ラブレター・ボックス 【シナリオ形式】
■登場人物
ヒロキ:夏川浩毅。主人公の高校生男子。少しワイルドで茫洋とした感じ。
ユウナ:桐田夕菜。ヒロキの隣の席の女子。ちょっとだけ感情的な女の子。
シュウ:葉室修。ふたりのクラスメート。少女漫画の二枚目風。
○夕方の昇降口
帰り支度姿のヒロキ、呆然として目を見開く。(無表情のまま目だけ)
視線の先には、ゲタ箱のひとつを開けて手紙を入れようとして
いたユウナが、顔を引きつらせてこちらを見ている。ゲタ箱は傷んでおり
少々汚れている。
ヒロキ(落ち着きはらって)「男子のゲタ箱にようこそ。隣の席の桐田夕菜くん。」
ユウナ「わわわわわっ!」
ユウナ、手紙を隠そうとしてあわてて手を振りまわす。(が、かえって
まるわかりになってしまう)
ユウナはどうしていいかわからず、後ろを向いて必死に手紙を隠そうとする。
ヒロキはゲタ箱を一瞥し。
ヒロキ「ふーん…」「……葉室か。なるほど。」
ユウナ、顔からボッと火が出る。
そして、手を合わせて必死に懇願。
ユウナ「おねがい! このことは誰にも言わないで! 今日、現国の教科書
見せてあげたじゃない!? ね、夏川!」
ヒロキ(クールに)「別に言いふらしたりしないけどさ。」
ヒロキ、ゲタ箱を見ながら
ヒロキ「ゲタ箱にラブレターたぁ…メールの時代に、まだいるんだねぇ」
ユウナ(怒)「いいでしょ! 自分の字で気持ちを伝えたかっただけよ!」
ユウナは混乱のあまりキレてる。
ヒロキ、何かに気付いた様子。
ヒロキ「自分の字で、か。…ははぁ、なるほど。桐田は知らないんだな。」
ユウナ「え?」
ヒロキ「このゲタ箱に手紙を入れたらどうなるか、さ。」
ユウナ(驚)「な、なにかあるの?」
ヒロキ「ほら、やっぱり知らない。」
ヒロキ、ユウナに背を向けて立ち去ろうと。
ヒロキ「知ってたらそんなことしないだろうし。」
ユウナ「ちょ、ちょっと! ゲタ箱に手紙を入れたらどうなるのよ!?」
ヒロキ、肩越しの視線で哀愁を漂わせて
ヒロキ「んー…今日は立ち話をしたい気分じゃないんだ。失恋したもんで。」
ユウナ(驚)「失恋……夏川にも好きなコがいたの!?」
また背中越しに、哀愁を漂わせながら
ヒロキ「その女子に、別の好きな男がいてね。」
ユウナ(焦)「そ…それは同情するわ。だけど…」
モノローグ「わかってないなあ……」
ヒロキ「なもんで、こんなとこで桐田と立ち話するより、とっとと帰って
バッハでも聴きながらブラックコーヒーを味わいたい気分なのさ。」
書き文字:「「トッカータとフーガ」 J.S.バッハ作曲」
ユウナ「あっ、待って!」
ユウナ、ヒロキの袖を掴み、引きつった愛想笑い。
ユウナ「コーヒーならおごるから。気分直そ。ね?」
○ファミレス
ヒロキ「で、ドリンクバーのコーヒー?」
ユウナ(汗)「今月ちょっと苦しくて」
書き文字:占いとかおまじないとかいろんなものにお金を……
ヒロキ「まぁいいや。桐田とお喋りしたら、少しは気がまぎれるだろ。」
ユウナ「で!」「あのゲタ箱に手紙を入れたら、のことだけど。」
ヒロキ、コーヒーをすすりながらため息をついて
ヒロキ「やめてくれ。まだそんな話をしたい気分じゃない。」
ユウナ「でもっ!」
ヒロキ「もうちょっと楽しい話をしようよ。それで気分が明るくなったら、
ゲタ箱に手紙を入れるとどうなるのか教える。」
ユウナ、ふてくされる。
ヒロキ「葉室のことはいつから好きだったの?」
ユウナ、顔を赤らめ
ユウナ「えっと、冬休み。旅行先で偶然、会って……」
