟いた。



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