ヒロキ「へえ、そんなことが」(引きつり笑い)
モノローグ「なんだよ、俺の方は一学期からなのに……#」
ユウナ(探るように)「ねえ、そろそろ話してよ」
ヒロキ「何を?」
ユウナ「何をって! ゲタ箱…」
ヒロキ(わざとらしく手を額に当てながら)「あー」「もうちょっと待って
くれ。もうすこし気分が直ってから。」
ヒロキ、メニューを手に
ヒロキ「食いもんも頼んでいい?」
ユウナ(怒りを抑えながら)「……500円以下にしてね。」
(*以下約15行は、元ネタを知ってる人にも楽しんでもらうために不可欠の
要素です。一見不要に見えるかもしれませんが絶対に省略しないで下さい)
テーブルに枝豆が一皿、置かれてる。
ユウナ、怒りを抑えてヒロキを見ている。
ヒロキ、わざとゆっくり弄びながら枝豆を味わう。
ユウナ「ねえ、そろそろ……」
ヒロキ「まあ、あわてるなって。…それにしても、電車、混むね」
ユウナ「は?」
ヒロキ、枝豆を食べながら、
ヒロキ「電車が混むと悪いやつがいて。女の子のお尻に触ったりするんだよね。」
ユウナ(怒りに耐えつつ)「それが何か関係あるの?」
ヒロキ「関係ないよ。雑談だもん。」
ユウナ、拳を握り締める。
ユウナ「な~つ~か~わ~……ッ#」
店員の声「いらっしゃいませー」
そこへ、男子高校生3~4人が入ってくる。その中にシュウもいる。
ヒロキ「おー、葉室」
シュウ「なんだ、夏川か。」
ユウナ、全身でドキッ!!
シュウ、ヒロキに近づき
シュウ「こんなとこでデート? 夏川と桐田ってほとんど公認カップルだな。」
ヒロキ「ええ? 彼女ってよりポン友なんだけどな~。」
シュウ「またまたぁ。席も隣だし、いつも仲いいじゃん。」
ユウナは真っ青になり硬直。
シュウ、離れた席(仲間たちの方)へと立ち去りながら
シュウ「あ~あ、俺もカノジョ作ろっかな~」
ヒロキ「がんばれよー。」
ユウナは下を向いて震えている。
ヒロキ、それに気付く。
ユウナ、歯を食いしばってボロボロと涙をこぼし出す。
ヒロキ「あ゛……」
ヒロキ、きょろきょろ。まわりの客の視線が集まってる。
ユウナ、何も言わずに肩を震わせて泣き続けてる。
ヒロキ(焦)「出…出ようか。」
○町中
歩いているヒロキとユウナ。
ユウナはぼろぼろと泣きつづけている。
モノローグ「なんか…サイテーだ。」
ヒロキ、ため息をつく。
ヒロキは泣いてるユウナを見ながら
モノローグ「葉室と桐田…俺は恋路を邪魔するより、手伝うべきなんだろう
な…友達として。」
ユウナ(泣きながら)「ねえ…もう気がすんだでしょ。教えてよ……!!」
ふたり、立ち止まり、
ヒロキ「ああ、わるかった。教えてやる。これを聞いたら、手紙なんかじゃなく
直で気持ちを伝えたくなるから、きっと。」
ユウナ「う、うん!」(あわててハンカチで涙を拭く)
ヒロキ、ユウナに顔を近づけ、
ヒロキ「あのな、ゲタ箱に手紙を入れるとな。」
ユウナ(緊張)「う、うんっ!!」
ヒロキ、耳にキスできるくらいまで近づいて
ヒロキ「……封筒が汚れるんだ。」
驚いて目を見開いてるユウナ。
ぼかんと口を開け立ち尽くしているユウナを置いて、ヒロキはケータイを
手に立ち去る。
ヒロキ「じゃ、また明日。」(ケータイに)「あ、葉室、今ひま?」(小さい
フォントで)「さっきの話だけど……」
季節の風が吹き抜けていった。
~ おしまい ~
ウェブ漫画『ラブレター・ボックス』 (作画:やびた)
https://www.pixiv.net/artworks/81626626
元ネタ 落語『馬のス』